⑶ ある事ない事
碧に呼び出されたホテルの部屋は、広々としたスイートルームだった。
しばらくすると、ルームサービスで追加した飲み物が運ばれてきた。
そして、3人での飲み会が始まった。
明里と碧と、3人で乾杯する。
知らない内に、明里もそこそこ飲める様になっていた。
碧が明里に尋ねた。
「明里さんが主幹と最初に会った時、どの様な印象を持たれましたか?」
……ここで、この質問が出るという事は、私が居ない間の内緒話は、こういった類のものではなかった様だ。
「えぇ?……おじさんと最初に会った時の事ですかぁ?……そうですね~はっきり言って、おじさんは……
変態です!
変態です!
変態です!
変態です!」 〔←エコー〕
私と碧は固まった。
碧は蔑む目で私に言った。
「主幹と最初に会った時って、明里さんがまだ高校生の時ですよね。主幹から聞いていたお話と、だいぶ違いますが」
「あっ、明里さん?……ちょっと誤解を招く様な発言は……」
「おじさんから『私は変態さんだ』って言われました」
「うっ」
……たしかに私は、『あっち系?』とか『そっちの問題?』と言う明里に対して、『私は変態さんだ』と言って、男を大きく見せた。
「『明里が高校卒業したら、すぐに襲っちゃう』って……」
なぁんとぉ……明里は、ある事ない事、言い始めた。
「襲っちゃうって、どんな事するんですかって聞いたら、『すんごくエッチな事』って言ってました」
「で?……で?……」
碧が身を乗り出して、その先の話を催促する。
こうなったら、この場をかき回すしかない。
「さぁて、ルームサービス、何か他に頼もうかな~、碧さんも明里さんも、何かある?」
明里は私をそっちのけで、碧に向けて伝える。
「『私はその日の為に、明里を大切に育ててる』って言ってました」
碧が明里に向かって呆れる様に言った。
「何か……明里さんの嬉しそうな話し方を聞いていると……何ていうか……その……ごちそうさまでしたっ!!」
……どうやら、収まった様である。
次に明里が碧に質問した。
「碧さんにとって、おじさんは、どんな感じですか」
私は慌てて割り込んだ。
「あっれぇ~ここのベッド、リクライニングベッドだぁ」
「そ~ね~、実は私、主幹を追いかけてこの会社に入ったの」
「えっ、そ~だったんですかぁ」
「私の研究が行き詰っていた時、主幹が発表した論文を読んで、研究方法を改めて、お陰でドクタータイトルを取る事が出来ました」
「すばらしいです……あの……碧さん……おじさんに思い、寄せていませんでしたか」
「このベッド~ 電動で高さも変えられるぅ」
「やっぱり、わかっちゃいましたか」
「はい。会社の発表会で最初に碧さんとお会いした時」
「お~このベッド、ヒーターまで付いてるぅ」
「私、碧さんを一目見て、ああ、この女性には、かなわないな~って思いました」
「……でも、主幹は明里さん一筋でした」
「見て見て見てぇ、背もたれがこんなに上がるんだよ~」
「……」
「おじさん!」
……明里に叱られた。
・・・・・・
今度は明里が私に向かって質問した。
「おじさんにとって、碧さんの第一印象って、どうでした?」
碧は身を乗り出して、私の答えを待っている。
「いやぁ、碧さんは、うちの会社の男性社員全員の憧れの的ですから、最初私に声を掛けてくれた時、心拍数が跳ね上がりました」
「……そうだったんですか?」
碧が……なんか嬉しそう。
「ふ~ん、やっぱりおじさん、碧さんにドキドキしてたんだ~」
「あ、いや……私は……小心者だから、綺麗な女性に声かけられると、誰でも……その……まあ、そういう事です」
「はい。そのように理解しました」
碧がこの話を流してくれた。
「では」
えっ、まだ続くの?
「主幹にとって、明里さんと最初に会った時の気持ちを教えて下さい」
今度は明里が身を乗り出した。
「ん~正直言って、面倒くさかった」
「えぇ?」
明里が泣きそうな表情を浮かべた。
「私はあの時、結果を出せない仕事を抱えていて、気持ちに余裕なんてなかったし、帰る所が無いって言い出す明里を追い出したら、この娘この先、どうなっちゃうんだろうって、そんな事考えると、も~面倒くさくなってしまって……」
「それで明里さんを、泊めてあげる事にしたのですね」
「今思い起こすと、恐ろしい事をしていました」
碧が明里に向かって、静かに言った。
「明里さん……良い人にめぐり合えて、良かったですね」
明里が返した。
「はい」
「いや、いや、いや、そんなにいい話じゃないですから」
私は割り込んだ。
「明里が私に対して『あっち系?』とか、『そっちの問題?』とか、さんざん私をののしって……」
碧は、意味不明の表情を浮かべている。
私も仕返しに、ある事ない事、言い始めた。
「我慢堤防決壊攻撃をしかけてくるし……」
「我慢堤防……決壊したのですか?」
「うっ……」
「……」
「『私はおじさんを浄化する』……等と言い出して……」
「浄化って……主幹の性癖についてですか?」
「……、……」
「……」
「とにかく明里は、悪い娘だと言う事です」
「おぉ~このリクライニングベッド、肩こりをほぐすバイブレーション機能付きだぁ」
今度は明里がベッドを試して、会話の邪魔を始めた。
「私も明里さんを見習って、悪い娘になっちゃおうかな~」
……碧が悪い娘になったら、とんでもない破壊力がありそうだ。
「あの……確認したいのですが、碧さんの言う悪い娘とは、どんな娘なのでしょう?」
碧はクスッと笑って答えた。
「エッチな娘です」
「うっ……」
「お・お・お・お・お・お・お・お……バイブレ~ション!」
「……明里さ~ん!」
うるさい明里を、私は叱った。
・・・・・・
結局その日、明け方まで、飲んで食べて喋っていた。
朝の5時、チェックアウトを済ませ、宴会ホテルへ戻って3人別れた。
予定では、このホテルで朝食を取り、10時解散となっているが、別に点呼を取る訳でもなく、早朝帰る人もいる。
私も荷物をまとめて帰る事にした。
帰りの電車で思い起こす。
碧の呼び出し……何だったのだろう。
明里さん、実はそういった目で、おじさんを見ていたのですね。
今回は、ブラック明里さんでした。
次回:だらしない時間の始まり




