↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/126

第39話 返された盾

翌朝、レオンたちは授業が始まるより早く、施設管理棟の裏へ集まっていた。


廃棄書類保管庫の前には、新しい木材と工具が用意されている。壊した扉を今日の朝までに直せという、Dクラス担任からの指示だった。


「扉代、高くないか?」


ガルドが請求書を見て顔をしかめる。


「錠前も壊しましたから」


「俺が壊したのは扉だけだ。錠前は扉についてただけだろ」


「同じことです」


「納得いかねえ」


ミナは工具箱から釘を取り出した。


「早くしないと授業に遅れる」


「分かってるよ」


3人で古い木材を外し、新しい板を取りつける。ガルドが板を押さえ、レオンが寸法を確認し、ミナが釘を渡した。


作業そのものは難しくない。


レオンは板のずれを確かめながら、昨日のことを考えていた。


対象B。


第2観測区画。


観測段階2。


そして、Dクラスの担任が口にした言葉。


第0研究室は、存在していたことを誰かが消そうとしているから危険だ。


担任はどこまで知っているのか。第0研究室の関係者なのか。それとも、以前に同じものを調べたことがあるだけなのか。


「曲がってる」


ミナが言った。


「何がですか?」


「釘」


レオンが見ると、打ちかけの釘が斜めになっていた。


「考え事をしながらやるなよ」


ガルドが呆れた顔をする。


「すみません」


「昨日からそればっかりだな」


「昨日は謝っていません」


「態度が謝ってた」


レオンは曲がった釘を抜き、もう一度打ち直した。


修理を終えた頃、施設管理棟の中年職員が裏口から現れた。新しくなった扉を何度か開閉し、錠前を確認する。


「素人仕事にしては悪くない」


「これで終わりですか?」


ガルドが尋ねる。


「終わりなわけがあるか。費用は後で請求する」


「直したのに?」


「材料代は別だ」


ガルドが肩を落とした。


職員は壊れた木材を荷車へ載せながら、3人を順番に見る。


「昨日、ここで誰かを追ったらしいな」


レオンは答える前に、ミナを見る。ミナは小さく首を振った。


「人影を見ました」


「顔は?」


「確認できませんでした」


「そうか」


職員は、それ以上追及しなかった。


「最近、この辺りで変な物音がする。勝手に調べようとするな。見つけたら職員へ知らせろ」


「知らせれば、調べてもらえますか?」


レオンが尋ねる。


職員の手が止まった。


「俺たちにも、触れていい場所と悪い場所がある」


「地下は、どちらですか?」


職員は答えない。壊れた木材を載せ終えると、そのまま荷車を押して施設管理棟へ戻っていった。


「今の、知ってる顔だったな」


ガルドが言う。


「でも、話したくない」


ミナが職員の背中を見る。


「話せないのかもしれません」


レオンは新しくなった扉へ目を向けた。


担任だけではない。


施設管理棟の職員も、地下に何かがあると知っている。しかし、正式な記録には存在しない。


学院の中で、何人が同じ秘密を抱えているのか分からなかった。


3人は作業道具を片づけ、Dクラスの教室へ向かった。


扉を開けた瞬間、ガルドが足を止める。


「何でだ?」


彼の机の横に、大型盾が立てかけられていた。


昨日、第2観測区画の鉄扉の内側へ残したはずの盾だ。


「誰かが運んだ?」


ミナが教室を見回す。


まだ授業前で、生徒は数人しかいない。誰も盾に関心を示していなかった。


ガルドは急いで盾へ駆け寄る。表面には、白い仮面の攻撃を受けた傷が残っている。持ち手も重さも、間違いなく本人の物だった。


「壊されてない」


盾の内側には、白い紙が挟まれている。


レオンが取り出す。


『忘れ物を返却する』


それだけだった。


署名はない。


「親切」


ミナが言う。


「親切な奴は、地下に閉じ込めたりしねえよ」


ガルドが紙を奪うように受け取った。


「どうやって教室まで持ってきた?」


「学院内を自由に動ける人物なら可能です」


「教師か、職員?」


「生徒かもしれない」


ミナが答える。


誰かが夜の間に観測区画へ入り、盾を回収し、Dクラスの教室まで運んだ。


つまり、相手は地下の出口だけでなく、ガルドの所属クラスと席まで把握している。


レオンは盾の内側を確認した。


紙が挟まれていた場所の近くに、白い蝋が僅かに付着している。


白い仮面。


手紙に使われていた封蝋と同じものだ。


「昨日の人ですね」


「何のために返した?」


ガルドが尋ねる。


「もう必要がないから」


ミナが淡々と答えた。


「必要がない?」


「私たちのことを知った。観測対象にも追加した。盾を置いておく理由がない」


ガルドの表情から、盾が戻ったことへの喜びが消えた。


「返してやるから、また来いってことか?」


「可能性はあります」


「行くの?」


ミナがレオンを見る。


レオンはすぐには答えなかった。


地下へ入ったことで、ミナとガルドまで観測対象になった。次に行けば、さらに相手の思惑へ近づくかもしれない。


だが、離れたところで観測が終わる保証もない。


「今は行きません」


レオンが答える。


「諦めるのか?」


「準備が足りません」


昨日は追跡を優先し、逃げ道を確保しないまま地下へ入った。その結果、戻り道を塞がれ、相手の用意した観測区画へ誘導された。


次も同じように動けば、同じ失敗をする。


「地下の地図を作ります。入口と出口、罠の位置、観測区画までの距離。それから、白い仮面が使った転移魔法についても調べます」


「また3人で?」


ガルドが聞く。


「はい。ただし、次は地上にも協力者を残します」


「誰を頼る?」


レオンの頭に、何人かの顔が浮かんだ。


リゼット。


セレス。


Dクラスの担任。


だが、どこまで話していいか判断できない。


「それを決めるためにも、まず相手のことを知る必要があります」


そのとき、教室の扉が開いた。


Dクラスの担任が入ってくる。


担任はガルドの盾を見ると、一瞬だけ足を止めた。


「戻ってきたか」


「先生が運んだんですか?」


ガルドが尋ねる。


「知らん」


担任は教壇へ向かい、授業用の資料を置いた。


「だが、持ち主の元へ戻ったなら、今度は忘れるな」


「忘れたんじゃなくて、閉じ込められたんですけど」


「同じ場所へ置いてきたことに変わりはない」


担任は黒板へ今日の日付を書く。


レオンはその背中を見つめた。


ガルドが盾を地下へ残したことを、担任は知っている。


昨日、レオンたちは盾のことを話していない。


「先生」


レオンが呼ぶ。


担任の手が止まる。


「何だ」


「なぜ、盾が地下に残ったことを知っているんですか?」


教室が静かになった。


担任はゆっくりと振り返る。


「授業を始める」


質問には答えなかった。


しかし、その沈黙だけで十分だった。


Dクラスの担任は、昨日の地下で起きたことを知っている。

良ければブックマークしていただけると泣いて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。