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⑶ 私のカッコ良さ?

 社員旅行を終えて、今年度の通常業務が始まった。

 私にとって、主幹としての仕事は、今日からが始まりである。


 私には、スコッチ、ストロベリー、ブルーベリーの抱えている問題を解決する為に、各主任を指導して欲しいとの事だが、私が横から助言する事で解決出来る様な簡単な事ではないはずである。


 各グループからの報告は上がってきているが、それに目を通すだけでは解からない。

 各グループが行っているミーティングに参加して、皮膚感覚で探りたい。

 何か有意義な助言、出来れば良いのだが。


 最初にリーダー君のチームのミーティングに参加した。

 リーダー君持前のリーダーシップによって、チーム全体、活気があり、実に良い感じだ。


 次に、インテリ君のチームのミーティングに参加した。


 そして最後に、スコッチのミーティングに参加した。

 ……明里がいる……無視、無視……明里も無視してくれている……それでいい。


 3つのチームのミーティングに参加して、私は自分の部屋へ戻った。

 細かいところを横から口出ししてチームを乱すのは愚かな行為だ。

 私の目から見て、仕事の進め方として大きな問題は見当たらない。


 しかし、抱えている問題が解決出来ない。

 どうやったら解決出来るか。

 それがわからないから研究なのだ。


 私はゆっくりと椅子に座り、昨日、明里から聞いた話を思い出した。

 会社は、事業部から独立している研究所を、事業部の企画部の下に組み込み、開発部と改めるとの事。


 私が見て来た物作りの会社には、2種類あると思う。

 1つは、技術者が新しい物を作り、それを営業がビジネスに繋げる。


 もう1つは、市場からビジネスにつながる物を企画し、それを技術者に作らせる。


 もちろん、どちらかが100%と言う訳ではないが、要は、どちらがイニシアチブを握るかである。


 今までのうちの会社は、前者側だった。

 そして今後、会社は後者側に舵を切る考えである。


 私は決して反対ではない。

 企業の目的は利益を上げる事。

 今の時代としては、後者側に舵を切るべきであろう。


 ただ、技術者の1人としては、寂しいものである。

 好きな物を好きな様に作らせてもらえれば良いのだが、それでは、掛けた費用が回収出来ないから、この様な判断がなされたのだろう。


 研究開発には、莫大な費用がかかる。

 そしてそれが完成出来る保証は無い。

 ならば、他社によって完成されたものを、権利ごと買い取った方がリスクは低い。


 研究職の問題は組み立て作業と違って、完成までの時間と費用が読めない事。

 だから、研究職的色合いの濃い内容をやめて、開発にとどめた業務に軸足を置く考えだろう。


 世界中から集めた情報から市場調査を行い、ビジネスにつながる物を企画して、技術者に作らせる。

 だが、技術者は魔法使いではない。


 現状の技術で実現可能かどうかを判断しながら企画しなければならない。

 しかし、意外と簡単に出来る事と、実は難しい事がある。

 その判断は、その分野の研究者でなければ解らない。


 だから技術畑出身の〇〇常務取締役は、自分の進退を掛けて研究機関の存続を訴えたのだろう。


 以前、研究所と企画部が協力して、ビジネスを進めようとした試みがあった。

 しかし、研究所が作りたい物と企画部が作らせたい物が合わず、うまく噛み合わなかった。


 今回は、はっきりと、企画部の下に開発部を位置付けるとの事で、企画部が作らせたい物を業務命令として開発部に作らせる事が出来る。

 今後、技術者にとって、気持ちの乗らない開発であっても、従わなければならない。

 まあ、これは、あたりまえの事であるが。


 私が見て来た技術者には、2種類いる。

 自分の気持ちが乗った仕事は、すばらしい成果を出す事が出来るが、気持ちの乗らない仕事、また、他人の管理下で行う仕事については、まったく成果を出す事が出来ない人。


 そしてもう1つは、仕事の内容に、こだわりは無く、どんな内容でも、そしてどんな管理下でも、それなりの成果を出す事が出来る人。


 今後、前者側の人は、異動の対象となっていくのだろう。


 ・・・・・・


 その日の夜、明里は私の部屋をノックして、ベッドに入ってきた。


 明里が話し掛けた。

「今日、うちの研究室でのミーティングに、おじさん初めて参加したでしょう……」


「ああ、これからは毎回、参加させてもらう」

「そ~なんだ~」

「みんなの邪魔にならない様に気を付けるから」


「おじさんが帰った後、私の1こ上と2こ上の女性の先輩が、『主幹、カッコい~』って言ってました」


 私は布団から飛び起きた。

「そう?」


 明里は、ジトッとした目で、私を睨む。

「……手出しちゃ、駄目ですよ」


 私は呆れた顔を向けて返した。

「明里さん、貴女の知っている私は……」

「わかってます、わかってます」

「……よろしい」


「でも……意外でした。おじさんってモテるんですね」

「ハハハ……そ~なんですかぁ?」


「おじさんのカッコ良さが解る人は、私ぐらいだと思っていました」

「私のカッコ良さ?」


「はい。おじさんのカッコ良さって、カッコ悪い所です」

「カッコ悪いところ?」


「以前、おじさんと一緒に行った会社の発表会で、おじさんより若い人に、頭をペコペコ下げて回っていました」

「そんなところ、見ていたんだぁ」


「その、おじさんのカッコ悪さ、カッコ良かったです」

「いや単に、今回の発表会で説明員として担当された方へ、よろしくお願いしますって言って回っていただけです」


「……私の父は、部下をアゴで使う人でした」

「……」


「母は常に父の顔色を伺いながら、生活を送っていました」

「……そうでしたか」


「だから、堂々と頭を下げて回っているおじさんは、私にとってカッコ良かったです」

「……そう」


「はい」

「……ありがとう」


 布団の中で、そんな話しをしながら、明里と一緒に寝た。


ここまでお付き合い頂いた読者さま、本当にありがとうございます。


さて、次回の第17章が、最終章となります。

最終章も、3話で完となります。

明里さんとポンコツおじさん、どうなっちゃうのでしょう?

どうか最後まで、お付き合い下さい m(_ _)m


次回:明里さん……ありがとう


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