⑴ 悪い魔法が解けた様に
私が目を覚ますと、世界は一変していた。
まるで、悪い魔法が解けた様に……
「サク、サク、サク、サク」
野菜を切る包丁の音。
暖かいスープの湯気が伝わってくる。
香ばしいトーストと、コーヒーの香り。
そこに……昔の明里がいた。
「おじさ~ん、早くしないと、会社遅刻しちゃうよ~」
「あ、ああ」
「野菜サンド、作ってみました」
「あ、ああ。ありがとう」
「仕事終わったら、どこかで待ち合わせて、一緒に帰りましょうよ~」
「ああ……そうだな」
「おじさ~ん……」
……ああ……やっぱり……明里は……い~な~
・・・・・・
明里と一緒に朝食を頂き、一緒に玄関を出た。
駅まで一緒に歩いて行くが、電車は別の車両に乗る事にした。
一緒にいる所を会社の誰かに見られると面倒である。
明里も私が犯罪者と呼ばれる事を望んでいない様だ。
電車を降りてから会社まで徒歩10分。
お互い知らん顔で会社に向かう。
・・・・・・
昼休みになり、会社の食堂へ行くと明里を見つけた。
女性どうしで大テーブルを囲み、楽しく食事している。
リーダー君が私を見つけ、大テーブルへ誘ってくれた。
そのテーブルは、明里のテーブルの隣だった。
元ストロベリーのメンバーが集まって来た。
5人……あれ?
「佐伯さんは?」
碧が答えた。
「ただいま産休を取っています」
「ええ?」
インテリ君が頭を下げた。
綾乃が不満気な顔で言った。
「こっそり籍入れて、誰にも教えなかったんですよ~」
「……あ~そうなんだ~……おめでとう」
私はインテリ君に、お祝いの言葉を送った。
その時、スコッチの主任が御盆を持って現れた。
「私も混ぜて下さい」
「ど~ぞ、ど~ぞ」
私がそう言うと、彼は碧の隣に座った。
碧がぼやく様に言った。
「佐伯さんに先越されちゃったな~……綾乃さんも、あまりゆっくりしていると、大変ですよ~」
すると、綾乃が爆弾を落とした。
「私、主幹狙いですから」
リーダー君が凍り付いた。
すると碧も爆弾を投下した。
「あ~主幹は……諦めた方がいいですよ~」
私は凍り付いた。
そして碧は私を見て言った。
「4年の予定の赴任が、何で6年になったのでしょう」
すかさず綾乃が私に向かって言った。
「え~、みんなで主幹の帰り、首を長くして待っていたのに……主幹は東北の研究所で、いい事してたんですか~」
……私は答えなかった。
そう、碧は明らかに誤解させる様な言いまわしをした。
皆は私が東北研究所へ赴任している間、良い人が出来たと思ったようだ。
スコッチの主任が、安堵の表情を浮かべている。
……なんだろう。
隣のテーブルから約1名、険しい視線を感じる。
次回:あの婚姻届は……




