第123話 同じ形
「認定の痕跡、か」
リゼットが、机の上に広げた資料を見ながら呟いた。
世界秩序院が王立魔法学院の認定に関わっている。
なら、その際に学院側へ残ったものを探す。
歴史の内容ではなく、記録の形式を見る。
それがレオンの決めた次の方針だった。
2人は公開されている古い認定関係の資料を順に確認していく。
記されている内容の多くは、施設の規模や教育体制、魔法訓練を行う環境についての確認だった。
特別な秘密が書かれているわけではない。
リゼットが1枚の記録へ視線を落とす。
「内容は普通ね」
「ああ」
レオンは文章ではなく、紙の端を見ていた。
右上に管理番号。
その下に小さく区切られた記号。
項目ごとに一定の間隔で線が引かれている。
別の資料を取る。
同じ位置。
同じような区切り。
ただし、番号も記号そのものも違う。
「何を見てるの?」
「並び方」
レオンは2枚を横に置いた。
「番号がここ。記号がその下。確認項目の区切りも同じ位置にある」
「決まった書式なんじゃない?」
「たぶん」
それ自体は不自然ではない。
組織が同じ形式の資料を使うのは当然だ。
レオンはさらに古い資料へ手を伸ばした。
そこで指が止まった。
紙の端にある記号。
見覚えがあった。
「これ……」
リゼットが身を寄せる。
レオンはすぐに答えず、記憶を辿った。
学院地下。
第0研究室。
そこで見た備品に付けられていた管理番号。
同じ記号ではない。
だが、数字と記号を分ける位置。
複数の情報を短い区切りで並べる形式。
その組み方が似ている。
「第0研究室で見たものに近い」
リゼットの表情が変わる。
「同じ?」
「そこまでは言えない」
レオンは首を振った。
記号そのものは違う。
資料の用途も違う。
ただ、形が似ている。
リゼットも紙を見比べた。
「確かに……数字の置き方まで似ているわね」
レオンは別の資料も探した。
古いもの。
比較的新しいもの。
年代が違っても、基本的な形式は大きく変わっていない。
さらに、他学院で確認した資料の記憶が重なる。
欠けた記録。
残された管理記号。
すべてが同じだったわけではない。
しかし、情報の並べ方には似た癖があった。
「世界秩序院が第0研究室を管理してる……?」
リゼットが口にする。
レオンも一瞬、その可能性を考えた。
けれど、すぐに首を振る。
「違う。まだ早い」
「そうね」
「分かってるのは、似た形式があることだけだ」
世界秩序院が第0研究室を作った証拠はない。
第0研究室が世界秩序院の一部だという証拠もない。
上下関係を決めるには、材料が足りなかった。
なら、考え方を変える。
「どっちかが上じゃないのかもしれない」
「どういうこと?」
「同じ仕組みを使ってるだけとか」
レオンは資料の記号を指で追う。
「もっと前からある規格を、別々の組織が使ってる可能性もある」
リゼットはしばらく黙った。
「世界秩序院より古いもの?」
「それも分からない。ただ、片方が片方を管理してると決めるよりは、今ある事実に近い」
似ている。
それ以上ではない。
だが、他学院。
第0研究室。
世界秩序院。
離れていたはずの場所に、似た形が残っている。
偶然で片づけるには、少しずつ数が増えていた。
リゼットが資料を閉じる。
「もう1つ確認できればある程度わかるわね」
「ああ」
「十三環騎士団」
レオンも同じ名前を考えていた。
世界秩序院が記録と制度を扱う側なら、十三環騎士団は現場に出る側だ。
もし、そこにも同じ形式が残っているなら。
3つの組織をつなぐものが、ただの偶然とは言いにくくなる。
「でも、北方連合《ノルド=ヴァルハイト》まで行くわけにはいかないわよ」
「分かってる」
直接調べる必要はない。
十三環騎士団が他国の災害へ関わった記録。
そのとき使われた報告や測定の痕跡。
外に残っているものを探せばいい。
レオンは並べた資料を見た。
内容は違う。
場所も違う。
組織も違う。
それでも、残っている形だけが似ている。
偶然かどうかを決めるには、まだ1つ足りない。
次に探すのは、十三環騎士団が残した形だった。
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