⑶ 歓迎会
本日の定時後、新入社員の歓迎会が予定されている。
場所は第1研のイベント会場。
新入社員3人の歓迎会として第1研社員のほとんどが集まる。
実際のところ、歓迎会を口実に、他のグループとの交流を深めましょうといった意味合いの方が大きいようだ。
普段の私なら、こういった面倒な催しは途中で抜け出すのだが、明里の歓迎会となると話は別である。
明里にちょっかい出そうとする不届き者は、記憶しておかなければいけない。
私は少し早めに会場に着いた。
すると後ろから声を掛けられた。
「お疲れ様です」
振り返るとスコッチの主任だった。
「ああ、お久しぶりです」
「これからも貴方の下でお仕事させて頂く事になりましたので、よろしくお願いします」
「いや……貴方が部長職を断らなければ、貴方は私の上司になっていた」
「いやあ、私は部長の器ではありません」
「しかし、おかげで部長にさせられた水瀬さん、嘆いていましたよ」
「碧なら大丈夫です。私が支えますから」
「あ、水瀬さんとお付き合いされているとの事で……」
「はい。……ようやく碧を、貴方から取り戻せました」
私は笑って返した。
「そうだったのですね」
彼も笑って返事した。
「はい」
そして、ストロベリーとブルーベリーのメンバーが会場に入って来た。
「主任、あ、いや、主幹、お疲れ様です」
リーダー君が挨拶してくれた。
「ああ、またみんなと一緒に仕事させてもらえそうだ」
インテリ君が声をあげた。
「ほんとうですか」
すると、後ろから碧が割り込んできた。
「私を仲間外れにしないで下さい」
私が返した。
「水瀬部長は、しっかりと予算、取ってきて下さい」
碧は上目づかいで頬を膨らませている。
私達は同じテーブルに座った。
そして、新入社員の3人が会場に入って来た。
この新入社員歓迎会、リーダー君が進行役の様だ。
所長によって乾杯の挨拶が行われた。
新入社員はリーダー君の誘導によって、各テーブルを挨拶してまわっている。
そして、私のテーブルの所へ来た。
1人ずつ、ビールを注ぎながら挨拶している。
明里は私の所へビールを注ぎに来た。
しかし、小心者の私は、明里に目を合わせられない。
明里は言った。
「紅野明里です。ご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
「はい。こちらこそよろしく」
明里にビールを注がれる時、両手でコップを持って、必死に手の震えを抑えた。
隣で碧が、笑いを堪えているではないか!
だいぶお酒もまわってきたところで、リーダー君がマイクを取った。
「え~ではこのへんで、新入社員の皆さんに対しまして、質問タイムに移りたいと思います」
会場から拍手が沸いた。
「ただし、困らせるような質問は、ご遠慮下さい」
会場から、どっと笑いが出た。
まあ、恒例のイベントである。
質問内容は、穏やかなものである。
「何故この会社を選んだのですか……」
「この会社の印象を聞かせて下さい……」
「この会社で、どの様な事をしたいですか……」
質問するのは、だいたいが主任クラス。
まず始めに自分のチームの紹介。
そして、新入社員に向けて激励の言葉を送り、最後に質問を投げかける。
その質問に対して、3人が1人ずつ答えていく。
彼らとしては、就活の為に積んだトレーニングを、そのまま話すだけである。
しかし、実はこの質問、質問者はまったく別の所に着目している。
就活のトレーニングを積まず、実績だけで入社してきた新人はいないか。
男性2人のスマートな受け答えに対して、明里は言葉を選びながら、落ち着いて答えを探している。
質問者の視線は、明里一人に集まった。
あの娘……実績だけで入社してきた?
・・・・・・
その日の新入社員歓迎会、昔の仲間と会えた事、そして何よりも明里と会えた事が嬉しかった。
私は、珍しく飲み過ぎてしまった。
歓迎会が終わり、私はタクシーで自宅マンションへ向かった。
そう、タクシーを利用しなければならないほど、私は飲み過ぎていた。
自宅マンションの扉を開けた。
そこには、いつもと変わらない真っ暗な部屋が待っている。
私は部屋中の電気をつけて、バスルームに入った。
シャワーを浴びて、自分のベッドへ転がった。
そして、私は意識を失う様に眠ってしまった。
私は気付かなかった。
次の日の朝早く、玄関扉のカギが開けられた音を。
次回:悪い魔法が解けた様に




