地球チームの反応
一方こちらでは、無言など当然起こるはずもなく、最初に柄の悪い男が口を開いた。
「けっ! 誰が優勝するかだと? 決まってんだろ! んなもん、空一択だ!」
顔はにやけ、空の勝利を疑わない。ソファにどっかりおしりを下ろし、鼻息を荒く、自信満々に答えた。
「それは不可能だ。 ……と、言いたいところだが、これは、分からなくなってきたな」
反対するかと思いきや、意外にもシンスイはセッキの妄言に賛同した。驚いたセッキが彼女の顔を見ると、心なしかニヤついているように見えた。
「てっきりまた否定するかと思ったが、てめぇもようやく空の凄さを分かったか!」
「なんで貴様が威張っているのかは知らんが、まぁ確かに凄いことは認めよう。だが、私が勝てると思った予測は、なにも空の活躍だけを見た判断ではないぞ? なぁ、カーシェス」
顔をカーシェスに向けながら、話をバトンを口で渡す。
受け取らざるを得ないカーシェスは、少々気まずそうな顔をしていた。
「なんで俺に振る。そこの馬鹿が調子に乗るだろうが」
そこの馬鹿、もといセッキは、自分のことだとは思っていない。それに、話の内容をいまいち把握できていないでいた。
しかし、バトンは既にカーシェスの手の中。話さざるを得ない状況。覚悟を決めて、カップに口を付けた後に話始めた。
「お前も見ただろう。キユとシヨクの戦いのことだ。二人の戦いは壮絶だった。俺たちのこれまでが前座だと思わせるくらいにな」
控室に居た全員、二人の戦いを思い出した。モニターで一部始終を見ていた者たちだけでなく、その場で戦っていた者たちもだ。
足手まといだった。精々、シヨクの気を反らす程度。唯一、レセントだけが戦いについていけていたが、それ以外はキユに加勢をするどころか、近くにいたことで彼の全力を邪魔していた。他の者とキユたちにはそれほどの差があり、並外れた実力を持つ二人の戦いは、それほどまでに凄まじかった。
「まぁ…… 確かに凄かったが……」
その戦いを思い出したセッキでさえ、元気がない。空に対する自信が揺らぐほどに。
「二人の戦いは熾烈を極めた。だが、それが良かった。シヨクをひどく傷つけさせるほどにな」
「!」
勘も頭も悪いセッキでも、それを聞いて、カーシェスがなにを言いたいのか理解した。そして、元気はすぐに復活した。
「それでも、空とシヨクには天と地ほどの差があったわけだが……」
「あ? なんだよ?」
勘が悪いセッキは、これには気が付かない。あるいは気が付いているのかもしれないが、正確の悪さで気付かないふりをしているのかもしれないが、反応からして前者だろう。
「あー…… まぁ、その、なんだ。ラキアを倒せる実力を持つ今の空なら、万が一ということがあり得るかもしれん」
歯切れが悪そうに答えた。照れ隠しではないことはすぐに分かった。では彼は、なぜそれほど言い淀んでいたのか?
この男に煽られるからである。
「あれあれあれぇー? おっかしいなぁ? 前と随分評価が違うようだけど、どうしてかなぁ? あ! ひょっとして、自分を負かしたラキアちゃんが、格下だと思っていた空君に倒されちゃったから、空君を立てようとしてるのかぁ?」
煽りに煽るセッキのウザ顔が、カーシェスの瞳に映る。
(我慢だ我慢。あいつは猿だ。猿以下だ)
セッキをゴミかなにかと思い込むことで、怒りを鎮めた。だが、怒りは手に持つコップを揺らすところに表れていた。
「まぁ確かに? 空君、強くなりすぎちゃったからなぁ? 否定したままシヨクを倒しちゃったら、赤っ恥かいちゃうもんねぇ?」
(我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢……)
コップがさらに揺れる。中の紅茶が飛び散っていた。
このままセッキの煽りも、カーシェスの怒りも留まらず、二人の喧嘩は避けられないだろう。そう思った次の瞬間、二人のいさかいを止めたのは、意外な人物の意外な言葉だった。
「空は彼には勝てないよ」
爽やかな声を控室に響かせて、足音を鳴らす。全員が声のした方に顔を向けると、話題の人物が皆に向かって歩き近付いていた。
「そりゃどういう意味だ、キユ。お前、空の実力を認めてるだのなんだの言ってたじゃねぇか」
聞き捨てならぬセリフを聞いて、怒りを顔に出しながらキユに詰め寄る。
カーシェスは、ようやく怒りを鎮めることができて、口元に紅茶を運んだ。既に、ソーシャが淹れ終わった後だ。
「確かに言ったね。けど、シヨクに勝てるとは言ってないよ」
爽やかな発言は変わらない。空の実力を認めているというのも嘘ではないだろう。だからこそ、キユの発言はどこか引っ掛かるところがあった。
「らしくねぇな。お前こそ、『勝てる可能性がある』とか言い出しそうなのに、なんで空が負けるみたいな話をするんだよ」
キユはしばらくセッキの目を見つめては、とある人物に声を掛けた。
「君はどう思うかな、ライナ。空とシヨクの戦い、勝つのはどっちだと思う?」
今度のバトンはライナに渡されると共に、全員の視線がライナに注がれる。
「……」
ライナは黙って、紅茶の香りを楽しんだ。
「……そうですね。今の私の見解では、間違いなくシヨクです」
「あ⁉」
セッキの鋭い視線がライナに刺さる。だが、当の本人は気にする様子もなく、優雅に紅茶を楽しんでいた。
「なんだよお前もキユも! あいつを前にして、頭がおかしくなっちまったんじゃねぇのか⁉ そんなにあいつが怖ぇのかよ!」
怒りに満ちた顔が、あちこちに向けられる。それでも、キユはニコニコして立ち尽くし、ライナは涼しい顔で紅茶にもう一度を口を付けていた。
「ああ、もう! どっちでもいいから答えろよ!」
「からかうのはもういいでしょ、キユ。いい加減そいつ、うるさいから要点だけ言いなさい」
セッキの大声に耐えかねたレセントは、膝に肩ひじを付いて文句を垂れる。セッキには、彼女がなにを言っているのか理解できなかった。
「あ? なに言ってやがる?」
怒り爆発寸前のセッキ。それを前に、キユは笑いを止められなかった。
「あはははは! ごめんごめん、冗談が過ぎたね」
腹を抱えて、目元の涙を拭う。
「冗談? どういうことだ?」
「空がシヨクに勝てないってことさ」
「!」
それを聞いたセッキの顔は、ようやく紅潮から解放された。
「なんだ! やっぱり、お前も空が勝てると思ってんじゃねぇか! 変な冗談言いやがって!」
「思ってないよ。空はシヨクに勝てない」
「……は?」
力強く肩を叩くセッキの手を振りほどいて、キユは足を動かし、モニターに近付いていた。セッキの脇を通るその時、彼は一つ付け足して話した。
「今の空には、ね?」
「! おい。そりゃ、どういう……」
振り向き、キユの方を見た。彼は、ソファのもたれ掛かるところに手を掛け、ライナの方を見ていた。また、別の質問をしようとしている顔だ。
「ライナ。もし僕が周りのことも気にせずに、最初からシヨクと戦っていたら、勝っていたのはどっちだったと思う?」
「シヨクだね」
間断なく答えた。それと同時に、ライナとシノブが、なぜ、足を引っ張った自覚があるのに、涼し気な表情をしているのか理解した。どう転んでも、この結末を変えることができなかったからだ。
「……理由は?」
分かり切っているはずなのに質問する。これは間違いなく、セッキに聞かせるためのものだ。
「シヨクは実力をまだ隠している」
「……は?」
流石に笑えなかった。笑いに変えることができなかった。流石に冗談が過ぎるからだ。それは、セッキだけでなく、シンスイやカーシェス、シオリまでもがそう思っていた。
「みんな、私の能力は知っているよね? 直接見た相手の情報を引き出す能力。この能力で、シヨクの実力を推し量ろうとした」
「……結果は?」
待ちきれなくて飛び出した言葉。シンスイから出たところを見るに、全員がライナの次の言葉を待っているようだった。
「……彼は、もう一段階強くなる術を持っている。それを出されると、空に勝ち目はない」
全員の目が丸くなった。特に、セッキの反応が一番大きいだろう。空の実力を信じ、シヨクが致命傷を負ったことを聞かされれば、誰だって空の勝利を信じて疑わない。セッキは、その思いが強かった分、絶望への落差は凄かっただろう。
「……では、『今の空には』とは、いったいどういうことだ?」
シンスイは自身の焦りの中に、僅かな希望があることを見出した。それが、キユの発言、「今の空では勝てない」というものだった。
全員の視線がキユに注がれ、彼の視線はライナに向いていた。
「何度も言うように、私の能力は直接見た相手の情報を引き出す能力だ。そして、それを空にも使った」
「それで! どうだった⁉」
食い気味にセッキが結果を問いただす。いつの間にか、キユの隣に並んでソファのもたれ掛かるところに身を乗り出していた。
「見えなかったよ。全く」
「……あぇ?」
期待していた言葉と違って、思わず変な声を出した。
ライナは気にせず話を続ける。
「底が見えないっていうのかな。それとも見えすぎるのか。私が覘いた彼の情報は真っ白だった」
「……白?」
セッキの確認に小さく頷き、話を続ける。
「それがなにを意味するものなのかは分からない。けど、私とキユは、そこに可能性を見出した」
流れるように、バトンはキユへ。全員の視線もキユに集まった。
「その白が、空の限界を示すものなら、シヨクへの勝ちの目はない。けど、もしそれが、更なる成長を示唆するものなら……」
「空の勝てる可能性がある……」
結論を言う前に、シンスイが思いを口にする。正解だと言わんばかりに、キユは首を縦に振った。
「だから僕は、空の実力を信じているし、今の実力では勝てないと分かっているから、さっきのような発言をしたんだ」
これで分かってもらえたかな? と言わんばかりの眼差しでセッキを見る。既に彼の目には、希望と期待で溢れかえっていた。当然彼とは、キユとセッキ、二人のことである。
「んだよ。そんなことなら早く言えよ!」
セッキは背もたれをひょいっと乗り越え、堂々とソファに腰かけた。
「なら俺は、黙ってあいつの勝ちを待つだけだ!」
腕を組んで、モニターを見た。
他の者も、釣られるようにモニターに視線を移す。勝利を信じる者、信じない者、思いはそれぞれだろうが、結果は空に委ねられる。最終決戦がもうすぐそこまで迫っていた。




