↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/126

第13話 対策された無属性

翌朝。


レオンは、王立魔法学院の第7実技棟の前に立っていた。


空はまだ薄暗い。


通常の受験者受付が始まるより、2時間も早い。


正面の鉄扉の前には、ヴァルター・ヘインズが待っていた。


その隣には、白い外套を着た女性職員。


さらに、記録用の魔導器を持った男性職員が立っている。


「時間通りだね」


ヴァルターが微笑む。


「そちらの方々は?」


レオンが尋ねる。


「試験補助員と記録官だ」


昨日、記録を残すよう要求したため用意したのだろう。


少なくとも、表向きは正規の試験として扱うつもりらしい。


リゼットも、少し離れた場所に立っていた。


「なぜ、あなたまでいるんですか」


「見届けるためよ」


「追加試験を受けるのは俺です」


「だからでしょう」


リゼットは腕を組んだ。


「あなたを1人にしたら、怪しい試験でも黙って受けそうだもの」


「黙ってはいません」


「記録を要求しただけで、受けること自体は断らなかったでしょう」


反論できなかった。


ヴァルターがリゼットへ視線を向ける。


「申し訳ありませんが、受験者以外は実技場へ入れません」


「分かっているわ。観覧室から見せてもらいます」


「この試験は非公開です」


「追加試験の立会人を置いてはいけないという規則は?」


ヴァルターの笑みが止まる。


リゼットは、レオンが受け取った書類の写しを取り出した。


昨夜、アルヴァ公爵の屋敷で複製したものだ。


「ここには書かれていないわ」


「記載されていないことが、すべて許可されるわけではありません」


「禁止されていないことを、あなたの判断だけで拒否するの?」


2人の視線がぶつかる。


先に目をそらしたのは、ヴァルターだった。


「……観覧室から出ないことが条件です」


「最初から、そのつもりよ」


リゼットが得意そうにレオンを見る。


「役に立ったでしょう」


「今のところは」


「素直に感謝できないの?」


ヴァルターが鉄扉の鍵を開けた。


重い音を立て、扉が内側へ開く。


「始めよう」


第7実技棟の内部は、円形の訓練場になっていた。


外から見た以上に広い。


壁も床も、黒みがかった石で作られている。


壁の一部には、魔法の衝撃を吸収するための魔石が埋め込まれていた。


訓練場の中央。


4体の人型魔導兵が並んでいる。


銀色の金属で作られた身体。


頭部には顔がなく、横一線に青い光が灯っている。


武器は、それぞれ違っていた。


剣。


盾。


長い棒。


何も持たない1体は、両腕が他より太い。


昨夜、ゼロスレッドをつかんだのは、どれだ。


外見だけでは分からない。


「試験内容を説明する」


ヴァルターが訓練場の外から告げる。


レオンの正面。


魔導兵の後方には、青い水晶が置かれていた。


「制限時間は10分」


「目標は、あの水晶へ触れることだ」


「魔導兵は受験者の進行を妨害する」


「破壊する必要はない。戦闘不能にするか、回避して進んでも構わない」


レオンは水晶までの距離を測る。


およそ40メートル。


途中に障害物はない。


「魔導兵の攻撃で、死亡する可能性は?」


「安全装置がある」


ヴァルターが壁際の操作盤を示す。


「受験者が危険な状態になれば、自動的に停止する」


「外部からも停止できますか」


「当然だ」


昨日、外側には停止装置が見つからなかった。


内部の操作盤だけで止める仕組みらしい。


「操作盤が壊れた場合は?」


ヴァルターの眉が動く。


「そのような事態は起きない」


「起きた場合を聞いています」


白い外套の女性職員が口を開いた。


「実技棟へ供給される魔力を、管理棟から切断できます」


「管理棟までは?」


「ここから、およそ200メートルです」


即座に止められる距離ではない。


レオンは帳面を取り出した。


『魔導兵4体』


『制限時間10分』


『目標、水晶への接触』


『内部停止装置あり』


『外部停止には時間が必要』


「試験中に帳面を見るつもりかね」


ヴァルターが尋ねる。


「禁止されていますか」


「いや」


「では、問題ありません」


レオンは帳面を腰へ戻した。


ヴァルターが操作盤へ手を置く。


「準備は?」


レオンは短剣を抜いた。


「できています」


観覧室の窓の向こう。


リゼットがこちらを見ている。


ヴァルターが魔力を流した。


4体の魔導兵の目に、青い光が灯る。


「追加実技試験を開始する」


最初に動いたのは、剣を持った魔導兵だった。


金属の足が床を蹴る。


想像していたより速い。


レオンは左へ動いた。


剣が振り下ろされる。


一般(コモン)(クラス)歩法(フットワーク)


最小限の動きで刃を避ける。


魔導兵の剣が床へぶつかり、火花が散った。


威力は高い。


直撃すれば、骨が折れる程度では済まない。


レオンは左手を上げた。


「ゼロスレッド」


透明な糸が、魔導兵の右足へ伸びる。


巻きつく直前。


何も持っていなかった魔導兵が腕を動かした。


遠く離れた位置から、透明な糸をつかむ。


昨夜と同じ。


見えている。


いや。


魔力を感じ取っている。


腕を引かれ、レオンの身体が前へ傾いた。


魔導兵は糸を手繰り寄せる。


レオンはすぐに魔法を消した。


つかまれていた糸が消える。


身体の自由を取り戻し、横へ跳ぶ。


直後。


長い棒が、先ほどまで立っていた場所を薙ぎ払った。


風圧が頬を打つ。


3体が連携している。


剣で追い込む。


棒で逃げ道を塞ぐ。


無属性魔法を使えば、4体目が糸をつかむ。


水晶へ向かおうとすれば、盾を持った魔導兵が正面を塞ぐ。


「なるほど」


レオンは小さくつぶやいた。


最初から、ゼロスレッドを使うことを想定した配置。


やはり、能力を調べるための試験ではない。


すでに知られている能力へ、対策を用意した試験だ。


剣の魔導兵が迫る。


レオンは後ろへ下がった。


1歩。


2歩。


3歩。


剣が連続で振られる。


速いが、動きは同じだった。


右上から左下。


横薙ぎ。


正面への突き。


再び右上から左下。


決められた型を繰り返している。


レオンは剣を避けながら数える。


1回目。


2回目。


3回目。


4回目。


攻撃の順番は変わらない。


だが、5回目。


横薙ぎの途中で動きが変わった。


剣が止まり、柄がレオンの顔へ迫る。


レオンは身体を反らした。


金属の柄が鼻先を通過する。


記録された動きだけではない。


相手の回避に合わせて、攻撃を変えている。



学習しているのか。



レオンは距離を取った。


魔導兵たちは追ってこない。


レオンと水晶の間へ並ぶ。


守ることを優先している。



残り時間は、8分。



正面から4体を突破する必要はない。


水晶へ触れればいい。


レオンは床を見る。


魔導兵の足跡。


攻撃によって削れた石。


壁に埋め込まれた魔石。


訓練場全体へ伸びる魔力導線。


使えるものを探す。


盾を持った魔導兵が前へ出た。


残りの3体は、後ろで待っている。


攻めてこないなら。


動かせばいい。


レオンは床に落ちていた小さな石片を拾った。


盾の魔導兵へ投げる。


石は盾へ当たり、乾いた音を立てた。


反応はない。


もう1個。


今度は右側へ投げる。


魔導兵の目が、石の動きを追った。


音と動きには反応する。


レオンは短剣を逆手に持った。


床へ投げる。


短剣は盾の魔導兵から離れた場所へ落ち、石床を滑った。


盾の魔導兵は動かない。


武器には反応しない。


受験者本人が進まなければ、位置を守るよう設定されている。


レオンは再びゼロスレッドを伸ばした。


透明な糸を、短剣の柄へ巻きつける。


直後。


無手の魔導兵が糸をつかもうとする。


レオンは魔法を消した。


つかまれる前に、短く。


もう1度、ゼロスレッドを伸ばす。


短剣の柄に触れる。


すぐに消す。


魔導兵の腕が動く。


だが、糸はすでにない。


もう1度。


触れる。


消す。


触れる。


消す。


連続して魔力をつなげなければ、魔導兵はつかめない。


短い魔力の糸を何度も作り、短剣を少しずつ動かす。


床の上を滑る短剣。


盾の魔導兵の後ろへ回り込む。


無手の魔導兵は、そのたびに腕を動かしていた。


短い糸を追うため、動きが遅れていく。


同時に何度も反応することを想定していない。


レオンは短剣を盾の魔導兵の背後まで移動させた。


最後の1回。


糸を強く引く。


短剣が跳ね上がり、盾の魔導兵の背中へ当たった。


金属音が響く。


盾の魔導兵が振り返る。


その瞬間。


レオンは水晶へ向かって走った。


剣の魔導兵が前へ出る。


棒が横から迫る。


レオンは速度を落とさない。


危機察知が、背中へ冷たい感覚を送る。


右。


レオンは左足を踏み込み、身体を右へ沈めた。


棒が頭上を通る。


続いて、剣。


今度は避けない。


短剣を失った右手を、剣を持つ腕へ添える。


金属の腕を押すことはできない。


力では勝てない。


だが、剣が進む方向を少しずらすだけなら。


刃がレオンの肩をかすめる。


外套が裂けた。


レオンは魔導兵の横を抜ける。


水晶まで、あと15メートル。


背後から重い足音。


4体が追ってくる。


盾の魔導兵が先頭。


その後ろに剣。


左右から棒と無手の魔導兵。


レオンは速度を落とした。


追いつかれる。


盾の魔導兵が身体をぶつけてきた。


直前。


レオンは横へ跳んだ。


盾は止まれない。


そのまま前へ進む。


水晶へ向かって。


「ゼロスレッド」


短い糸を、盾の上端へ伸ばす。


つかまれる前に引く。


盾の角度がわずかに変わった。


後ろから来ていた剣の魔導兵が、盾の背中へ衝突する。


2体が重なる。


棒を持った魔導兵も、急には止まれない。


3体目がぶつかった。


金属の身体が絡まり、床へ倒れる。


残る1体。


無手の魔導兵だけが、倒れた仲間を避けて進んでくる。


レオンと水晶の間へ立った。


残り時間は、4分。


無手の魔導兵が両腕を広げる。


ゼロスレッドをつかむための腕。


魔法を使わずに近づけば、その腕で捕らえられる。


レオンは呼吸を整えた。


この魔導兵は、糸へ反応する。


短い糸にも。


長い糸にも。


ゼロスレッドを使った瞬間、腕を動かす。


ならば。


動かしたい方向へ、糸を出せばいい。


レオンは魔導兵の左側へゼロスレッドを伸ばした。


魔導兵の右腕が動く。


糸をつかむ。


今度は消さない。


右腕が糸を握ったまま、固定される。


魔導兵が糸を引く。


レオンも引かれる。


距離が縮まる。


同時に、反対側へ新しい糸を伸ばした。


魔導兵の右側。


左腕が動く。


2本目の糸をつかむ。


両腕が、左右へ開いた。


レオンは2本の糸を消した。


拘束する腕が、開いたまま一瞬止まる。


その中央を走り抜けた。


魔導兵の胸元を通過する。


大きな腕が閉じる。


背中へ風圧を感じた。


あと1歩。


レオンは右手を伸ばした。


指先が、青い水晶へ触れる。


水晶が強く輝いた。


訓練場へ鐘の音が響く。


『目標到達』


魔導器から、無機質な声が流れた。


時間は、6分42秒。


レオンは水晶から手を離した。


4体の魔導兵の動きが止まる。


倒れていた3体も、その場で沈黙した。


「合格ですか」


レオンが尋ねる。


観覧室では、リゼットが安堵したように息を吐いている。


記録官は、魔導器へ結果を書き込んでいた。


白い外套の女性職員も、水晶の反応を確認している。


ヴァルターだけが、操作盤を見つめたまま動かなかった。


「ヴァルター先生?」


女性職員が呼びかける。


男は答えない。


指が、操作盤の上を動いている。


「試験は終了しました」


レオンが言う。


ヴァルターが顔を上げた。


その表情から、笑みが消えている。


「操作を受け付けない」


「何ですって?」


女性職員が操作盤を確認する。


水晶は、試験終了を示す青色に光っている。


だが。


壁に埋め込まれた魔石は、赤い光へ変わり始めていた。


訓練場へ流れ込む魔力が増えていく。


床の下から、低い振動が伝わる。


止まっていた4体の魔導兵が、再び動き始めた。


青かった目が、赤く染まる。


「停止してください!」


観覧室からリゼットが叫ぶ。


「こちらの操作では止まらない!」


ヴァルターが操作盤を叩く。


演技には見えない。


本人も、この動きを予想していなかった。


訓練場の鉄扉が閉まる。


レオンは扉へ走った。


間に合わない。


重い金属音とともに、出口が完全に塞がれた。


4体の魔導兵が立ち上がる。


先ほどまでとは、動きが違う。


水晶を守るのではない。


全員がレオンへ身体を向けている。


「管理棟へ連絡して、魔力を切断しろ!」


ヴァルターが記録官へ命じる。


記録官が観覧室から走り出す。


200メートル。


止まるまでに、どれほどかかる。


壁の一部が開いた。


昨日は存在しなかった、黒い扉。


その奥から。


新たな足音が聞こえる。


1歩。


2歩。


3歩。


4体の魔導兵より大きい。


重い。


黒い扉の中から、5体目の魔導兵が現れた。


他の魔導兵とは違う。


黒い装甲。


胸の中央に埋め込まれた、白い魔石。


頭部には、赤い光が1個だけ灯っている。


右腕には剣。


左腕には、何もない。


その左手が、ゆっくりと開かれる。


透明な糸が伸びた。


レオンのゼロスレッドと同じ。


目には見えない魔力の糸が、床へ触れる。


レオンは息を止めた。


魔導兵の胸から、無機質な声が流れる。


『受験者番号1847』


『対象Bとの一致を確認』


ヴァルターの顔色が変わった。


「対象B……?」


男は、その呼び方を知らなかった。


黒い魔導兵が剣を構える。


『無属性魔法の観測を終了』


『取得した戦闘記録を反映』


『模倣工程を開始』


透明な糸が、黒い魔導兵の周囲へ広がっていく。


糸の数。


太さ。


伸ばす方向。


それは。


レオンが今まで見せたゼロスレッドの使い方と、まったく同じだった。


黒い魔導兵の赤い目が、レオンを捉える。


『レオン・アーヴェルの排除を開始する』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。