第100話 削られた報告書
地方実習から学院へ戻って1週間。
レオンたちは提出した調査報告書の確認のため、資料室へ集まっていた。
机の上には、学院から返却された正式報告書が置かれている。
レオンは最初のページから確認した。
村へ接近した魔物の数。
避難した住民。
負傷者。
破損した建物。
そこまでは、自分たちが提出した内容と一致していた。
ページをめくる。
「ない」
ミナが言った。
魔物が複数種混在していたこと。
本来の生息時期と異なること。
西側から逃げてきた可能性。
記載は短くまとめられていた。
――季節的な餌場移動に伴う群れの接近。
「そんなこと、書いてない」
ノアが自分たちの控えを開く。
次の項目。
村の水路と学院地図の不一致。
正式報告にはない。
住民が覚えている火災と公的記録の違い。
ない。
夜間に起きた魔力変動。
――測定器上の異常値なし。
魔物が避けていた森の一帯。
――危険源確認できず。
ミナが見た周期的な魔力断絶については、項目そのものが削られていた。
部屋が静かになる。
ガルドが報告書を持ち上げた。
「これ、別の報告書じゃねえのか?」
「数字は同じよ」
ユリアが避難人数を指す。
「日時も、私たちの行動も同じ。違うのは、異常だと判断できる部分だけ」
レオンは自分たちが作った控えを横へ置いた。
提出版。
正式版。
1行ずつ比較する。
偶然の省略では説明しにくかった。
そこへクラリスが入ってきた。
2冊の報告書を見ると、表情を変えずに席へ着く。
「確認しましたか?」
「誰が修正したんですか?」
レオンが尋ねる。
「現在、確認しています」
「先生たちじゃない?」
ノアが尋ねる。
「少なくとも、私が提出した段階では皆さんの記録が残っていました」
担任も部屋にいた。
壁にもたれたまま、正式版を見ている。
「報告書はそのまま上へ行くわけじゃない。重複を削り、表現を統一し、未確認情報を外す審査は普通にある」
「じゃあ、正常な処理かもしれない?」
ノアが聞く。
「それを調べる」
担任は答えた。
レオンは正式版をもう一度見る。
問題は、文章が短くなったことではない。
削られた内容に共通点がある。
地図と現地が違う。
教本と魔物が違う。
住民の記憶と公的記録が違う。
測定器には出ない魔力変動がある。
違いだけが消えている。
北東森林でも、古い地図から道が消えていた。
生息記録から魔物が消えていた。
要再測定の印が消えていた。
そして今度は、自分たちが書いた報告から消えた。
レオンは控えを閉じた。
学院外で起きている異常が、学院へ届いていないわけではない。
届いたあとに、普通の出来事へ変わっている。
誰が。
何のために。
それは、まだ分からない。
ただ、「記録が間違っている」だけでは説明できなくなった。
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