第118話 ゼロパルス
レオンは左手を床へ触れた。
ゼロスレッドのように細く伸ばさない。
魔力を薄く、広く。
一度に多く出せば制御できない。
最初は半径2メートル。
無属性魔力が床と瓦礫へ広がる。
触れた瞬間、反応がばらばらに返ってきた。
硬い。
空いている。
魔力がある。
情報が多すぎる。
「っ……」
レオンは手を離した。
「どう?」
リゼットが尋ねる。
「分からない。全部一緒に返ってきた」
失敗。
だが、何も得られなかったわけではない。
広げすぎた。
形まで理解しようとした。
必要なのは空洞の位置だけ。
もう一度。
今度は魔力をさらに薄くする。
返ってきた反応の強さだけを見る。
壁。
石。
木材。
その中に、反応が返らない場所がある。
「右側」
レオンが顔を上げる。
「この瓦礫の向こうに空間がある」
「見えるの?」
「形までは分からない」
リゼットがすぐにガルドを呼ぶ。
ユリアが上を支え、ガルドが右側の石を少しずつ外した。
空間が開く。
子どもを引き出せる隙間ができた。
「こっち!」
衛兵が子どもを受け取る。
次に母親。
しかし、梁が背中側へ食い込んでいる。
レオンは再び薄い魔力を広げた。
反応が乱れる。
人間と木材の違いまでは分からない。
「ミナがいれば、もっと見えるのに」
「今はいないわ」
リゼットが言う。
「あなたが分かる範囲でいい」
レオンは空間だけを探す。
梁の左側に、小さな隙間。
「左を上げれば抜ける」
ガルドが力を込める。
ユリアが氷で支える。
女性の身体が引き出された。
背中から流れた血で服が赤く染まっている。
それでも呼吸はある。
外へ運び出した直後、建物の一部が崩れた。
全員が退避する。
レオンは左手を見る。
指先に鈍い痺れが残っていた。
糸ではなく、波。
周囲へ広げて、返ってくる反応を読む。
無属性魔法。
まだ半径数メートル。
形も、生物と物体の違いも正確には分からない。
それでも。
見えない空間を探すことはできた。
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