当然のように入る実況ターン
オタガミはマイクを握る。そして、息を大きく吸い込んだ。
その光景を見たゼウスは、スッと耳に指を持ち出し、耳孔にはめ込むことで音を遮断した。
「またしても‼ 彼がやってくれました‼」
耳栓を超えて聞こえてくるオタガミの声に、「ああ、耳を塞いでよかったな」。ゼウスは心の底から安堵した。そして恐れた。耳を開いた瞬間に、周りの音が一段階大きく聞こえる謎の現象を。
また、各控室のメンバーたちも、黙って音量を一段階下げた。
「ご存知、優勝候補だった四名。その内の一人、ネリムがダークホースによって破られました」
ネリムは、その放送を黙って聞いていた。これは戒めだ。故郷にいる者たちを救えず、この場にいる者たちの思いを踏みにじった自分への。
悔しさと歯がゆさで顔を歪ませながらも、次に来るであろうアナウンスで、心は安堵した思いでいっぱいだった。
「その時は誰しもが、『運が良かった』、『相性が良かった』。大半がそう思っていたでしょう。偶然、偶々。そう声を上げる人も多々いたことでしょう」
少し残念そうな感情を込めて、少し暗めのトーンでオタガミは話す。しかし、その言葉を言い終えると、ないはずの酸素を、あるいは呼吸が必要かどうか分からないけれども、オタガミは鼻で大きく大気を吸った。
ゼウスは耳を塞いだ。
「しかぁぁし! その言葉は、彼の功績で間違いであるということが証明されました!」
嬉しそうな感情を乗せて、吸った空気を言葉に変換して吐き出した。
「最優秀候補であるのはシヨク。これはもう疑う余地もないでしょう。では、彼を打ち破るのは誰か? ネリムが居なくなった今、そこで名を挙がるのは二名! 地球代表、キユ! そして…… ラキアだ!」
ここでその名を出すことがどういうことなのかを皆が知っている。地球の控室に居るメンバーたちも胸が高鳴る。ネリムも、今か今かと言ってくれることを待ち望んだ。
「シヨクを倒せる者は、この二人以外にあり得ない。私も、この結果を見るまではそう思っていました」
オタガミのマイクを握る手が強くなる。手汗で湿っているのが分かる。震える拳、額には汗。実況者として、胸高鳴る展開に、テンションを上げずにはいられなかったようだ。
「しかし! 我々の予想は、またしてもこの男に覆された! 戦場可憐な一輪の花が、この男によって摘み取られた! もう、皆さまお判りでしょう、ダークホースの超少年! 白時空ぁぁぁ‼」
「うおるぅぅぅぁぁぁあああ‼」
控室に居たセッキは、実況に負けないくらいの声量で雄叫びを上げた。喜びと興奮で、声量もテンションもフルスロットルのようだ。ソファにくっついていた尻を勢いよく引きはがし、その場でガッツポーズを取っては、存在をうるさくした。
シヨクとの戦闘に敗れ、先に控室へと戻っていたレセントは、近くにおいてあったリモコンを拾い上げ、セッキに向かって音量ボタンを押した。小さくならなかった。
「もはやこれは疑う余地はないでしょう! 彼こそダークホース。彼こそ優勝候補ですよ!」
目を輝かせながらゼウスを見る。疑いではない。なにかを勘ぐる感じでもない。実況者として、一人の観戦者として、少年が革命を起こす瞬間を見て、興奮を抑えきれないといった様子だった。
「これは僕の見る目がなかったと言うしかないね。彼は弱い人間じゃない。いや、『もう』弱い人間じゃないと言った方がいいのかな? 戦いの中で成長する姿はまさしく、『人間』そのものだよ」
ひた走る空が映ったモニターを見つめる。それは既に、解説者の眼差しでも、神としての眼差しでもない。期待と祈りを少年に捧ぐ、一人の感情を持つ生物としての眼差しだった。
「『神』である以上、そのことを喜ばないわけにはいかないでしょう。私も、中立という立場を忘れて、彼を応援したくなってしまいました」
反省の色を見せつつも、言葉に本音が乗っていない。これはあくまでもマイクパフォーマンスだ。聞いている者たちを煽っては、飽きさせないテクニック。その証拠に、オタガミは次なる言葉をサクッと並べた。
「しかし、これは皆さまも同じではないでしょうか? なんといっても、次なる相手は今催し『最強』! 彼にやられた者も多くいることでしょう」
全員の頭に同じ顔が思い浮かぶ。やられた者は、その時の情景を思い出す。圧倒的な力。全てを蹂躙する強者としての姿。送還されて、癒えたはずなのに痛む傷。
誰しもが、あの巨体を、あの動きを、あの顔を、シヨクを思い浮かべた。
「果たして、この戦いを制するのは『最強』か⁉ はたまた『ダークホース』か⁉ 最終決戦、まもなく始まります!」
マイクが切れる。アナウンスを聞き終え、あるところではざわめきが起き、あるところでは無言が起こった。




