第126話 紙の外
「紙じゃないものを見る」
レオンがそう言うと、リゼットはすぐに意味を理解した。
古い記録は、後から写された可能性がある。
日付が古くても、その紙自体が当時のものとは限らない。
なら、次に見るべきなのは現物だった。
「一番近いところからでいいわよね」
「ああ。第0研究室だ」
2人は以前確認した場所へ向かった。
学院地下。
第0研究室。
以前は、そこに何があるのかを探すことばかり考えていた。
今回は違う。
見るのは、残された物そのものだ。
レオンは研究室に残る備品や装置の管理表示を、1つずつ確認していった。
番号。
記号。
区切り。
紙の資料で見たものと、完全に同じではない。
それでも、組み方には見覚えがある。
「やっぱり似てる」
リゼットが横から覗き込む。
「世界秩序院の資料と?」
「それだけじゃない」
十三環騎士団の災害記録。
そこに残っていた測定器の識別情報。
並べ方。
区切り方。
情報を短くまとめる形。
違う場所で見たはずなのに、基本の考え方が近い。
レオンは備品の表面へ指を近づけた。
紙に書かれた番号ではない。
管理表示そのものが、物に付けられている。
「これなら、後から資料だけ書き直したって説明じゃ足りない」
「ええ」
リゼットも慎重に頷く。
「少なくとも、同じような管理方法が実物にも使われてる」
そこまでは言える。
レオンは別の装置へ移る。
同じように管理表示がある。
その次も。
細部は違う。
数字も記号も一致しない。
それでも、情報の置き方には同じ癖が残っていた。
「文書用の書式じゃないのか」
レオンが呟く。
「どういうこと?」
「紙だけなら、記録を作るための決まりだと思えた」
レオンは備品の表示を見る。
「でも、物の管理にも使ってるなら、もっと広い仕組みかもしれない」
資料を作るためではない。
何かを分類し、識別し、管理するための形式。
そう考えた方が自然だった。
リゼットが腕を組む。
「でも、これで古さまで分かったわけじゃないわ」
「ああ」
そこが次の問題だった。
物に直接残っている。
それは文書より確かな手がかりになる。
けれど。
「これがいつ作られた物か、分からないものね」
「古く見えるだけじゃ駄目だ」
傷。
汚れ。
旧式に見える形。
それだけでは年代は決められない。
レオンは研究室を見渡した。
第0研究室にある。
だから古い。
そう決めることはできない。
「また止まった?」
リゼットが尋ねる。
「いや」
レオンは首を振った。
「紙よりは進んだ」
少なくとも分かった。
似た形式は、記録用紙の上だけに存在するものではない。
物そのものの管理にも使われている。
つまり。
第0研究室。
世界秩序院。
十三環騎士団。
それぞれが、同じ考え方で何かを管理している可能性がある。
そこまで進んだ。
「問題は、この先ね」
「年代が分かる現物」
「そう」
リゼットが短く答える。
レオンは、以前確認した十三環騎士団の災害記録を思い出した。
現場で使われた魔力測定器。
もし、その装置そのものが残っているなら。
あるいは、災害現場に当時の設備が残されているなら。
文書より直接、時代を追える可能性がある。
「十三環騎士団の記録、もう一度見よう」
「測定器?」
「ああ」
「残ってる場所が書いてあるかもしれない?」
「そこまでは分からない」
期待だけで決めるべきではない。
だが、調べる価値はある。
レオンは研究室の備品をもう一度見た。
紙なら書き直せる。
記録なら整理し直せる。
だが、現物は違う。
少なくとも、そこには誰かがその形式を実際に使った痕跡が残る。
次に必要なのは。
古いと分かる現物。
そして、それが残っている場所。
「次は現場だな」
リゼットが頷く。
第0研究室で見つけたのは、答えではなかった。
ただ。
共通する形が、紙の中だけのものではないことだけは分かった。
なら次は。
その形が、どれほど前から現物に残されているのか。
それを確かめる番だった。
ちょっとお休みして、次の更新は土曜日です。




