第125話 始まりではない
「一番古いものから見る」
レオンは机の上に並べた資料の日付を確認した。
第0研究室で見た管理番号。
世界秩序院の認定関係資料。
十三環騎士団が災害対応で使用した測定記録。
同じ形式に見えるものでも、残された時期は違う。
リゼットが紙を年代順に並べ直す。
「第0研究室のものが一番新しいわね」
「ああ」
そこから遡る。
十三環騎士団の記録。
さらに古い世界秩序院の資料。
少なくとも、今確認できる中ではそれが最も古かった。
レオンはその資料を開く。
番号の位置。
記号の区切り。
項目の並べ方。
やはり、基本となる形は似ている。
「これが始まりなら分かりやすいんだけどな」
「世界秩序院が作った形式だった、ってこと?」
「可能性はある」
だが、それを確かめるには証拠が必要だった。
レオンは資料の最初から読み直す。
認定の内容。
確認項目。
記録された結果。
特別なことは書かれていない。
その横で、リゼットが別の箇所に目を止めた。
「レオン」
「どうした?」
「これ」
指先が示したのは、書式そのものについて触れた短い部分だった。
レオンも読む。
何度か読み返す。
そこに書かれている内容は、今使われている形式を新しく定めたというものではなかった。
すでに使われていた記録方法に合わせて、今回の資料を作成した。
そう読める。
「……前からあった?」
「少なくとも、この資料を書いた人たちはそう扱ってるように見えるわ」
レオンは日付をもう一度確認した。
今まで、これが最古だと思っていた。
だが違う。
この時点ですでに、形式は存在していた。
「じゃあ、もっと古い記録がある?」
「あるかもしれない。でも」
リゼットは資料を閉じずに続ける。
「この紙が、そのまま昔から残ってるとは限らないわよ」
「写した可能性か」
「ええ。後から整理された資料なら、書かれている日付だけで形式の始まりまでは決められない」
その通りだった。
事件が起きた時期。
文書が作られた時期。
今残っている紙が用意された時期。
全部が同じとは限らない。
レオンは息を吐いた。
「古いのを探せば、そのまま答えに近づけると思ったんだけどな」
「外れ?」
「いや」
レオンは首を振る。
失敗ではない。
分かったことがある。
少なくとも、この形式は世界秩序院のこの資料より前から使われていた可能性が高い。
そして、第0研究室だけのものでもない。
十三環騎士団だけのものでもない。
長い時間を越えて残っている。
レオンは3種類の資料を見比べた。
組織が違う。
用途も違う。
年代も違う。
それでも、骨組みだけが残っている。
「変わらなさすぎるな」
「何が?」
「形だよ」
組織が違えば、記録方法も変わる。
時代が変われば、使いやすい形へ直されることもある。
もちろん、便利だったから長く使われただけかもしれない。
それでも。
別々の組織で。
別々の用途に使われ。
長い期間を越えて似た特徴が残る。
偶然だけでは説明しづらい。
リゼットが資料を見つめる。
「誰かが決めた形を、みんなが引き継いでる?」
「可能性はある」
「でも、その誰かが分からない」
「ああ」
また同じところへ戻る。
文書を遡るだけでは、起源まで届かないかもしれない。
レオンは紙から目を離した。
「残ってるものが紙だけじゃなければいい」
リゼットが眉を上げる。
「どういう意味?」
「当時使われてた測定器とか、施設とか」
記録は写せる。
書き直すこともできる。
だが、現場で実際に使われたものなら。
作られた時代の痕跡が、もっと直接残っている可能性がある。
リゼットも理解したようだった。
「古い現物を探すのね」
「ああ」
以前調べた古い道や境界標も頭をよぎる。
だが、今はまだ結びつける証拠がない。
必要なのは、似ているものを無理に繋げることではない。
同じ形式が刻まれた、より古い現物。
それを見つけることだ。
レオンは最古だと思っていた資料を閉じた。
始まりを見つけたつもりだった。
だが、その時点ですでに形は存在していた。
紙を追うだけでは足りない。
次に探すべきなのは、時間を写した記録ではなく――
時間そのものを残している現物だった。
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