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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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サイドストーリー)ライナVS

「そこでしょう」


 片手に剣、もう片手に本を持ったライナは、一体のギャルに向かって剣を振り下ろした。


「ちょっ、まじぃ? なんで本体バレんのー?」


 顔からは冷や汗が出ているのに、口調は相変わらず舐め切ったままだ。そんな彼女は、鋭いネイルをぎらつかせ、相手の剣戟を受けきった。


「私の能力のおかげでね。人の観察は私の得意とするところなのだよ」


 爽やかな笑顔には相応しくないほど、ライナの攻撃は鋭く相手の急所を的確についていった。


「良い顔で言うなし。能力的に頭いいのは分かったけど、それにしては攻撃激しくない? お兄さん、どう見ても頭で戦うタイプっしょ」


 視線の先はライナが着ている服装と、手に持っている参考書のようなもの。相手の攻撃を捌きながら雑談を交わす。それだけ余裕があるのか、はたまたこれが彼女の戦闘スタイルなのか。洞察力に優れたライナでも、そればっかりは見抜けなかった。


「頭を使っても、それを活かせるフィジカルがなくちゃね。どんな相手でも倒せるように、私なりに鍛えてきたのだよ!」


 語尾を強めに攻撃力が強くなる。剣が狙う箇所はやはり急所。それも、彼女が防御を苦手とする場所ばかりだ。


「さっきから急所ばっか狙ってくんね。それも能力で分かるもんなの?」


「そうじゃなきゃ狙わないとも。私からしてみれば、それさえも防ぐ君の方が凄いんだけどね」


「だてに最後まで残ってないかんね。やっぱ、それ相応の活躍はしなきゃっしょ!」


 今度は、ギャルの方が語尾を強めて反撃を仕掛けた。ネイルにしてはあまりにも硬い尖った爪をライナへと繰り出すも、身軽な研究者はそれらを全て捌いていった。


「やっぱ、全然頭使う人っぽくなーい」


 攻撃が当たらずに文句を垂れるギャル。その一間、彼女の大振りがライナを襲う。


「なら、分身を使って攻撃すればよいでしょう」


 しかし、ライナは容易く攻撃を捌き、その反動で後ろへ後ずさりした。


「もっとも、分身に意識を集中させる余裕があれば、の話ですが」


 それを聞いたギャルは、顔を引きつらせた。


「……やっぱ弱点もバレてっし」


「先ほどまで活発に動いていた分身が、本体を攻撃した瞬間、その活動をピタリと止めた。分身に意識を向けないと思うように動かせないということは、誰でも気が付くでしょう」


「気付かれないように立ちまわってのに、お兄さんが本体当てちゃうからっしょ。相手の弱点を見抜く能力とか、相性最悪っしょ」


「おや、私の能力に気が付いていたんですね。能力の詳しい内容までは分からないだろうと踏んでいたのですが」


「そりゃ、あんだけ急所狙われたり、うちの能力の弱点見抜かれてたら気づくっしょ。本体もすぐにバレちゃうしさ!」


 話の途中、ギャルは両手を前に伸ばして分身たちに指示を送る。ライナの周りを囲んでいた分身たち数体は、一斉に一人のターゲットを襲う。


「……」


 機敏な動きをする分身たちに負けじと、ライナも格闘家顔負けの戦闘センスを披露する。分身たちは倒されていくたびに、霧となって霧散していった。


「やっぱり、ぽくなーい」


「それはさっき聞きましたよ」


 ひとしきり分身を片付けると、ずれたメガネの位置をもとに戻してギャル本体の方を見た。周りには分身がまだまだいるのに、二人の目が合っているのだ。


「……お兄さんの能力ってさ。観察した対象の弱点だったり隙を突く能力って認識で合ってる?」


 互いの動きを警戒し、様子を伺っている中、ギャル兵士は口を開いた。


「その通りですよ。ですので、あなたの弱点はさっき言った通り把握しています」


 自身の情報を包み隠すことも、はぐらかすこともせず、堂々と開示した。


「隠さないんだねー」


「既にその必要がありませんからね。私の視界に入った時点で、既に情報は取得されています」


 淡々と答える。もはや、能力を知られようと問題がない、といった様子だ。


「……そ。『観察した対象』の情報のね」


 相手から現地を取ると、ギャルは不敵に微笑んだ。


 次の瞬間、どこからともなく銃弾が飛んでくる。銃が発射された音はない。分身たちの隙間を掻い潜って、銃弾はライナのわき腹を貫いた。


「うっ、」


 鈍いうめき声を上げ、片膝を付く。痛みで押さえたわき腹から、血が滲み出ているのを手の感触から把握した。


「自分から弱点を教えてくれてまじ助かるー」


 ライナの頭上から舐め腐った声がした。ふと顔を見上げると、ギャルがこちらを見下ろしているのを視認した。


「お兄さんの弱点、教えてあげよっか?」


 余裕綽々といった感じで、彼女は笑顔を向ける。それに対して、ライナも負けじと苦しそうな笑顔を向けた。


「結構ですよ。『視認していない相手の情報は見れない』なんて弱点、誰が考えても分かるものですから」


 「確認を取るまで理解できなかったあなたは頭が悪い」という皮肉を込めてセリフを吐くと、腹を押さえ、よろめきながらもなんとか立ち上がった。


「なんだ。自分で把握してるの偉すぎなんですけど」


 しかし、その皮肉は彼女には通用せず、むしろ感心される始末だった。


「けど、それを理解してて遠距離攻撃を警戒しないのは馬鹿すぎね? 誰だって警戒するっしょ」


「してましたよ。ですが、サイレント銃でくることは私の想定外でしたがね。銃声が聞こえれば、いつでも動けるようにはしていたのですが」


 持っていた剣を傾け、その準備をしていたことをアピールする。その仕草を見て、ギャルは相手が嘘を付いていないことを察した。


「それは流石に流石すぎ。けど、うちも同じ立場だったら似たようなことしてたかも」


「同情はいりませんよ。結局、喰らっていては同じですからね」


「それは確かにそう」


 相手の攻略法を見つけたギャルは、嬉しそうに顔を歪ませると、


「んじゃ、もう一発いっとく?」


 嬉しそうに発射の合図を述べた。


 だが、彼女のセリフよりも先に、軍人は場所を移動して既に発射を完了させていた。狙いは相手のこめかみ。ギャルの囮もあって反応も遅れている。直撃は必定だった。


 しかし、そうは問屋が卸さない。サイレントに放たれた弾丸は、確かに一直線上にライナのこめかみに向かっていた。当たると思われた直前に、ライナが体を前に倒さなければ確実に当たっていただろう。


「なっ⁉」


 スコープ越しに命中を確認していた軍人は驚きの声を上げる。弾丸を避けられたのだから当然といえば当然の反応だ。


(攻撃を読まれた⁉ そんな馬鹿な⁉)


 驚きつつも、今の攻撃で位置がバレてしまったため、軍人はすぐに場所を移動した。


「うっそー。今の避ける? ふつー」


 一方で、飛んできた弾丸がライナにではなく、分身に当たった場面を目撃して、彼女は再び冷汗を掻いた。


 ライナの方を見る。汗は凄いが、痛みで倒れたという感じではない。間違いなく、弾丸を避けるための動きだった。


「……ここから観察できる狙撃スポット、二十三カ所」


「……は?」


 体勢を整え始めたライナがぼそりと呟く。なにを言っているのか分からなかったギャルは、彼にその意味を問い質そうとするも、ライナは続けざまに独り言を呟いた。


「分身を障害物と仮定した時、その狙撃スポットから私を狙える場所はたったの二カ所」


「お兄さん、まさか……!」


 ライナの言葉を聞いて、ギャルはたじろぐ。なぜなら、相手が銃弾を避けたのではなく、予測したのだと悟ったからだ。


「さっき一カ所目から射出したから残るは一カ所。そこからの位置なら、私は体を前に倒すだけで避けることができる」


 ライナは腹痛続く怪我から手を離すと、落とした本を拾い上げ、もう片方に握っていた剣を目の前のギャルに向けた。


「飛んでくる場所が分かっているなら、避けることはわけないよ」


 彼は知っていた。軍人が、本体と分身の違いを見極められないことを。だから、分身を巻き込んで銃を撃てないことも。本体に当ててしまえば、勝ちの目がなくなるからだ。


「さぁ、続きをしようか」


 ライナの目は、まだ死んでいなかった。


「……ほんと、天敵だわー」


 ギャルは何度目かの冷汗を流した。


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