続くすれ違い
初撃、ギリギリで防ぐ。二撃目と三撃目は僅かに喰らう。四撃目で致命傷を患った。彼女の猛攻は続く。しかしその中でも、彼女に訴え続けた。
「話を聞いてほしい。自分は君を……」
「『救いたい』、だろ? よく聞くセリフだと言ったはずだ!」
それでも彼女は耳を貸そうとはしなかった。斬っても蹴っても殴っても立ち上がる空に、刃を立て続けた。その中で、彼女は疑問を覚えた。
「貴様、なぜ反撃してこない!」
距離を取った彼女は、剣先を相手に向けて憤る旨を伝える。
彼女が抱いた違和感。それは、相手に攻撃する素振りがないということ。
自身のスピードを捉えているにせよ、そうでないにせよ、誰だって闇雲に反撃する動作を行う。当たれば御の字、当たらなくとも反撃くらいはしようというのが戦う者としての本能だからだ。
これまで戦ってきた敵たちは全員そうだった。徐々に増える切り傷に怯え、なにもない空間を斬る者。一か八かの反撃のチャンスを目論み、明後日の方に攻撃を仕掛ける者。私のスピードを捉えながらも体が反応できず、直観に頼る者。
攻撃を仕掛けるか、対策を取るか、あるいは命乞いをするか。パターンは大体それくらいだった。
だが、目の前の男は違う。防御の体勢を取りつつ、その場から一歩も動こうとしない。丸まって縮こまることも、命乞いをすることもない。傷から流れ出る血を気にする素振りもなく、ふらつく足で地面に根を張り、堂々とした立ち姿を披露する。逃げる素振りも反撃する素振りもない。
「話がしたい」
「既に終わった。貴様と話すことは、もうなにもない!」
攻撃を仕掛ける。今度は二撃目も防がれた。さっきよりも反応が速くなっている。続く攻撃もかすり傷で終わった。再び距離を取って様子を伺った。
……真っ直ぐ曇りのない目でこちらを見ている。淀みがない。欲がない。正しく言えば、自分を救いたいと本気で思っているのが分かる。
そんなこと、あるはずがないというのに。
「空、もういいだろ? 相手は聞く耳を持ってねぇ。このままだとやられちまうぞ。お望み通り反撃してやろうぜ?」
二人の世界の中、リエガは紳士に助言する。
しかし、空の方も悪魔の言葉に耳を傾けず、防戦一方を貫いた。
「おい、聞いてんのか!」
大きめの声で話しかける。しかし、空は無反応を貫いた。
「てめっ、いい加減に……」
口調強めにリエガが文句を述べようとした。それを止めたのは他でもない、死神だった。
「リエガ」
「あ⁉ なんだよ⁉」
ギハンに噛みつく。
「今は空に任せましょう」
「なに言ってやがる。このままほっといたらこいつはこのまま……」
「信じましょう」
「!」
理詰めでもない。ただ空を信じる発言。思わぬ言葉に、リエガは言葉を失った。
「今空は、大きな成長を遂げようとしているのかもしれません。それは私たちにとっていいことなのか悪いことなのかも分かりません」
空を見る。懸命に攻撃を防いでいた。だが、反撃をする素振りはなかった。
「同じ人間に憑いた者同士、静かに生末を見守ろうではありませんか」
ギハンの言葉を聞いて、リエガも空を見る。相変わらずの無表情だったが、目が違う。今までの虚ろな目とは違う、確かに覚悟を持った目がそこにはあった。
「……ケッ」
耳を貸さない空に腹を立てつつも、リエガも彼の生末を見守ることにした。ほんの少しの期待と興奮を持って。
「防戦一方だと、貴様に勝ちの目はないぞ!」
空に警告を促すと、ラキアは何度目かの突撃を行う。しかし今度は、その攻撃すべてを捌かれた。
「なっ⁉」
驚きで動きが鈍る。しかし、なんとか身を翻して、一瞬で距離を取った。
「……馬鹿にしているのか?」
憤りの言葉が再び、彼女の口から吐き出される。だが今度は、空の心が絞め付けられることはなかった。なぜなら、彼女が怒る理由が、はっきりと理解しているし、そうなることも仕方ないと思っているからだ。
「今の一瞬の間、貴様なら反撃できたはずだ! なぜ、攻撃を仕掛けてこなかった⁉」
空の予想通り、彼女が怒っている理由は真剣勝負を仕掛けない自身に対してのこと。彼女の言う通り、空は反撃を仕掛けることはできたが、空の望みはそれではない。彼がやりたいことは、一貫してただ一つ。
「何度も言っている。話がしたいだけだと」
表情を変えることなく、真っ直ぐ彼女を見つめてはそう述べた。
「こちらも言っただろう! 貴様と話すことなどないと! これ以上何を話すというのだ⁉」
「誤解を解きたい」
「誤解だと⁉ 自分は他の奴と違うとでもいうのか⁉」
図星を突かれたような、理解してくれて嬉しいような、複雑な思いが空を襲う。だが、それを理解した上で彼女が怒っているのだとしたら、空の中では、まだ誤解は解けたことにはなっていない。
「……そうだ。自分は君を助けたいんだ」
「っ、」
またそのセリフを、といわんばかりの剣幕で、ラキアの攻撃は続く。だが、結果は同じ。体勢を崩すことさえなかったが、空に傷を負わすこともなかった。




