第18話 最下位合格
暑い日が続いておりますが皆様体調はいかがでしょうか。
僕はダメそうです。
白い仮面の人物は、監視塔からレオンを見下ろしていた。
遠見用の魔導器には触れていない。
両腕を下ろしたまま。
ただ静かに、レオンの左手だけを見つめている。
「知っている人?」
ミナが隣へ並ぶ。
レオンは、仮面から目を離さずに答えた。
「いいえ」
「学院の先生じゃないのか?」
ガルドが地面へ手をつき、身体を起こす。
顔をしかめながら、監視塔を見上げた。
「先生なら、顔を隠す必要はないと思います」
レオンがそう答えた直後。
白い仮面が、ゆっくりと動いた。
視線が重なる。
見られている。
左手だけではない。
身体の奥。
さらに深い場所まで、確かめられているような感覚。
レオンは無意識に、左手を握った。
危機察知は反応していない。
敵意も感じない。
それなのに。
背中を冷たいものが流れた。
「変」
ミナが、小さくつぶやく。
「何がですか」
ミナは仮面の人物を見つめたまま、目を細めた。
「魔力の影がない」
「魔力を隠しているということですか」
「違う」
ミナが首を横へ振る。
「隠している人にも、影は残る」
黒い瞳に、わずかな戸惑いが浮かんだ。
「でも、あの人には何もない」
レオンは、もう1度監視塔を見る。
白い仮面の人物は消えていた。
扉が開いた音はない。
塔から飛び降りた気配もない。
先ほどまで立っていた場所には、試験官が1人いるだけだった。
「今の、見たよな?」
ガルドが確認するように、2人の顔を見る。
「見ました」
「私も」
試験終了を確認する職員たちが、森の中へ入ってきた。
レオンは監視塔を指す。
「先ほど、試験官の隣に白い仮面の人物がいました」
職員は足を止めた。
監視塔を見上げる。
「監視塔へ入れるのは、担当試験官だけだ」
「その試験官の隣に立っていました」
職員は眉を寄せた。
手元の魔導器を操作し、塔の試験官へ確認を取る。
短いやり取りのあと。
職員は、困惑した表情でレオンたちを見た。
「試験官は、最初から1人だったと言っている」
ガルドが口を開く。
「いや、俺たち3人とも――」
「見間違いではありません」
レオンが言葉を重ねる。
腰から帳面を取り出した。
『白い仮面』
『監視塔に出現』
『ミナには魔力の影が見えなかった』
『試験官は存在を否定』
書き終えるまで。
ミナは、誰もいなくなった監視塔を見つめていた。
職員が軽く咳払いをする。
「その件は、こちらで確認する」
続いて、地面に置かれた魔石を拾い上げた。
1個ずつ。
表面の印を確認する。
「魔石は3個」
職員が3人を見る。
「全員、実戦試験の合格条件を達成している」
ガルドの肩から力が抜けた。
大きく息を吐き、その場へ座り込む。
「よかった……」
ミナは何も言わない。
ただ。
短剣を握っていた指を、ゆっくりと開いた。
夕方。
中央広場に、入学試験の合格者が張り出された。
受験者は1,000人以上。
合格できるのは、300人だけ。
掲示板の前では、名前を見つけて喜ぶ声と。
見つけられず、立ち尽くす者の声が入り混じっていた。
「私は3位ね」
リゼットが、胸を張る。
レオンは掲示板の上部を見る。
確かに。
『3位 リゼット・アルヴァ』
大きく名前が書かれている。
「1位ではないんですね」
リゼットの眉が動いた。
「今は素直に褒めるところでしょう?」
「十分に高い順位です」
「もう少し言い方があると思うのだけれど」
レオンは名簿を下へ追う。
『117位 ミナ・クロウ』
『241位 ガルド・ベルン』
さらに下。
最後の行まで視線を動かす。
『300位 レオン・アーヴェル』
レオンは、その名前を見つめた。
最下位。
魔法基礎試験では、まともに評価されなかった。
筆記試験にも空欄を残した。
実戦試験は、3人で協力して突破した。
それでも。
学院へ入るための場所には、手が届いた。
ガルドが人混みをかき分けて近づいてくる。
「いた!」
そのまま勢いよく、レオンの背中を叩いた。
「本当に300位だな!」
レオンの身体が前へ揺れる。
「合格は合格です」
「悔しくないのか?」
レオンは、もう1度自分の名前を見る。
「現在の位置が分かっただけです」
300位。
学院で一番下。
ならば。
ここから、1個ずつ上がればいい。
「やっぱり変わってるな、お前」
ガルドは呆れながらも、楽しそうに笑った。
少し離れた場所では。
ミナが自分の名前を見たあと、レオンへ視線を向けていた。
目が合う。
ミナは何も言わず。
小さく、うなずいた。
受付で、仮入学証が配られた。
レオンが自分の証を受け取る。
その間から。
小さな白い封筒が、床へ落ちた。
「これは?」
レオンが拾い上げる。
受付の職員は、封筒を見ると首をかしげた。
「私が入れたものではありません」
差出人の名前はない。
学院の印も。
家紋もない。
封蝋には、白い仮面に似た丸い印だけが刻まれていた。
リゼットが、隣からのぞき込む。
「開けるの?」
レオンは周囲を確認した。
不自然にこちらを見ている者はいない。
封を切る。
中に入っていたのは、白い紙が1枚。
書かれていた文字も。
たった1行だけだった。
『君は、誰に選ばれてこの世界へ来た?』
レオンの指が止まる。
高城直人として生きた記憶。
工場で死んだこと。
目を覚ますと、この世界に生まれていたこと。
それを知る者は。
誰もいないはずだった。
次から第3章です。




