第38話 戻った先で
実は今日休みなので、朝から投稿予約作りまくってます。
鉄扉の向こうから、ガルドの大型盾が床へ倒れる音が聞こえた。
「取りに戻れないのか?」
ガルドが扉を睨む。
「今は無理です」
レオンは扉の中央を確認した。金属板を差し込む窪みはあるが、鍵は内側に残っている。ゼロスレッドを通せる隙間もなかった。
「あとで必ず回収します」
「壊されてなきゃいいけどな」
「壊れても直せる」
ミナが言う。
「お前が直すわけじゃねえだろ」
ガルドは不満そうだったが、鉄扉から離れた。
3人は来た道を引き返す。だが、分かれ道へ戻ると、落下した石板が通路を塞いでいた。
ガルドは石板へ手を当てる。
「盾があれば叩けたんだが」
「素手では?」
「俺を何だと思ってる」
「鉱人種」
「種族だけで石壁を壊せると思うな」
レオンは石板へゼロスレッドを伸ばした。端から裏側へ糸を通そうとするが、隙間がほとんどない。動かすための装置も、反対側にあるらしい。
「別の道を探すしかありません」
「右の通路」
ミナが分かれ道の反対側を見る。
先ほどは足音を作る魔導器が置かれていた道だ。
「罠では?」
「罠でも、通路はある」
ほかに選択肢はない。
3人は右の通路へ進んだ。少し先には、箱型の魔導器が置かれている。内部の部品が動き、誰かが走るような音を繰り返していた。
レオンがゼロスレッドを内部へ入れ、魔石との接続を外す。偽の足音が止まり、通路に静寂が戻った。
「こんな物まで用意してたのか」
ガルドが魔導器を見下ろす。
「追われることを想定していたんでしょう」
「俺たちが来る前から?」
「対象Bの行動を記録していたなら、その可能性があります」
その言葉に、3人とも黙った。
通路の先は緩やかな上り坂になっていた。壁の魔導灯は消えていたが、奥から僅かに空気が流れてくる。
「風がある」
ミナが言う。
「地上につながっています」
しばらく進むと、行き止まりに見える壁へたどり着いた。だが、下側から外の光が細く差し込んでいる。
レオンは壁へ手を触れた。
木だ。
石に見えるよう表面だけが加工されている。
「扉になっています」
「鍵は?」
ガルドが尋ねる。
「ありません。押せば開きます」
3人で力を込めると、壁がゆっくりと外側へ倒れた。
眩しい夕方の光が差し込む。
出た場所は、施設管理棟から少し離れた資材置き場だった。積み上げられた古い石材の陰に、地下への出口が隠されていたらしい。
「戻れたな」
ガルドが大きく息を吐く。
「時間は?」
ミナが空を見る。
日はまだ沈んでいない。地下へ入ってから、それほど長い時間は経っていないようだった。
「倉庫を確認します」
レオンたちは資材置き場を離れ、廃棄書類保管庫へ戻った。
壊した扉は倒れたままだった。
しかし、倉庫の中が変わっている。
床へ落ちていたはずの台帳がない。作業台の刃物も、切られた綴じ糸も、紙片も消えていた。
地下への入口だった床板も閉じられている。
「片づけられた」
ミナが呟く。
「俺たちが地下にいる間にか?」
ガルドが倉庫を見回す。
「白い仮面とは別に、仲間がいたんでしょう」
レオンは作業台へ触れる。埃の上に、新しい指の跡が残っている。
こちらが地下を調べている間に、地上の証拠を消した。
最初から、3人を地下へ誘導することが目的だった可能性もある。
「紙は持ってる?」
ミナが尋ねる。
レオンは鞄を確認した。
観測記録は残っている。
『対象Bの同行者、2名を確認』
『以後、観測対象へ追加する』
少なくとも、何も得られなかったわけではない。
「ここから離れましょう」
レオンが言った。
「正面から出るのか?」
「ほかに道はありません」
3人が壊れた扉を越えた、そのとき。
「ずいぶん派手に壊したな」
聞き覚えのある声がした。
廃棄書類保管庫の前に、Dクラスの担任が立っていた。
腕を組み、壊れた扉と3人を順番に見る。
「放課後の自主訓練にしては、場所が妙だ」
ガルドが僅かに盾を探すような動きをした。だが、大型盾は地下に残っている。
ミナは無言で影の位置を確認している。
レオンは2人の前へ出た。
「倉庫の中に人がいたので追いました」
「その人間は?」
「逃げられました」
「地下へか?」
3人の動きが止まる。
教師は壊れた扉の奥を見ていない。床板もすでに閉じられている。
それでも、地下と断定した。
「地下があることを知っているんですか?」
レオンが尋ねる。
教師はすぐには答えなかった。
「お前たちは、何を見た?」
今度はレオンが黙る。
対象B。
第2観測区画。
観測段階2。
教師が第0研究室と関係していない保証はない。
「答えられません」
レオンが言う。
「そうか」
教師は怒ることも、問い詰めることもしなかった。
壊れた扉の前へ歩き、内側を確認する。
「なら、俺も聞かなかったことにする」
「いいんですか?」
「よくはない。学院の設備を壊し、許可なく立入禁止区画へ入り、危険な人物を追った」
教師は3人を見る。
「本来なら停学でもおかしくない」
ガルドの顔が引きつる。
「だが、報告すれば記録が残る」
レオンは教師を見つめた。
「記録を残さない方がいいと?」
「俺はそう言っていない」
教師は壊れた扉から手を離す。
「明日の朝までに、この扉を直せ。費用は3人で負担しろ」
「それだけですか?」
ミナが尋ねる。
「それだけだ」
教師は立ち去ろうとして、足を止めた。
「1つだけ忠告しておく」
振り返らないまま、低い声で続ける。
「第0研究室は、存在しないから危険なのではない」
レオンの手が、鞄の中の観測記録へ触れた。
「存在していたことを、誰かが消そうとしているから危険なんだ」
教師はそれ以上何も言わず、施設管理棟の方角へ歩いていった。
残された3人は、しばらくその背中を見つめていた。
「知ってたな」
ガルドが言う。
「少なくとも、第0研究室のことは」
ミナは教師が去った道を見る。
「追う?」
「今日はやめましょう」
レオンは鞄の中の紙を握る。
地下では、正体不明の誰かに観測されている。
そして地上には、その存在を知りながら黙っている教師がいる。
誰が敵で、誰が味方なのか。
分からない者が、また1人増えた。
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