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⑴ 明里さん、ありがとう

 今日、スコッチ、ストロベリー、ブルーベリーの各主任と各プロジェクトの班長に集まってもらい、現状の報告と抱えている問題を述べてもらった。


「グループの垣根を越えて、解決に力を貸して欲しい」

 私は、別のグループから、何かの切っ掛けになるようなアイディアが出て来る事を期待していた。


 しかし、何も出て来なかった。

 横から覗き込んだ人が、そう簡単に解決の糸口を提示出来るほど、簡単な内容ではない。


 本来それは、私に期待された仕事だ。

 つくづく私自身の無力さを感じた。


 その日、定時で上がり、自宅へ向かっている途中、明里からメールが届いた。

 帰りが遅くなるとの連絡であった。


 ああ、チーム・スコッチ……3つのグループの中で抱えている問題の数は少ないが、1つ1つが重そうである。

 明里も今、大変だろう。

 私は明里に「了解しました」とだけ返信した。


 1つでも、私が解決出来れば良いのだが、正直、何も浮かばない。

 そう、今の私は、碧の新設研究所へ異動する気になれない。

 それは、研究者としての衰えを感じ始めているからだ。


 スポーツ選手等の様に、年齢を重ねる事で、若い頃に出せていた結果が、出せなくなってしまう。

 閃きが訪れない。

 それでは、研究職に就いても、結果が出せない。


 現役引退の時期が来たら、自ら退く。

 そんな、暗黙の了解が交わされている。

 碧は私のそれに気付いていた。

 だから、明里が碧に『主幹は、誘わないのですか』と尋ねた時、『もちろん誘いますが、私の誘い、受けてくれるかしら』と答えたのだろう。


 私は……研究職引退の時期に、来ているのだろう。


 ・・・・・・


 途中でコンビニに寄り、弁当を買って自宅に着いた。

 部屋で独り、弁当を広げて食べている。


 男として、明里と交わる事が出来ない私……。

 明里が辿り着いてくれた仕事が出来なくなった私……。

 この2つを失った先に……私には何があるのだろう。

 例えようもない、つらい気持ちが押し寄せてくる。


 その時、玄関扉が開いた。

 明里が息を切らせて帰ってきた。

 駅から小走りで来た様だ。


「ただいま」

「あ、ああ、おかえり。……どうした?」

「……なんでもない」

「……」


「なんか、ちょっと、心配になって」

「……心配?」

「さて、何食べようかな~」


 ……勘の良い明里だ……私から何かを感じ取ったのだろうか。


「冷蔵庫に入っている食材で……あ、パスタにしよ~っと。おじさんも食べます?」

「ああ、じゃあ少しもらおうかな」

「はい」


 ・・・・・・


 そして、改めて明里と一緒に夕食を頂いた。


「『少し遅くなります』ってメールもらったけど、あまり定時と変わらない帰宅で、何かやる事、あったんじゃないの」

「うん……大丈夫、大丈夫」


「……そう」

「……」


 夕食を終え、風呂を上がってベッドで寝ていると、明里が部屋をノックして布団の中へ入ってきた。


 明里は何も言わない。

 ただ、今私を、独りにしてはいけない。

 そんな気持ちが伝わってくる。


 今日は、明里がそばに居てくれて良かった。


 布団の中で、明里が体を寄せる。

 暖かさが伝わってくる。


 ……あれ……どうした?

 ……これは……いける?


 私は、そのまま明里を抱いた。

 肌を触れ合い……体を重ね……。


 そしてその日、初めて明里と繋がった。

 明里の目が潤んでいた。


 ……明里さん……ありがとう。


次回:明里さんの想い


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