第34話 三人目の選択
第3訓練場を出た後、レオンとミナはDクラスの教室へ戻った。授業はすでに終わっていたが、教室にはガルドが残っていた。大型盾を机の横へ立てかけ、試験でついた傷を布で磨いている。
「遅かったな」
ガルドは顔を上げ、レオンの外套についた焦げ跡を見た。
「また燃やされたのか?」
「訓練です」
「誰とやったら、訓練でそうなるんだよ」
「リゼットです」
「なるほどな」
すぐに納得したガルドの視線が、後ろに立つミナへ移る。
「そっちは何だ。顔が暗いぞ」
「いつも」
「そういう意味じゃねえ」
ミナは返事をせず、施設管理棟の台帳が入れ替えられたことを記した紙をレオンへ渡した。レオンは紙を読み、ガルドへ向き直る。
「話しておきたいことがあります」
「ようやくか」
ガルドは盾を磨いていた布を机へ置いた。
「前から何か隠してただろ」
「気づいていたんですか?」
「ミナと2人で図書塔へ行って、その後は朝早くから中庭をうろついてた。気づかねえ方がおかしい」
「目立たないようにしていた」
ミナが言う。
「目立たないように動いてる奴は、逆に目立つんだよ」
もっともだった。レオンは教室の扉を閉め、ガルドの向かいへ座る。ミナも隣の席へ腰を下ろした。
ミナの部屋へ置かれていた警告文。学院史から消された地下実験区画。石壁の裏に隠された階段。第0研究室の名前。対象Bと書かれた受領証。そして、今朝入れ替えられていた台帳。
レオンは、これまでに分かったことを順番に説明した。ガルドは途中で口を挟まず、黙って聞いていた。
「つまり、学院の地下には、存在しない研究室へつながる場所がある」
話を聞き終えたガルドが、低い声で確認する。
「そしてレオンは、その研究室から対象Bと呼ばれてる」
「はい」
「その話を、今まで俺には黙ってた」
「危険へ巻き込みたくなかったので」
ガルドの眉が動いた。
「それは、お前が決めることか?」
レオンは答えられなかった。危険だから関わらせない。それは相手を守っているようで、本人が選ぶ機会を奪っている。最近、似たような間違いを何度も指摘されていた。
「すみません」
レオンは頭を下げる。
「危険を知ったうえで関わるかどうかは、ガルドが決めるべきでした」
ガルドはしばらくレオンを見ていたが、やがて大きく息を吐いた。
「分かればいい」
「怒っていないんですか?」
「怒ってる」
「そうは見えません」
「殴るのは話が終わってからだ」
「殴るんですか?」
「冗談だ」
本当に冗談なのかは分からなかった。ガルドは、机に置かれた紙へ目を向ける。
「それで、台帳は消されたんだな」
「正確には、別の台帳へ交換された」
ミナが答えた。
「表紙も古さも似ていた。でも、紙の癖が違った」
「紙の癖?」
「元の台帳は頁の右下が少し反っていた。交換された方は真っすぐだった」
ガルドは感心したように息を吐く。
「よく見てんな」
「見ていたから」
「入れ替えた奴は分かったのか?」
「まだです」
レオンは受領証を机へ置いた。
「施設管理棟の職員は、上へ報告すると言いました。記録を残した人物がそれを知り、証拠を消した可能性があります」
「なら、管理棟の中に仲間がいるかもしれねえな」
「はい」
「また正面から聞きに行く?」
ミナが尋ねる。
「それでは、まだ調査を続けていると知られます」
レオンは考える。交換された台帳は、元のものとよく似ていた。大きさ、紙の色、表紙の傷み方。短時間で準備したなら、古い台帳を加工した可能性が高い。
「台帳を作り替えた痕跡を探します」
「痕跡?」
「紙を切る刃物、綴じ糸、外した金具。作業をすれば、何か残ります」
ガルドが立ち上がり、大型盾を背負った。
「なら、施設管理棟へ行くぞ」
「中へは入りません」
「入らねえよ。裏を見る」
「裏?」
「台帳を運んだなら、箱か荷車を使ったはずだ。紙を切ったなら紙くずも出る」
ガルドは教室の扉を開ける。
「魔力ばかり見てねえで、足元も見ろ」
ミナが小さく頷いた。
「役に立ちそう」
「そうだろ」
ガルドは胸を張り、レオンを見る。
「だから、もっと早く呼べ」
レオンも立ち上がった。今度は、誰かを守るために置いていくのではない。危険を伝えたうえで、同じ場所へ向かう。
3人は教室を出て、施設管理棟へ向かった。
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