サイドストーリー)ライナVS
「そこでしょう」
片手に剣、もう片手に本を持ったライナは、一体のギャルに向かって剣を振り下ろした。
「ちょっ、まじぃ? なんで本体バレんのー?」
顔からは冷や汗が出ているのに、口調は相変わらず舐め切ったままだ。そんな彼女は、鋭いネイルをぎらつかせ、相手の剣戟を受けきった。
「私の能力のおかげでね。人の観察は私の得意とするところなのだよ」
爽やかな笑顔には相応しくないほど、ライナの攻撃は鋭く相手の急所を的確についていった。
「良い顔で言うなし。能力的に頭いいのは分かったけど、それにしては攻撃激しくない? お兄さん、どう見ても頭で戦うタイプっしょ」
視線の先はライナが着ている服装と、手に持っている参考書のようなもの。相手の攻撃を捌きながら雑談を交わす。それだけ余裕があるのか、はたまたこれが彼女の戦闘スタイルなのか。洞察力に優れたライナでも、そればっかりは見抜けなかった。
「頭を使っても、それを活かせるフィジカルがなくちゃね。どんな相手でも倒せるように、私なりに鍛えてきたのだよ!」
語尾を強めに攻撃力が強くなる。剣が狙う箇所はやはり急所。それも、彼女が防御を苦手とする場所ばかりだ。
「さっきから急所ばっか狙ってくんね。それも能力で分かるもんなの?」
「そうじゃなきゃ狙わないとも。私からしてみれば、それさえも防ぐ君の方が凄いんだけどね」
「だてに最後まで残ってないかんね。やっぱ、それ相応の活躍はしなきゃっしょ!」
今度は、ギャルの方が語尾を強めて反撃を仕掛けた。ネイルにしてはあまりにも硬い尖った爪をライナへと繰り出すも、身軽な研究者はそれらを全て捌いていった。
「やっぱ、全然頭使う人っぽくなーい」
攻撃が当たらずに文句を垂れるギャル。その一間、彼女の大振りがライナを襲う。
「なら、分身を使って攻撃すればよいでしょう」
しかし、ライナは容易く攻撃を捌き、その反動で後ろへ後ずさりした。
「もっとも、分身に意識を集中させる余裕があれば、の話ですが」
それを聞いたギャルは、顔を引きつらせた。
「……やっぱ弱点もバレてっし」
「先ほどまで活発に動いていた分身が、本体を攻撃した瞬間、その活動をピタリと止めた。分身に意識を向けないと思うように動かせないということは、誰でも気が付くでしょう」
「気付かれないように立ちまわってのに、お兄さんが本体当てちゃうからっしょ。相手の弱点を見抜く能力とか、相性最悪っしょ」
「おや、私の能力に気が付いていたんですね。能力の詳しい内容までは分からないだろうと踏んでいたのですが」
「そりゃ、あんだけ急所狙われたり、うちの能力の弱点見抜かれてたら気づくっしょ。本体もすぐにバレちゃうしさ!」
話の途中、ギャルは両手を前に伸ばして分身たちに指示を送る。ライナの周りを囲んでいた分身たち数体は、一斉に一人のターゲットを襲う。
「……」
機敏な動きをする分身たちに負けじと、ライナも格闘家顔負けの戦闘センスを披露する。分身たちは倒されていくたびに、霧となって霧散していった。
「やっぱり、ぽくなーい」
「それはさっき聞きましたよ」
ひとしきり分身を片付けると、ずれたメガネの位置をもとに戻してギャル本体の方を見た。周りには分身がまだまだいるのに、二人の目が合っているのだ。
「……お兄さんの能力ってさ。観察した対象の弱点だったり隙を突く能力って認識で合ってる?」
互いの動きを警戒し、様子を伺っている中、ギャル兵士は口を開いた。
「その通りですよ。ですので、あなたの弱点はさっき言った通り把握しています」
自身の情報を包み隠すことも、はぐらかすこともせず、堂々と開示した。
「隠さないんだねー」
「既にその必要がありませんからね。私の視界に入った時点で、既に情報は取得されています」
淡々と答える。もはや、能力を知られようと問題がない、といった様子だ。
「……そ。『観察した対象』の情報のね」
相手から現地を取ると、ギャルは不敵に微笑んだ。
次の瞬間、どこからともなく銃弾が飛んでくる。銃が発射された音はない。分身たちの隙間を掻い潜って、銃弾はライナのわき腹を貫いた。
「うっ、」
鈍いうめき声を上げ、片膝を付く。痛みで押さえたわき腹から、血が滲み出ているのを手の感触から把握した。
「自分から弱点を教えてくれてまじ助かるー」
ライナの頭上から舐め腐った声がした。ふと顔を見上げると、ギャルがこちらを見下ろしているのを視認した。
「お兄さんの弱点、教えてあげよっか?」
余裕綽々といった感じで、彼女は笑顔を向ける。それに対して、ライナも負けじと苦しそうな笑顔を向けた。
「結構ですよ。『視認していない相手の情報は見れない』なんて弱点、誰が考えても分かるものですから」
「確認を取るまで理解できなかったあなたは頭が悪い」という皮肉を込めてセリフを吐くと、腹を押さえ、よろめきながらもなんとか立ち上がった。
「なんだ。自分で把握してるの偉すぎなんですけど」
しかし、その皮肉は彼女には通用せず、むしろ感心される始末だった。
「けど、それを理解してて遠距離攻撃を警戒しないのは馬鹿すぎね? 誰だって警戒するっしょ」
「してましたよ。ですが、サイレント銃でくることは私の想定外でしたがね。銃声が聞こえれば、いつでも動けるようにはしていたのですが」
持っていた剣を傾け、その準備をしていたことをアピールする。その仕草を見て、ギャルは相手が嘘を付いていないことを察した。
「それは流石に流石すぎ。けど、うちも同じ立場だったら似たようなことしてたかも」
「同情はいりませんよ。結局、喰らっていては同じですからね」
「それは確かにそう」
相手の攻略法を見つけたギャルは、嬉しそうに顔を歪ませると、
「んじゃ、もう一発いっとく?」
嬉しそうに発射の合図を述べた。
だが、彼女のセリフよりも先に、軍人は場所を移動して既に発射を完了させていた。狙いは相手のこめかみ。ギャルの囮もあって反応も遅れている。直撃は必定だった。
しかし、そうは問屋が卸さない。サイレントに放たれた弾丸は、確かに一直線上にライナのこめかみに向かっていた。当たると思われた直前に、ライナが体を前に倒さなければ確実に当たっていただろう。
「なっ⁉」
スコープ越しに命中を確認していた軍人は驚きの声を上げる。弾丸を避けられたのだから当然といえば当然の反応だ。
(攻撃を読まれた⁉ そんな馬鹿な⁉)
驚きつつも、今の攻撃で位置がバレてしまったため、軍人はすぐに場所を移動した。
「うっそー。今の避ける? ふつー」
一方で、飛んできた弾丸がライナにではなく、分身に当たった場面を目撃して、彼女は再び冷汗を掻いた。
ライナの方を見る。汗は凄いが、痛みで倒れたという感じではない。間違いなく、弾丸を避けるための動きだった。
「……ここから観察できる狙撃スポット、二十三カ所」
「……は?」
体勢を整え始めたライナがぼそりと呟く。なにを言っているのか分からなかったギャルは、彼にその意味を問い質そうとするも、ライナは続けざまに独り言を呟いた。
「分身を障害物と仮定した時、その狙撃スポットから私を狙える場所はたったの二カ所」
「お兄さん、まさか……!」
ライナの言葉を聞いて、ギャルはたじろぐ。なぜなら、相手が銃弾を避けたのではなく、予測したのだと悟ったからだ。
「さっき一カ所目から射出したから残るは一カ所。そこからの位置なら、私は体を前に倒すだけで避けることができる」
ライナは腹痛続く怪我から手を離すと、落とした本を拾い上げ、もう片方に握っていた剣を目の前のギャルに向けた。
「飛んでくる場所が分かっているなら、避けることはわけないよ」
彼は知っていた。軍人が、本体と分身の違いを見極められないことを。だから、分身を巻き込んで銃を撃てないことも。本体に当ててしまえば、勝ちの目がなくなるからだ。
「さぁ、続きをしようか」
ライナの目は、まだ死んでいなかった。
「……ほんと、天敵だわー」
ギャルは何度目かの冷汗を流した。




