↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/126

第2話 成功しただけでは、身につかない

連投です。



26/07/23 修正

翌日の夜、レオンは昨日と同じ物置小屋の裏で、右手を前へ伸ばしていた。


胸の奥にある魔力を意識する。肩の力を抜き、呼吸に合わせて腕へ流す。指先から押し出すのではなく、細く引き伸ばす。


昨日は、それで成功した。千回目の挑戦で、透明な糸を作ることができた。だから、今日もできるはずだった。


何も起きない。


指先から漏れた魔力は形を作ることなく、夜の空気へ消えていった。レオンはしばらく右手を見つめたあと、地面に置いていた帳面を開いた。


『一回目。失敗』


炭筆を動かし、続けて原因を考える。昨日との違いは何か。姿勢か。呼吸か。魔力量か。それとも、昨日の成功そのものが偶然だったのか。


レオンは右手を上げた。


もう一度。


魔力を流す。細く伸ばす。


失敗した。


『二回目。魔力を出す速度が速い』


三回目。


『指先へ意識を集中しすぎた』


四回目。


『呼吸と魔力を流すタイミングがずれた』


五回目。


透明な糸が一瞬だけ現れ、すぐに千切れた。成功とは呼べない。だが、昨日と同じ感覚に少しだけ近づいた。


レオンは目を閉じ、その瞬間を頭の中で繰り返した。魔力を出した量。腕の角度。指先の感覚。呼吸の深さ。


昨日までのレオンなら、できなかったことだけを悔しがっていただろう。しかし、前世で何度も学んだ。


失敗は、ただ繰り返すだけでは意味がない。失敗した理由を知り、次の行動を変えなければならない。


十回目。


糸は指先から手のひらほどの長さまで伸びた。


二十三回目。


糸を作ることには成功したが、呼吸を乱した瞬間に消えた。


四十一回目。


長さを保つことに集中しすぎて、太さが不安定になった。


六十七回目。


透明な糸が、レオンの指先から地面まで伸びた。昨日よりも長い。昨日よりも安定している。


しかし、レオンは喜ぶ前に帳面を開いた。


『六十七回目。成功』


その下に、成功した理由を書く。


『魔力を一定の速さで流した』


『指先ではなく、胸から糸の先端まで全体を意識した』


『息を吐く間だけ魔力を流した』


成功したときにも、理由がある。それを理解しなければ、次も同じように成功するとは限らない。


レオンは糸を消し、再び右手を前へ伸ばした。


六十八回目。


成功。


六十九回目。


失敗。


七十回目。


成功。


七十一回目。


成功。


七十二回目。


失敗。


成功と失敗を繰り返しながら、レオンは帳面を埋めていった。昨日は、千回目にたった一度だけ成功した。だが、今日は成功した方法を探している。


同じことを繰り返しているようで、昨日とは違う。


試して。


失敗して。


原因を考えて。


修正する。


そして、もう一度試す。


その一つ一つが、身体の奥へ残っていくような感覚があった。


百回目。


レオンの指先から、透明な糸が伸びる。糸は揺れなかった。長さも太さも変わらない。レオンが呼吸を続けても、消えることなく空中に留まっている。


「できた……」


思わず声が漏れた。


昨日のような偶然ではない。どうすれば魔力を糸の形にできるのか、今のレオンには説明できる。もう一度やれと言われても、同じ手順を再現できる。


それは、ただ一度成功したこととは違う。


身についたのだ。


その瞬間、胸の奥で何かが動いた。目の前に、淡い文字が浮かび上がる。


『同一技能の反復、分析、修正を確認』


『成功動作の再現率が規定値に到達しました』


一般(コモン)(クラス)魔力制御(マナコントロール)を習得しました』


レオンは息を止めた。文字が消えたあとも、しばらく動くことができなかった。


スキルは、生まれつき持っているものだけではない。成長や経験によって、新しく発現することがある。教会でも、そう説明されていた。


だが、それは普通、何年も仕事や訓練を続けた者に起きることだった。魔力を扱い始めて、まだ二日。それなのにレオンは、新しいスキルを獲得した。


「どうして……」


思い当たるものは、一つしかない。


一般(コモン)(クラス)反復作業(ルーティン)


同じ作業を続ける際、疲労をわずかに軽減するだけの外れスキル。教会では、そう説明された。


だが、本当にそれだけなのだろうか。


疲れにくくなるだけなら、魔力制御(マナコントロール)のスキルを習得できた理由にはならない。


レオンは昨日からの記録を読み返した。最初の数百回は、ほとんど同じ失敗を繰り返していた。ただ魔力を出そうとして、失敗していた。


しかし途中から、失敗するたびに原因を記録し始めた。呼吸を変えた。姿勢を変えた。魔力を流す速さを変えた。そして、成功した方法を繰り返した。


もしも、反復作業(ルーティン)の本当の力が、単純に疲労を軽減するものではないとしたら。


繰り返した経験そのものを、蓄積する力だとしたら。


レオンは確かめるため、地面に小石を並べた。右手で一個ずつ拾い、左側へ移す。


ただ拾う。置く。拾う。置く。


同じ動作を百回続けた。疲労はほとんど感じない。だが、それ以外の変化はなかった。


次にレオンは、小石を素早く拾う方法を考えた。


最初は指先でつまむ。


遅い。


次は手のひらで包む。


速いが、隣の石まで動いてしまう。


指を少し開き、親指と中指で挟む。身体を前へ倒しすぎない。石を置く位置を先に見る。失敗するたびに方法を変えた。


五十回を超えた頃には、最初の半分ほどの時間で小石を移せるようになっていた。


レオンは自分の手を見つめた。


ただ繰り返すだけでは、何も起きない。


考えながら繰り返す。


失敗を直す。


成功を再現する。


そのときにだけ、反復作業(ルーティン)は力を発揮する。


教会の鑑定結果が間違っていたわけではない。同じ作業を続けるためのスキル。ただし、誰も正しい使い方に気づいていなかったのだ。


レオンは新しい頁を開き、そこに分かったことを書き込む。


反復作業(ルーティン)は、繰り返すだけでは成長しない』


『失敗の原因を考え、修正した経験を蓄積する』


『成功した動作を繰り返すことで、技能として定着させる』


書き終えたところで、レオンは手を止めた。


もし、この考えが正しいなら。


魔力制御(マナコントロール)だけではない。


剣術(ソードアーツ)


身体強化(フィジカルブースト)


歩法(ステップ)


隠密(ステルス)


この世界に存在するあらゆる技能を、同じ方法で身につけられるかもしれない。


もちろん、簡単ではない。何度も失敗する必要がある。原因を見つけ、直し、成功するまで繰り返さなければならない。


才能のある者なら、一度でできることに千回かかるかもしれない。


それでも。


生まれつき持っていなかったものを、努力によって手に入れられる。


それは、前世の直人が何よりも欲しかったものだった。


レオンは右手を上げ、新しく習得した魔力制御(マナコントロール)を意識する。


昨日まで不安定だった魔力の流れが、今は以前よりはっきりと感じられた。胸から腕へ。腕から指先へ。そして、外へ。


無属性魔法ゼロスレッド


透明な糸が伸びる。


レオンは糸の先端を、地面に置かれた小石へ近づけた。


巻きつける。


引き上げる。


小石はわずかに揺れたが、持ち上がる前に糸が切れた。


失敗。


それでも、レオンは笑っていた。帳面へ新しい記録を書き込む。


『次の目標。無属性魔法ゼロスレッドで小石を持ち上げる』


一回目。


失敗。


二回目。


失敗。


三回目。


失敗。


レオンは右手を上げ直す。


何度でも。


できるようになるまで。


その夜から、外れスキルを持つ少年は、自分の才能を自分で作り始めた。


良ければブックマークしていただけると泣いて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。