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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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戦いたくない相手

「……」


 空は次なる相手を探し求めて、街の中を走り回っていた。とある場所から凄まじい音が聞こえてくるため、そこに向かって足を動かしていた。


「……」


 一方で、ギハンたちは、ネリム同様、空の一言を思い出していた。


「……まさか空があんなことを言うなんて」


 未だに空の言動が信じられないギハンは、自身の思いを口に出した。


「ねっ! 空が立派に成長してくれて嬉しいよ!」


 ギハンの言葉に、リギラは嬉しそうに語る。天使として、空が正しい道に進むことが嬉しいようだ。


 一方で、リエガはなんだか面白くなさそうに舌打ちした。


「この調子で、色んな人を助けるために、活躍する人になろうね!」


 空にこれから活躍してほしい願望を込めて話す。既に、空の自意識が覚醒したことを受け入れ、今後の展望も視野に入れている言い方だった。


「……」


 空は黙ってリギラの話を聞き、懸命に足を動かした。


「……それでは早速、空には活躍してもらいましょうか」


 なにかを発見したギハンは空に合図を送ると、それに合わせて足を止めた。


「またこいつかよ。今更、こんな奴に手こずらねぇよな?」


 ネリムと戦った後だと役不足だと言わんばかりに、リエガは小言垂れ、空に圧を掛ける。


「……」


 自我が芽生えた空だったが、まだ、そのような圧に左右されるほどではなく、いつも通り淡々と、戦闘の準備を始めた。


「オマエ、ワがドウシをタオしたヤツだな?」


 片言の言語で空に話しかけるオークは、拳をガツンッと合わせると、自身を奮い起こした。


「ソのツヨさ。ゼヒ、てアワせネガいたイ」


 オークは早速、臨戦態勢を整る。言葉はいらず、早く戦いたいといった様子だ。


「こんな奴に手こずってんじゃねぇぞ、空。この後お前は、とんでもねぇ奴と戦うんだからな」


 とんでもない奴とは、当然、シヨクのことだ。リエガの中では、既に空とシヨクが戦うことは確定事項らしい。そしてこの戦いは、シヨクと戦う前のウォーミングアップといったところだろう。空は死神の鎌を出して、握りしめた。


「……」


「……」


 両者睨み合い、出方を窺う。そして、その時は一瞬だった。


 目にも止まらぬ斬撃が、オークの体を切り裂いたのだ。


「バカな。オレがこんなにアッケなく……」


 やがてオークは倒れ伏し、黄金色の光に包まれ消えた。


「ほう。私の一撃を防ぐか。どの相手も一撃で倒す、自慢の一刀だというのに」


 声がした。口調はシンスイと似ているのに、芯があって可憐な声だった。


 空は、鎌を破壊されたことも気にせず、声のした方を見た。


「まぁいい。次は確実に葬ってやる」


 そこには、空が最も戦いたくない黒髪の女性が立っていた。


「……全く見えなかった」


 一連の流れの末、ギハンは驚きの声を上げる。


 オークを倒したのは、実は空ではない。ギハンの目で追えぬ素早い斬撃が、一瞬にしてオークを斬り伏せたのだ。


 それだけではない。斬撃はオークだけに留まらず、相対していた空をも襲ったのだ。あまりにも鋭い俊足の一太刀は、死神の鎌を一撃で壊すにまで至った。


「リエガ。あなたにはさっきの一振りが見えましたか?」


 自分の目がおかしくなったのではないことを証明するため、ギハンは同士に質問を投げる。これで、「見えていた」と返答されれば、自身の力不足を痛感するしかない。


「……悔しいが、全然だ。オークが倒れるまで、攻撃されたことにも気が付かなかった」


「……そうですか。私の目が悪くなってしまったと心配していたのですが、どうやらそのようなことはなさそうで安心しました」


 なんて、軽い冗談で誤魔化してはいるが、内心は焦りでいっぱいだった。


(……私やリエガですら見えない、超スピードでの攻撃。これが彼女の能力ではなく、素の身体能力なのだとしたら……)


 おぞましい考えを頭によぎらせながら、ギハンの視線は彼女に移る。細い剣を片手で持ち、こちらをじっと見つめている。とても、オークを倒せるようには見えない。


(彼女の力量は、シヨクやキユにも届き得る)


 ギハンの中で、彼女への警戒指数が上昇する。先ほど戦った弓使いとは遥かにレベルが違う。基準が、彼女しかいなかったため、ラキアへの評価も相対的に低くなっていた。


 だが、彼女の動きを見て、その評価は大きく変動する。ネリムを抑えて堂々の二位にランクインだ。


「来ないのか? なら、こっちから行くぞ!」


――ガキィィン!


 相手の掛け声の後、すぐに金属音が鳴り響いた。


「……私の攻撃を二度も防いだ。なるほど。どうやら今までの相手とはひと味違うらしい」


 そこに居たはずのラキアの姿がない。いつの間にか、彼女は全く別の位置に立っていた。


「また見えなかった……! なんというスピード!」


 悔しさもあり、相手の速度に驚いたこともあるが、ギハンには、それ以上に注目すべき点があった。空である。


(その圧倒的なスピードを、彼は二度も捌いてみせた! いや、見る感じでは、捌いたというよりもギリギリ当てた、という方が正しいのかもしれませんが、それでも、反応しているのは事実!)


 ギハンの注目が空に集中する。空は、壊れた鎌を捨て、新たに別の鎌を生成した。


(彼には、彼女の攻撃が見えているというのか?)


 ギハンの予想とは異なり、空に彼女の攻撃は見えていない。それでも攻撃を防ぐことができたのは、類い稀なる戦闘センス、ネリム戦の時にも見せた危機察知能力、そして、彼女ならこうするだろうという空の予測。


 空自身、なぜ、自分の予測が的中しているのか分からず、疑問に思っていた。


「このまま直線的に攻撃を仕掛けたところで、防がれることは目に見えている。さて、どう切り崩したものかな」


 一方ラキアは、空への攻略に力を入れ始めた。攻撃を防がれた相手は過去にもいたが、その時も、頭を使い、アプローチを変えることで、敵を屠ってきた。今度も同じだ。攻撃方を変え、倒す。彼女にとって、空は敵ではなかった。


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