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第24話 一般級の価値

スマホで読みやすいように文章を変えてみました。

翌朝。


レオンが教室へ入ると、昨日とは違い、笑い声は起こらなかった。


代わりに、いくつもの視線が向けられる。


警戒する者。


興味を持つ者。


模擬戦の動きを思い出すように、レオンの左手を見つめる者。


レオンはそのすべてを気にせず、最後列の席へ座った。


「おはよう、レオン」


前の席からガルドが振り返る。


「おはようございます」


「腕は大丈夫か?」


「少し痺れが残っています」


ガルドの盾を木剣で受けたときの衝撃だ。


一晩休めば治ると思っていたが、右手へ力を入れると、まだ軽い痛みがある。


「俺は首が痛え」


ガルドが首元をさする。


「お前、本当に寸前で止めたんだよな?」


「はい」


「迷いがなさすぎて、木剣が当たったのかと思ったぞ」


「当てていません」


「分かってる。だから怖えんだよ」


ガルドは笑いながら前へ向き直った。


やがて、教師が教室へ入ってくる。


昨日と同じ黒い外套。


腰には使い込まれた剣。


その手には、分厚い教本が抱えられていた。


「今日から通常授業を始める」


教師が教本を教壇へ置く。


「午前は座学。最初に学ぶのは、スキルの基礎だ」


黒板へ、縦に7つの名称が書かれていく。


一般級コモンクラス


熟練級アンコモンクラス


職人級レアクラス


達人級エピッククラス


英雄級ヒロイッククラス


伝説級レジェンドクラス


神話級ミソロジークラス


「この7段階が、現在使用されている正式なスキルレアリティだ」


レオンは帳面へ書き写す。


名前自体は知っている。


だが、それぞれが社会でどのように扱われるのかまでは、詳しく知らなかった。


グレゴールの工房にあった本は、魔導器の構造や加工技術に関するものがほとんどだった。


学院教育を受けた者にとっての常識が、レオンにとっても常識とは限らない。


一般級コモンクラスは、生活、労働、初歩的な戦闘技能に多い。最も多くの人間が保有する階級だ」


教師は一番上の文字を指す。


熟練級アンコモンクラスは、専門職や熟練者として評価される水準」


次の文字へ指を動かす。


職人級レアクラスは希少性が高く、能力によっては貴族や大きな組織から勧誘を受ける」


教室の空気が少し変わった。


職人級以上のスキルを持つ者がいるのだろう。


何人かの生徒が、誇らしげに姿勢を正した。


達人級エピッククラスになると、国家へ存在を把握される可能性が高い。英雄級ヒロイッククラスは、国家による保護や監視の対象となる」


教師の声に、生徒たちの表情が引き締まる。


伝説級レジェンドクラスは国家戦略級。1人の存在が戦争や外交へ影響を与える」


最後に、黒板の最下段を指した。


神話級ミソロジークラスは、世界法則や因果そのものへ影響し得るとされている」


教室の誰も声を出さない。


一般級から神話級。


同じスキルでありながら、あまりにも大きな差がある。


「先生」


前方の生徒が手を上げた。


「レアリティが高い方が、強いということですか?」


「基本的には、高位ほど希少で強力な効果を持つ」


教師は答えた。


「だが、それだけで勝敗が決まるわけではない」


黒板へ、新たに2つの言葉を書く。


能力。


使い手。


「強力なスキルを持っていても、効果を理解せず、使いこなせなければ意味はない。反対に、低位のスキルでも、鍛え方と使い方次第で結果は変わる」


その言葉に、何人かの視線がレオンとガルドへ向いた。


「でも、一般級でしょう?」


別の生徒が口を開く。


昨日、レオンの魔法基礎試験の数値を笑っていた生徒だった。


「一般級を何個鍛えても、熟練級や職人級には勝てないんじゃないですか」


教師は答えず、ガルドを見る。


「ガルド・ベルン。お前が昨日使ったスキルを言え」


盾術シールドアーツです」


「レアリティは」


一般級コモンクラス


教師は次にレオンを見る。


「レオン・アーヴェル。お前が模擬戦で使ったスキルは」


剣術ソードアーツ歩法フットワーク魔力制御マナコントロールです」


「レアリティは」


「すべて一般級コモンクラスです」


教室が静かになる。


教師は先ほど質問した生徒へ視線を戻した。


「昨日の模擬戦で、それらは役に立たなかったか?」


「それは……」


生徒は答えられなかった。


教師が教壇の下から、1本の木剣を取り出す。


剣術ソードアーツは一般級だ」


木剣を持ち上げる。


「だからといって、10年間鍛えた剣士と、昨日初めて剣を持った者が同じ強さになると思うか?」


「思いません」


「レアリティは能力の希少性と規模を示す。鍛錬の量、理解の深さ、判断力、肉体の強さまで保証するものではない」


教師は木剣を教壇へ置いた。


「高位スキルを持つ者が強い可能性は高い。だが、低位だから価値がないという考えは捨てろ」


レオンは帳面へ、その言葉を書き加えた。


――レアリティは、鍛錬の深さを示さない。


「レオン・アーヴェル」


突然名前を呼ばれ、顔を上げる。


「一般的な成人が持つスキル数は、およそいくつだ」


「……分かりません」


小さなざわめきが起こった。


昨日、クラス最高の魔力制御を見せた生徒が、簡単な質問へ答えられなかった。


教師はレオンを笑わなかった。


「一般的な成人で、平均6個ほどだ」


レオンはすぐに帳面へ記録する。


「8歳の鑑定では、通常2個から5個なら標準。6個以上なら優秀とされることが多い」


「多ければ、それだけ優秀なんですか?」


ガルドが尋ねた。


「必ずしもそうではない」


教師は黒板へ、大きく線を引いた。


左側へ、保有数。


右側へ、レアリティ。


「この2つは別の評価軸だ」


一般級を8個持つ者。


職人級を1個だけ持つ者。


どちらが優秀かは、数だけでは決められない。


戦闘向けか、生活向けか。


本人がどれほど扱えるか。


状況に合っているか。


評価する側が何を求めているか。


それによって価値は変わる。


レオンは黒板の文字を見つめる。


一般級を5個。


それが、現在の自分が持つすべてだ。


教会では、反復作業ルーティンしか持たない外れだと判断された。


グレゴールには、鉱山で同じ作業を続けるための能力だと言われた。


だが、その反復作業ルーティンがなければ、ゼロスレッドを安定させることはできなかった。


魔力制御マナコントロールも。


剣術ソードアーツも。


歩法フットワークも。


危機察知デンジャーセンスも。


すべて、失敗を記録し、修正し、繰り返す中で身につけた。


一般級だから役に立たないのではない。


役立てる方法を知らなければ、役に立たないだけだ。


教師が教室を見回す。


「この学院には、高位のスキルを持つ者もいる。一般級しか持たない者もいる」


その視線が、一人一人を捉える。


「自分より低い階級を笑うな。自分より高い階級を見て、勝手に諦めるな」


教師は黒板の7段階を指した。


「これは人間の順位ではない。スキルの分類だ」


教室には、しばらく沈黙が残った。


レオンは帳面へ、最後の一文を書き記す。


――スキルの階級と、人間の価値は同じではない。


「基礎講義はここまでだ」


教師が教本を閉じる。


「次は魔法属性について学ぶ」


教壇の下から、透明な水晶が取り出された。


属性鑑定に使われるものとは違う。


水晶の内部には、赤、青、黄、緑の4色が渦巻いている。


単属性ユニア


教師が言う。


赤い光だけが強くなる。


双属性者デュアル


今度は赤と青が同時に輝いた。


教室から、驚きの声が上がる。


「そして、三属性者トライア四精者エレメンタラー


4色の光が絡み合う。


その中へ、一瞬だけ白と黒の光が混ざった。


ミナの顔が、わずかに上がる。


教師は水晶を見つめ、静かに続けた。


「次の授業では、この世界で魔法使いの人生を大きく左右する、保有属性について教える」

おもしろかったらブックマークしていただけると泣いて喜びます。

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