家の元所有者
それから、しばらくのんびりした穏やかな日々が続いた。
イライザの街に買い出しに行ったりするくらいで、特に何もしなかった。
ジンは特に庭を気に入り走り回っているし、ガンツは木陰で居眠りしている。
その日、俺はジンとボール遊びをしてあげていた。
ジンは嬉しそうにボールを持ってくる。
しかし、その時、ジンは咥えていたボールを落として、森の方を見つめた。
「どうした、ジン…?」
『ダレカクルー!』
「え…
こんな場所に人なんて…」
しかし、森の中から現れたのは、間違いなく人だった。
「あれ?
君、誰?」
おっとりした顔で魔導士の格好をしたその人はそう言った。
いや、こっちのセリフなんですけどっ!
「あなたこそ誰ですか!?」
俺は言う。
彼はゆっくりとジンとガンツを見回した。
「あぁ、君、飼育のスキルを持っているのか…」
えぇぇぇぇぇ!?
なぜ、それを!!!
「な、な、何の事ですか…!」
「今までこの家を綺麗に掃除していたのは、僕なんだよ。
それが、元の家主との約束でね…」
「元家主…?
あなたは一体…!?」
「少し君と話がしたい。
中に入れてもらえないだろうか?」
俺は彼をリビングに通した。
レモンティーを淹れて、テーブルの上に置く。
「あぁ、気を遣わせて悪いね。」
彼はレモンティーに口をつけた。
「あの、あなたは一体…?」
「僕の名前はゼーダ。
この家の元持ち主とは親友でね。
その彼から、この家を手入れして欲しい、と頼まれていたんだよ。」
「…ゼーダさん、あのぅ、俺はエースと言います…
あの、ここの元持ち主って…?」
「この家は勇者ヘイルが建てたものだよ。」
!?
それを聞いて少なからず衝撃を受けた。
勇者ヘイルだって!?
じゃ、じゃあ、サンダーライオンが言ってた、あの人って…!!!
「そう、ヘイルは君と同じで飼育のスキルを持っていた…
それで、オリジンドラゴンを従える事ができたのさ。
それも、君と同じようにね。」
「飼育のスキルって一体…?」
「さぁね、僕も詳しい事は分からない。
だけど、『魔を従える者現る時、世界は大きく変化する』そう言われている。
ヘイルが現れた時魔王が現れ、さて、君が現れた時、どうなるのか…?」
ゼーダさんはそう言って、残りのレモンティーを飲んだ。
「世界が大きく変化する…?」
「そうだよ。
きっともう、変化は始まっている。
どんな変化かは、分からないけれど。」
「あの!
ヘイルさんは今…!?」
俺は尋ねた。
「さぁ…
それこそ、分からない。
ヘイルはやるべき事がある、と言って突如居なくなった。
今どこにいるのか、生きているのかさえ、分からないんだ。」
ゼーダさんは言った。
「俺は…
どうすれば…?」
「それは君が考えて決める事だよ。
世界を光へ導くか、闇へ落とすかは、君次第かもしれない…
まぁ、君には荷が重いかな?」
「…………。」
俺は沈黙した。
「あぁ、そうだ。
ここに住む者が現れたらこれを渡して欲しい、とヘイルに頼まれていたんだよ。
はい。」
そう言ってゼーダさんは金色の鍵を俺に渡した。
「この鍵は…?」
「地下室への鍵だよ。
きっと君が何を成すべきか、助けてくれるだろう。
じゃ、僕はこれで。」
そして、ゼーダさんは森の中に消えて行った。




