⑴ 明里さんと社員旅行
さて、明日からの(木)(金)は、毎年恒例の社員旅行が予定されている。
第1研から第3研、合同での社員旅行。
私は東北研究所に赴任していた為、この社員旅行は6年ぶりになる。
社員旅行と言えば、碧と最初に会った事を思い出す。
二人で抜け出して、ホテルのスイートで飲んだ。
そして今回は、明里と一緒。
……めちゃくちゃ不安だ。
その日の退社後、マンション近くのスーパーで待ち合わせをした。
明日の旅行で必要な物を買う為に、付き合って欲しいと明里にせがまれた。
必要な物と言っても何もない。
ホテルへ行って宴会に参加して、その後温泉に入って次の日帰る。
ただそれだけだ。
本当に何も無いと言ったのだが、明里は「おじさんと一緒に旅行準備の買い物をしたい」との事。
明里は明日の社員旅行、楽しみの様だ。
衣類コーナーをまわっていると、ふと衣類用の防虫剤が目に入った。
今度は私から明里に、お守りとしてナフタリンを渡しておこうか……。
特に何か買う訳でもなく、ただ、私とこんな買い物を見て回りたかった様だ。
結局夕食の食材だけを買って、自宅マンションへ向かった。
明里が夕食の準備をしているあいだ、私はゆっくりと湯舟につかっていた。
明日は、同じホテルに泊まりながら、別々の夜を過ごす。
……事故が起こる様な事……ないよな~
・・・・・・
次の日、ゆっくりとした時間で明里と家を出た。
宴会は17時から。
それまでに着けば良い。
若い連中は早くから行って、リゾート気分を味わう計画を立てている様だ。
明里も誘われた様だが、お受けしなかったと言っている。
明里の会社でのこれから……このままで良いのだろうか……。
まあ、群れない社員も珍しくない。
明里の判断に任せよう。
駅に着いて明里と別れた。
別々の車両に乗る為である。
社員旅行のホテルへ着いて浴衣に着替え、宴会場へ向かった。
宴会は、上座に部長以上の重役が座り、そこから役職の若い順に席が決められている。
新人の明里は、重役の目の前の上座席。
私は一番後ろの下座席となっていた。
時間になった。
社長から一言頂き、取締役から乾杯の音頭。
宴会が始まった。
最初、所長にビール瓶を持って挨拶しに行った。
ビール瓶は形だけである。
皆が注ぎに来る。
「私はそんなに飲めないから」
と言って、逆に私が注いでもらった。
二言三言、お話しを頂き、深く頭を下げて席を離れた。
次に、部長の席へ挨拶に向かった。
部長とは、水瀬碧である。
丁度斜め後ろが明里の席だった。
他人行儀な会話を交わし、深く頭を下げて席を離れた。
私が自分の席に戻ると、元ストロベリーのメンバーが集まって来た。
一番後ろの席である。
無礼講で、わいわいガヤガヤ。
上座に座らされて席を外せない碧……私も混ぜてよと、こちらを睨んでいる。
明里を目で探すと、明里もビール瓶を持って、先輩達に挨拶まわりをしていた。
宴会も、お開きの時間となった。
明里の席を見ると、若い男性社員に囲まれている。
……ちょっと心配。
温泉につかってゆっくりした。
前回の社員旅行では、東京に置いてきた明里を思い出していた。
そして、今回は明里も一緒に来ている。
……だんだん心配になってきた。
温泉を出て、温まった体で渡り廊下を歩いている。
至る所で、男性社員が女性社員を誘っている。
……けしからん。
そういえば、以前の社員旅行で、新人の綾乃が若い社員に囲まれて拉致、いや、誘いを受けていた。
新人の明里も、先輩達に囲まれて誘いを受ければ、上手に断れるだろうか。
おじさんの会社に、悪い人はいない。等と思っていそうだ。
心配になって、明里のスマホに電話した。
「……現在、電波の届かない所にいるか、電源が切られています……」
私の心配が一気に高まった。
何が起きている。
私は速足で、このホテルの中を探しまわった。
すると、私のスマホに、碧からメールが届いた。
『〇〇ホテルのスイートルームに来ています。主幹も来られませんか』
ん~……魅力的なお誘いだが、今はそれどころではない。
明里が食べられる前に、早く見つけ出さないと。
『ごめんなさい』のメールを碧に返信しようとした時、碧から新たにメールが届いた。
『明里さんも一緒です』
……なにぃ?
次回:内緒話




