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第16話 最下位の受験者たち

翌朝。


治療師の診察を終えたレオンは、王立魔法学院の中央広場に立っていた。


首には薄い包帯。


右腕にも、魔導兵の糸で切られた傷が残っている。


歩くことに問題はない。


魔力も、ある程度まで回復していた。


広場には、1,000人を超える受験者が集まっている。


人間種ヒューマン


森人種エルフ


鉱人種ドワーフ


獣人種ビーストフォーク


海人種アクアリア


魔人種デモニア


それぞれが武器や杖を持ち、試験の開始を待っていた。


レオンの故郷では、見ることのできなかった光景だ。


広場の中央へ、クラリスが上がる。


拡声用の魔導器へ魔力を流した。


「これより、王立魔法学院の入学試験を開始します」


声が学院全体へ響く。


「試験は3種類」


「筆記試験」


「魔法基礎試験」


「実戦試験」


「3つの合計点で、合否を決定します」


隣に立つリゼットが、自信のある顔で腕を組んだ。


「まずは筆記ね」


「得意ですか」


「当然よ」


「文字が大きくても、点数には影響しません」


「まだ言うの?」


筆記試験で問われたのは、魔法理論。


魔物。


歴史。


計算。


学院で学ぶために必要な基礎知識だった。


魔法理論には、独学では知らない内容も多い。


レオンは分からない問題へ印をつけ、答えられるものから進めた。


工房で使っていた材料の計算。


魔導器の基本構造。


魔物の習性。


実際の経験から、答えられる問題も少なくない。


試験終了後。


校舎の外で、リゼットと合流した。


「どうだった?」


「空欄が11個あります」


「多くない?」


「知らないことは書けません」


「何か適当に書けばいいでしょう」


「間違った情報を、正しいと思い込む可能性があります」


「これは試験なのよ?」


「次に同じ問題が出たら調べます」


リゼットは何か言おうとして。


諦めたように首を横へ振った。


続いて行われたのは、魔法基礎試験。


広い訓練場に、巨大な黒い標的が並んでいる。


受験者は順番に魔法を放ち、威力と制御力を測定する。


リゼットの番になると、周囲がざわついた。


アルヴァ公爵家の令嬢。


優れた火属性の使い手として、すでに名前が知られているらしい。


リゼットは、標的へ右手を向ける。


「フラムランス!」


炎の槍が放たれた。


標的の中央へ突き刺さる。


爆発。


炎と煙が広がった。


測定用の水晶へ、数字が浮かぶ。


『威力 92』

『制御 86』


訓練場から歓声が上がった。


リゼットは満足そうに戻ってくる。


「どう?」


「少し右へずれていました」


「そこは褒めるところでしょう!」


「高得点です」


「遅いわ!」


順番が進み。


レオンの名前が呼ばれた。


「受験番号1847。レオン・アーヴェル」


周囲から、小さな声が聞こえる。


「無属性だ」


「スキルは全部、一般級らしいぞ」


「標的を壊せるのか?」


受付での鑑定結果が、すでに広まっているらしい。


レオンは、標的へ左手を向けた。


黒い魔導兵を止めた方法なら、内部へ糸を通して破壊できる。


ゼロスレッドを刃へ変えれば、表面を切ることも可能だ。


だが。


手の内を見せる必要はない。


「ゼロスレッド」


透明な糸が伸びた。


標的の中央へ触れる。


引く。


標的が、わずかに揺れた。


それだけだった。


測定用の水晶へ数字が浮かぶ。


『威力 7』

『制御 38』


訓練場に笑い声が広がった。


「7だってよ」


「石を投げた方が強いぞ」


「無属性なんて、そんなものだ」


試験官も興味を失ったように、次の受験者を呼ぼうとする。


レオンは水晶を見る。


制御が38。


低い。


糸は、標的の中央へ正確に触れていた。


魔力も途切れていない。


「制御の測定方法を聞いても?」


試験官が顔を上げた。


「標的に残った属性魔力の分布を測っている」


「無属性の場合は?」


「属性反応がないため、魔力の密度から算出する」


ゼロスレッドは細い。


標的へ残る魔力も少ない。


正確に制御していても、測定器には低く表示される。


試験の基準が、レオンの魔法へ対応していない。


「何か不満か?」


「いいえ」


今は、それでよかった。


低く評価されれば、能力を隠しやすい。


列へ戻ると、リゼットが不満そうに水晶を見ていた。


「あの数字、おかしいわ」


「測定方法には従っています」


「でも、あなたの制御が38のはずがないでしょう」


「実戦試験があります」


測定器に評価されなくても。


できることまで、変わるわけではない。


午後。


受験者たちへ、実戦試験の組み分けが発表された。


筆記と魔法基礎試験の暫定点をもとに、3人ずつの組へ分けられる。


リゼットは、上位者が集まる第1試験区。


レオンは。


最下位層が集められた、第12試験区だった。


「同じ区画に変更させるわ」


リゼットが言う。


「やめてください」


「でも――」


「俺は、ここで合格します」


レオンは掲示板から離れ、第12試験区の集合場所へ向かった。


そこには、2人の受験者が待っていた。


1人は、レオンより頭1個分ほど背が高い少年。


短く刈った茶色い髪。


広い肩。


背中には、大きな盾を背負っている。


少年はレオンを見ると、人懐こそうに笑った。


「お前がレオンか?」


「そうです」


「俺はガルド・ベルン。土属性だ」


ガルドが、大きな手を差し出す。


レオンは、その手を握った。


「よろしくお願いします」


「同い年だろ。敬語はいらないって」


もう1人。


木の陰に、黒い外套を着た少女が立っていた。


肩まで伸びた黒髪。


同じ色の瞳。


腰には、細身の短剣を2本下げている。


少女は、小さな声で名乗った。


「ミナ・クロウ」


そして。


「闇属性」


それだけ告げると、再び黙った。


試験官が、森に囲まれた区画の門を指す。


「制限時間は30分」


「区画内には、魔石を持つ石人形が12体いる」


「1人1個ずつ魔石を持ち帰れば合格だ」


3人で3個。


1人でも取れなければ、その受験者は不合格。


試験官が門を開いた。


「準備はいいな」


ガルドが盾を構える。


「俺が前に出る」


ミナは短剣へ手を置いた。


レオンは、区画内の地面を見る。


石人形の足跡。


壊れた枝。


わずかな魔力の流れ。


「来ます」


「何が?」


ガルドが聞き返した直後。


森の奥から、巨大な石が飛んできた。


ガルドが前へ出る。


盾を地面へ突き立てた。


土属性魔法(ストーンウォール)!」


地面から岩壁がせり上がる。


飛んできた石が衝突した。


轟音。


岩壁へ亀裂が走った。


木々の間から、3体の石人形が現れる。


「3体いる」


ミナが言った。


「見えるんですか」


「見えない」


黒い瞳が、森の中を見つめる。


「魔力の影がある」


その身体が、黒い靄に包まれた。


闇属性魔法(シャドウステップ)


次の瞬間。


ミナの姿が、木の影へ溶けるように消えた。


ガルドが口を開ける。


「消えたぞ」


「移動しています」


レオンは、石人形の歩き方を観察した。


正面の1体。


右脚だけ、地面への沈み方が深い。


「ガルド。右脚を狙って」


「分かった!」


ガルドが正面から突進する。


盾と石の拳がぶつかった。


「ぐっ!」


ガルドの足が地面を滑る。


それでも、倒れない。


レオンは、地面に落ちていた蔓へゼロスレッドを伸ばした。


石人形の右足へ絡める。


拘束する力はない。


だが。


右脚の動きが、指1本分だけ遅れた。


石人形の身体が傾く。


ガルドが盾で突き上げる。


巨体が地面へ倒れた。


同時に。


黒い影が、石人形の背中へ現れる。


ミナだった。


短剣を胸の隙間へ入れ、魔石を固定する金具を外す。


青い魔石が地面へ落ちた。


石人形の動きが止まる。


最初の1個。


倒すまで、2分もかかっていない。


「次も、この調子でいこうぜ!」


ガルドが笑う。


だが。


ミナは、レオンの左手を見つめていた。


「今の魔法」


「無属性魔法です」


「違う」


ミナが首を横へ振った。


「見えないんじゃない」


黒い瞳が、レオンの指先を捉えている。


「色がないだけ」


ゼロスレッドを。


ミナは、はっきりと見ていた。


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