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第21話 隠せない精度

「お前が何を隠しているのか、ここで見せてもらう」


教師の言葉に、教室中の視線がレオンへ集まった。木の輪は、机の上に落ちたまま動かない。


ここで失敗を繰り返せば、教師の疑いは深くなる。かといって、できることをすべて見せる必要もない。


見せるのは、魔力制御マナコントロールだけ。ゼロスレッドも、ゼロエッジも使わない。それで十分だ。


「分かりました」


レオンは木の輪へ右手を向けた。


魔力制御マナコントロール。必要な量だけ魔力を流す。


木の輪が、音もなく机から浮かび上がった。先ほどとは違う。


揺れない。


傾かない。


輪は机から指一本分の高さで、完全に静止していた。教室から声が消える。


「上げろ」


教師が命じた。木の輪が、ゆっくりと上昇する。


「止めろ」


胸の高さで止まる。


「右へ」


輪が横へ移動する。


「左へ」


元の位置へ戻る。


「回転させろ」


木の輪が縦向きに変わり、その場で静かに回り始めた。


一定の速度。軸は一切ぶれていない。


教師の目が細くなる。


「速くしろ」


回転速度が上がる。


「止めろ」


高速で回っていた輪が、命令と同時に停止した。急停止したにもかかわらず、木の輪は揺れていない。


「下ろせ」


輪は音を立てることなく、机の中央へ着地した。レオンは魔力を切る。


教室には、まだ沈黙が残っていた。


「……何だよ、それ」


先ほど笑っていた生徒が呟いた。


「魔法基礎試験の威力は7だったんだろ?」


「制御と威力は別です」


レオンが答える。


「別って言っても、限度があるだろ」


「そうでもない」


教師が口を挟んだ。教壇から離れ、レオンの机まで歩いてくる。


教師は木の輪を拾い上げ、表面を確認した。傷はない。魔力を流しすぎた跡も、焦げた跡も残っていなかった。


「魔力を強く放出するだけなら、訓練を始めたばかりの子供にもできる」


教師は木の輪を全員へ見せる。


「だが、必要な量を正確に測り、一定に保ち、瞬時に変化させるには技術がいる」


教師の視線がレオンへ戻った。


「今の制御は、いつから練習している」


「7年ほどです」


再び、教室がざわついた。


「7年?」


「こいつ、今何歳だよ」


「子供の頃から毎日やってたってことか?」


教師は右手を上げ、生徒たちを黙らせた。


「なぜ最初に失敗した」


「失敗したつもりはありません」


レオンは正直に答えた。教師の眉がわずかに動く。


「やはり、浮かせなかったのか」


「はい」


「理由は」


レオンは一度、閉じられた名簿を見る。自分の名前の横に書かれていた赤い文字。


要観察。


「必要以上に目立つ理由がなかったからです」


「学院で実力を隠すことが、お前のためになると思ったのか」


「分かりません」


「なら、覚えておけ」


教師は木の輪をレオンの机へ戻した。


「隠した実力は、評価されない」


その言葉が、教室へ静かに響いた。


「この学院では、家柄も過去も関係ない。少なくとも、授業中に俺が見るのは結果だけだ」


教師は教壇へ戻る。


「実力があるなら示せ。足りないなら鍛えろ。自分の力を隠したまま、周囲が正しく評価してくれると思うな」


レオンは帳面を開いた。新しい頁へ、教師の言葉を書き記す。


――隠した実力は、評価されない。


前世では、目立たず、怒られず、余計な仕事を増やさないことばかり考えていた。力を見せれば利用される。できると言えば、さらに仕事を押しつけられる。だから、隠すことを覚えた。


この世界でも、その考え方は簡単には消えない。だが、ここでは順位を上げなければならない。


隠れることと、上を目指すこと。その2つを同時に続けるのは難しい。


「レオン・アーヴェル」


教師に呼ばれ、レオンは顔を上げた。


「今日の制御評価は、現時点でクラス最高だ」


教室が騒然となる。


「ただし、順位は制御だけで決まらない。魔法、武器、判断力、連携、筆記。すべてを含めて評価する」


「承知しました」


「それと」


教師は名簿へ何かを書き込んだ。


「次から、わざと失敗した場合は減点する」


「分かりました」


笑い声が上がった。先ほどまでレオンを嘲っていた笑いとは違う。教師の容赦のなさに対する笑いだった。


「お前、すげえじゃねえか」


前の席からガルドが振り返る。


「木の輪がまったく揺れてなかったぞ」


「浮かせただけです」


「その浮かせるだけのことが、俺にはできなかったんだよ」


ガルドは自分の木の輪を指でつつく。


「次は負けねえぞ」


「競争だったんですか?」


「今から競争にする」


ガルドは楽しそうに笑った。


教師が再び黒板の前に立つ。


「制御訓練はここまでだ。次は訓練場へ移動する」


教室の空気が変わった。


「今度は、実戦での能力を見る」


教師は黒板へ、縦に2つの数字を書く。


1。


60。


「現在のクラス内順位、その両端から順番に組ませる」


生徒たちが黒板と名簿を交互に見る。


Dクラス1位。ガルド・ベルン。


Dクラス60位。レオン・アーヴェル。


ガルドがゆっくりと振り返った。


「おいおい」


その顔には、困惑よりも笑みが浮かんでいた。


「いきなり俺たちかよ」


教師は名簿を閉じる。


「最初の組」


教室中の視線が、2人へ集まった。


「ガルド・ベルン対レオン・アーヴェル」


教師は淡々と告げた。


「訓練場で、模擬戦を行う」

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