⑵ どうだろうか
私と明里が起き出したのは、その日を過ぎた深夜だった。
結局昨日は、だらしない時間を満喫し、1日中寝てしまった。
しばらくして、明里は朝食の支度にとりかかってくれた。
朝食といっても深夜である。
窓の外は、真っ暗。
ゆっくりと朝食を頂いた。
食後、明里はコーヒーを入れてくれた。
部屋の電気を消して、明るくなり始めた窓の外を眺めながら、二人でゆっくりと熱いコーヒーを飲んだ。
リビングテーブルでまったりしていると、明里が話し掛けてきた。
「おじさんが来る前の、私と碧さんとの内緒話、気になります?」
「……はい、気になります。でも、女性同士の内緒話、聞かせてもらう訳には、いかないよね」
「いえ、実は自宅に帰ったら、主幹にもお話し下さいって碧さんから頼まれました」
「……それは、あの時だけの内緒話だったのですか」
「はい」
「……何故、そんな事を?」
「実はこの話、取締役の間だけの、水面下で進められている話だそうです」
「……それは、極秘情報なのですね」
「はい」
私は、気持ちを改めた。
「はい。では、聞かせて下さい」
「最初の話として、要点は3つあります。1つめは、この会社が持つ、全国の研究所を、全て開発部に改めるそうです」
「開発部?」
「そして2つめですが、東京本社の第1研から第3研の3つの研究所は、1つの開発部に統合するそうです」
「……え?」
「尚、統合は、人員削減が目的の様ですので、半数以上の方が、設計部や試験部等に異動となる様です」
「……それは、すさまじいな」
「そして3つ目ですが、研究所を開発部に改めて、組織上、企画部の下に位置付けるとの事です」
「……企画部の下……なるほど」
……そうか、いよいよこの会社からも、研究業務は消滅する訳か。
しばらく沈黙が続いた。
私は明里に質問した。
「2つあります」
「はい」
「1つ目は、取締役でない碧が、何故その様な極秘情報を入手されているのか。そして2つ目は、何故その事を碧は明里に伝えたのか」
「はい、実は先ほどの計画、〇〇常務取締役が反対しているとの事です」
……〇〇常務取締役といえば技術畑出身で、碧が私の所へ異動願いを出した時、私を擁護してくれた人だ。
そう、私の書いた論文を精読されていた。
明里は話を続けた。
「〇〇常務取締役が、ご自身の進退を賭けて、事業部から独立した研究所を、新たに設立する様です」
「ほう」
「そして、その所長に碧さんが就かれる様です」
「えっ……」
「規模は、今の第1研の1/3程度で、場所は、今の実験棟になる様です。そして、予算は5年先まで確保した様です」
5年先?……なるほど、その5年間で将来に向けて期待出来る結果が出せなければ、常務取締役は責任を取り、研究所は解体する事を告げられているのだろう。
「碧さんには、その研究所での採用権を含め、相当強力な権限を持たされる様です」
……与えられた権限の大きさ、それはそのまま、責任の大きさでもある。
「新生研究所へ異動を希望される方は、今まで行って来た研究内容と、現在暖めているものがあれば、それを提出して頂き、その内容を審査して採用者の選別を行うとの事です」
「それは大変だ」
「そして私に、『研究所への異動を申請して欲しい』と、碧さんから誘われました」
……なるほど、だいたい話はつながった。
碧が直接、明里を誘ったという事は、明里が異動を申請すれば審査は形だけで、採用は確定だろう。
たしかにこの内容、会社で明里を呼び出して、オフィシャルに話をするのは具合悪い。
明里は話を続けた。
「この計画には色々な調整がある様で、速くても来期からになる様です」
「今期は始まったばかりだから……来期……速ければ1年後」
「私が、『主幹は、誘わないのですか』と尋ねましたら、『もちろん誘いますが、私の誘い、受けてくれるかしら』……と言ってました」
……そうか、やはり碧は気付いていたか。
「おじさんも新生研究所への異動、申請しますよね」
「……どうだろうか」
「……えぇ?」
「……」
次回:(第16章 終話)私のカッコ良さ?




