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第30話 防ぐということ

翌日の午後、1年生300名は学院北側の第2実技場へ集められていた。石造りの広い演習場には、直径20メートルほどの円が5つ描かれている。それぞれの円の中央には、腰ほどの高さの台座と、透明な水晶が設置されていた。


「対属性防御試験の目的は、中央の防衛核を守ることだ」


Dクラスの担任が、演習場全体へ聞こえる声で説明する。「周囲の魔導器から、火、水、土、風の攻撃魔法が順番に放たれる。防衛核が破壊されれば失格。攻撃を受けた回数、使用魔力量、判断速度、相方との連携を含めて評価する」


生徒の1人が手を上げた。


「攻撃魔法で迎撃してもいいんですか?」


「構わない。防ぐ、逸らす、相殺する、破壊する。方法は自由だ」


教師は演習場の外周に置かれた4つの魔導器を示した。


「ただし、試験用魔導器を壊した場合は弁償だ」


生徒たちの視線が、そろって逸らされた。


レオンは円の外から、他の組の試験を観察していた。最初の組が防衛核の前へ立つ。火属性の生徒が炎の壁を作り、土属性の生徒がその外側へ石壁を築いた。正面から飛んできた炎弾は防いだものの、横から放たれた風の刃が石壁の隙間を抜け、防衛核へ傷をつけた。次の組は、攻撃が放たれるたびに防壁を作り直していた。防衛核は無傷だったが、終了時には2人とも魔力を使い切り、地面へ膝をついた。


「守れればいいわけではないのね」


隣に立つリゼットが言った。


「はい。魔力量も評価されます」


「あなたなら、どうする?」


「まだ決めていません」


レオンは4つの魔導器を見る。「攻撃の順番と間隔が、組ごとに違います」


リゼットの眉がわずかに動いた。


「気づいていたの?」


「はい。直前の組は火、風、土、水。その前は水、土、火、風でした」


一定の順番ではない。発射位置も、攻撃の大きさも変化している。


「では、始まってから決めるということ?」


「相手を見ずに方法を決める方が危険です」


リゼットは少し考えた後、正面を向いた。


「分かったわ。最初の判断は任せる」


予想外の言葉に、レオンは彼女を見る。


「いいのですか?」


「あなたのやり方を見るために来たのよ。最初から私のやり方を押し通したら、意味がないでしょう」


教師が組み合わせ表を確認する。


「次。レオン・アーヴェル、リゼット・アルヴァ」


周囲がざわついた。学院順位300位と3位。DクラスとSクラス。あまりにも離れた2人が、同じ円の中へ入る。


リゼットは防衛核の正面に立ち、レオンは半歩後ろへ下がった。


「開始」


教師の合図と同時に、演習場の右側で赤い魔導器が光った。


「火、右です」


放たれたのは、3つの炎弾。リゼットが即座に右手を上げる。


「フラムシールド」


赤い魔力が広がり、炎の盾を形成した。3つの炎弾が衝突し、火花となって散る。防衛核は無傷。だが、次の魔導器がすでに光っている。


「土、左後方」


地面すれすれを飛ぶ、2つの岩弾。リゼットが振り返ろうとする。


「そのままで」


レオンはゼロスレッドを伸ばした。細い糸が、飛来する岩弾の側面へ触れる。止めるのではない。わずかに軌道をずらす。1つ目の岩弾が2つ目へ衝突した。鈍い音とともに、両方が円の外へ転がっていく。


観察していた生徒たちから声が上がった。


「今、何をした?」


「岩同士をぶつけたのか?」


レオンは周囲の魔導器から目を離さない。正面の青い魔導器が光った。


水。しかも、これまでの組より大きい。


「リゼット、水です」


「見えているわ」


リゼットの前に炎が集まる。強い火力で蒸発させるつもりだ。だが、水弾の後方には、緑の魔導器の光も見えた。


風が続く。大量の水を炎で蒸発させれば、直後の風で熱い蒸気が防衛核へ押し戻される可能性がある。


「正面から消さないでください」


「では、どうするの?」


「上へ」


リゼットは一瞬だけレオンを見る。だが、問い返さなかった。


「フラムボルト」


放たれた炎弾は水弾の正面ではなく、下側へ命中した。急激に膨らんだ蒸気が、水弾の軌道を上へ押し上げる。そこへレオンのゼロスレッドが触れた。完全には動かせない。だが、上へ崩れた軌道を、さらに数センチだけずらすことはできる。水弾は防衛核の上を通過した。


直後。


緑の魔導器から、風の刃が放たれる。


「後ろへ下がって!」


リゼットが叫び、レオンの前へ出た。


「フラムシールド!」


炎の盾が広がる。風の刃が炎へ食い込み、盾の形が大きく揺れた。火は風に対して優位。だが、風は炎を散らし、広げる性質も持つ。炎の盾だけでは、防ぎ切れない。


レオンは危機察知デンジャーセンスの反応に従い、左手を動かした。風の刃そのものは見えない。それでも、炎が切り裂かれる位置を見れば、進む方向は分かる。ゼロスレッドを数本伸ばし、炎の盾の形を内側から支える。リゼットの魔法へ直接干渉しないよう、外へ広がろうとする魔力だけを中央へ押し戻す。炎の盾が細く、厚く変化した。


風の刃が盾を貫く。威力を失った風が、レオンの頬をかすめた。


細い血が流れる。だが、防衛核には届かなかった。4つの魔導器から光が消える。


「第1段階終了」


教師の声が響いた。


リゼットがすぐに振り返る。


「怪我をしたの?」


「浅い傷です」


「私の盾が崩れたからでしょう」


「防衛核は無傷です」


「あなたを守れなかったと言っているのよ」


レオンは言葉に詰まった。試験の目的は、防衛核を守ることだ。自分への攻撃は、致命傷でなければ評価へ大きく影響しない。そう考えていた。


「2人1組の試験でしょう」


リゼットは低い声で続ける。


「守る対象は、水晶だけではないわ」


レオンは彼女を見る。リゼットは怒っていた。失敗した自分に対してなのか、傷を軽く考えたレオンに対してなのかは分からない。


教師が次の準備を始める。


「第2段階は、複数属性の同時攻撃だ。準備しろ」


周囲の4つの魔導器が、同時に淡く光り始めた。レオンは頬の血を袖で拭う。


「分かりました」


「何が?」


「次は、防衛核とリゼットの両方を守ります」


リゼットは目を瞬いた後、小さく息を吐いた。


「私も、あなたを守るわ」


2人は防衛核を挟み、背中合わせに立つ。先ほどまでは、リゼットが防ぎ、レオンが補助していた。だが、それだけでは足りない。最も強い者が、すべてを背負う必要はない。最も弱い者が、守られるだけでいる必要もない。


教師が片手を上げる。


「第2段階――開始」


火、水、土、風。4つの光が、一斉に放たれた。

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