第20話 評価されない力
投稿時間ミスった
「全員、席につけ」
教壇の前に立った教師の声で、教室のざわめきが小さくなった。
年齢は40歳前後。短く切った灰色の髪と、左頬を縦に走る古い傷。黒い教師用の外套を着ているが、腰には使い込まれた剣を下げていた。
教師は教室全体を見回す。
「今日からお前たちは、王立魔法学院の生徒だ」
生徒たちの表情がわずかに引き締まる。
「同時に、この学年で最も低い評価を受けた60人でもある」
教室の空気が固まった。
前方の席に座る生徒が、不満そうに顔を上げる。
「先生。それは、俺たちが他のクラスより劣っているという意味ですか」
「入学試験の結果だけを見れば、そうだ」
教師は迷わず答えた。
「だが、入学試験は現在地を測っただけだ。4カ月後も同じ場所にいるかどうかは、お前たち次第になる」
教師が黒板へ大きく数字を書く。
15。
「Dクラスの上位15人だけが、Cクラスへの挑戦権を得る」
視線が一斉に、最前列へ向いた。Dクラス1位、入学試験241位のガルドが座っている。
「なんだよ。俺を見るなよ」
ガルドは困ったように頭をかいた。
「現在のクラス内順位は、入学試験順位をそのまま使用する」
教師が言う。
「だが、順位は固定ではない。授業、実技、筆記、課題への取り組み。それらの評価によって変動する」
教室の後方。最下位の席に座るレオンへ、何人かの視線が向いた。
「なら、300位の奴はずっと最下位じゃないのか?」
誰かが笑った。
「魔法基礎試験の威力が7だぞ」
「どうやって順位を上げるんだよ」
小さな笑いが教室へ広がる。
レオンは机の上に帳面を置き、黒板の数字を書き写した。
Dクラス60位。
目標、15位以内。
必要上昇順位、45。
「静かにしろ」
教師の一言で、笑いが止まる。
「最下位を笑っている暇があるなら、自分が15位以内へ残れる方法を考えろ」
教師は教壇の上に置かれていた名簿を閉じた。赤い文字は、もう見えない。
「最初の授業を始める。魔法の威力ではなく、制御を見る」
生徒たちが顔を見合わせた。
教師が机の下から、小さな木箱を取り出す。中には、親指ほどの大きさの木製の輪が並んでいた。
「この輪へ魔力を通し、割らずに机から持ち上げろ」
教師が1つを手に取る。木の輪が淡く光り、ゆっくりと宙へ浮かんだ。
「強すぎれば壊れる。弱すぎれば浮かない。属性魔法を使う必要はない。必要なのは、魔力量の調整だけだ」
生徒たちへ木の輪が配られる。レオンも受け取った。
軽い。
表面には細い溝が刻まれ、魔力が通りやすい構造になっている。前の席では、すでに火属性の生徒が挑戦していた。
輪が赤く光る。次の瞬間、乾いた音を立てて割れた。
「力を入れすぎだ」
教師が淡々と言う。別の生徒は、何度試しても輪を浮かせられない。
ガルドの木輪は土色に光り、机から少しだけ浮かび上がった。
「おっ」
ガルドが笑う。だが喜んだ瞬間に魔力が乱れ、輪が机へ落ちた。
「集中が切れている」
「難しいな、これ」
やがて、レオンの順番が来た。周囲の視線が集まる。
「威力7のお手並み拝見だな」
背後から声がした。レオンは木の輪を机へ置いた。
魔力制御を使えば、浮かせること自体は難しくない。7年間、ゼロスレッドを髪の毛より細く保つ訓練を繰り返してきた。木の輪に必要な魔力量も、おおよそ分かる。
一度で成功できる。
だが、レオンはすぐに魔力を流さなかった。教室を見渡す。完全に浮かせられた者は、まだいない。
教師は、こちらを見ている。名簿には、要観察と書かれていた。
目立つ必要はない。しかし、失敗しすぎれば順位を上げられない。
レオンは魔力を流した。木の輪が、わずかに揺れる。
机から指一本分だけ浮かび、すぐに落ちた。
「それだけか?」
誰かが笑う。
教師は笑わなかった。落ちた木の輪を見つめている。
「もう一度やれ」
「一人一回では?」
「お前だけだ」
教室がざわつく。レオンは教師を見る。
「理由を聞いても?」
「今の魔力は、浮かせられなかった魔力ではない」
教師の目が細くなる。
「浮かせなかった魔力だ」
教室から笑い声が消えた。レオンは木の輪へ視線を落とす。
教師は、名簿の赤い文字を指でなぞった。
「レオン・アーヴェル」
その声には、確信があった。
「お前が何を隠しているのか、ここで見せてもらう」
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