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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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ネリムに代わってロボット投入

「はぁ、はぁ、はぁ」


 電撃トラップ、ワイヤートラップ、地雷トラップ、ガストラップ、火炎放射トラップ、etc…… あらゆるトラップが空を襲い、傷を増やしながらもそれを全て掻い潜る。


 流石の空も、これには息を荒く…… せず、していたのはメイの方だった。


「……そんなに大変だったか?」


 タイミングを見計らって、リエガは心配そうに声を掛ける。仕事を果たして疲れ切った同士を煽るほど、リエガも腐ってはいないということだ。ただ、この時この場でなければ、盛大に煽り散らかしていたことは言うまでもない。


「はぁ、はぁ。炎と風を巻き起こすのは、全然、楽だったんだけど。はぁ、床とか壁とか、思ったよりも硬くって、いっぱい、エネルギー使っちゃったから、はぁ」


 息を切らしながら、メイは自身が疲れた理由を説明する。「こいつなりに頑張っていたんだな」と、メイの労力を認め、ひとまず休憩させてやることにした。


「はぁ、はぁ、ふぅ。でも大丈夫。なんとか落ち着いてきた。エネルギーもまだ残っているし、さっきのおじいちゃん? と戦う分には持つと思う!」


「……そうか」


 優しくすることに慣れていないリエガには、そっぽを向いて煽ることを我慢することが精一杯だった。


「……しかし、長いですね、この通路。一体、どこまで続いているのでしょうか?」


 メイとリエガのやり取りを横目に、ギハンはどこまでも続く空間を嘆いていた。炎で照らされ灯りが要らなくなったとはいえ、畳みかけるような罠の数々を前に傷は増えていき、体力やエネルギーは減っていった。その度に、リギラが天使のエネルギーを体に回し続けた。


「もしかしたら、同じとこをグルグル回ってたりしてね!」


 当のリギラは、冗談を言う余裕がありそうな様子だった。戦闘のたびに傷を付ける空に、天使のエネルギーを流し続けるのだから、慣れたものなのだろう。


「そんなことはありませんがね。一応、その可能性も考慮して、目印になりそうなものはなるべく記憶していますが、同じような場所を通った記憶は今のところありません」


 リギラの冗談に真面目に返すギハン。こちらは警戒と相まって、あまり余裕がない感じだ。先ほどの失態を引きずっているというのもあるのだろう。


「目印? 例えばどんな?」


「分かりやすいもので言えば白骨死体ですね。ここまで来るときに何個かありましたが、同じようなものは一つもありませんでした」


「白骨死体⁉ そんなものがあったの⁉」


「恐らくこの惑星に住んでいた住人のものでしょう。なんで滅んだのかは分かりかねますが、このような地下で倒れているところを見るに、あまりいい死に際ではなかったのでしょう」


「……そっか……」


 ギハンの推測を聞いて、リギラは難しい顔をした。


「どうか、安らかな眠りを」


 空の体内で、天使は静かに、慈悲深く祈った。それをリエガとギハンは黙って見ていた。


「……そうしている間に、なにか見えてきましたよ」


 戦闘を全て空に任せて、談笑をしている種族たちの目に広い空間が映し出された。


「……なんだ、ここ?」


「やけに広い空間ですね」


 先ほどの通路とはまた違った異様な空気を感じ取り、種族たちの警戒心は強まる。空も、いつなにが起こっても問題ないように、死神の鎌を常備していた。


 緊張感ある空気感の中、突然そのエリアの明るさが変わった。


「なんだぁ⁉」


 空の炎のように薄暗さを感じさせない人工的な灯りを感じ取り、リエガ達は周囲を見回す。すると、電気系統の光がこのエリア全体を照らしているのを視認した。


「……この光は間違いなく、」


「ええ。ネリムのものでしょう」


 早々に予想を立てた二人はその名を起こす。それに呼応するかのように、どこからともなくネリムの姿が現れた。


「まさか、あの罠の数々を潜り抜けてくるとは。若さというものは、限界を知らないのう」


 賞賛にも嫌味にも聞こえる言葉を聞いて、空がそちらに視線を向けると、先ほどと同じようにネリムがそこに立っていた。


 空はその場に転がっていた石ころを拾って、ネリムに向かって放り投げた。貫通した。


「やっぱホログラムか」


 これも予想が付いていたようで、リエガもギハンも驚きはしなかった。


「ほっほっほっ。そう簡単に姿は見せられんて」


 空の行動を見て、ネリムは笑う。それは、「嘲笑」ではなく、「挑戦」。「本体のわしを拝みたくば、引きずり出してみろ」と言われているようだった。


「なら、無理矢理にでも引きずり出してやるしかねぇよな⁉」


 リエガの怒号を聞いて、空は臨戦態勢を取る。死神の鎌を収め、広範囲攻撃を得意とする属性エネルギーを体に循環させた。手には炎や水が溢れ出す。


「やる気十分、と言ったところか。よかろう。なら、わしも本気で叩き潰すとしようかのう」


 空の能力を前にしても興奮せず、相対する敵のやる気を前に、ネリムは片手を上に上げた。


「?」


 その行動になんの意味があるのか理解できない一同は、疑問の表情を浮かべる。しかし、その意味はすぐに理解することとなった。


――ズゥゥン



 突然、なにかが降ってきたかと思えば、盛大に地響きを鳴らした。


「なになに⁉ なにが降って来たの⁉」


 代わりに焦るリギラ、そして、メイを横にして、リエガやギハンは警戒に努めることができた。煙の中から姿を現したのは、無数のロボット兵だった。


「なんだよ、これ。こんなもんどっから出してきやがった⁉」


 流石のリエガも、滅びた文明にこんなものがあると知ると、驚きの表情を隠せなかった。


「空、伝言を」


 ギハンは空に脳打ちをする。応えるように、空は静かに頷いた。


「これは、あなたが作ったものですか?」


 ギハンは焦りを押し殺してネリムに問いかけた。


「半分、イェスじゃな。元々、ここいらに転がっていた壊れたロボットを、わしが修理して再度使えるようにしたんじゃ」


「ロボットが転がっていた? こんなところで……?」


 ネリムの話を聞いて、ギハンは視線をロボットに移す。白くて、人の二倍近くある大きなロボットが、空の方を向いて武器や盾を構えている。


(……あのロボット。今の現代科学ではまだ難しいかもしれないが、近い未来で実現可能な動きだ。ならこの惑星は、地球に似た今よりも文明が少しだけ先に進んだ場所なのか? その上で滅んだのだとしたら、これは未来の地球への暗示……? だとすればゼウスの地球が滅んだ話にも信憑性が増してくるが……)


 たった白いロボットだけで、これだけ考察が捗る。しかし、いくら頭を働かせようとも、結論は出てこない。証拠も根拠もなく、ただギハンの中で整理された仮説にすぎないからだ。


(いや、今はそんなことよりも)


 ギハンはこの惑星が滅んだ理由を考える意味はないと思考を切り替え、再びネリムの方を見た。


「……そのロボットを我々にぶつけ、あわよくば倒そうという算段ですか」


 ギハンの言葉を代弁する。


「使えるものは使わんとな。わしは科学者じゃ。頭を使って人を殺す」


 頭の位置に手を持ってくると、そのまま指でこめかみを小突く。


「……なるほど。合理的ですね」


 相手の戦闘スタイルに納得しつつ、ギハンは面の無い顔で冷汗を掻いた。滅びた文明の未知なるロボット。加えて、罠だけで空を苦しめた科学のスペシャリスト、ネリム。この二つの相互作用がどれほどの脅威になるのか、推し量ることができなかったからだ。


「話はこれくらいでいいじゃろう。談笑はさっき済ませたしの」


 話を切り替え、戦闘開始を予告する。


「……そうですね。あとは……」


 これに空陣営も乗っかった。


「「愚かに戦いを始めるのみ」」


 二人の掛け声が合わさる。同時に、ネリムは手を前に掲げ、ロボットに喘息全身の指示を出した。それに応えるように、ロボット群は空へと迫る。


「来るぞ! 気いつけろよ!」


 こちらはリエガの掛け声で行動が開始される。今回使用するのは妖精のエネルギーを主軸とした戦法。一体一体の強さは分からないが、これだけ多くのロボットが居ると、広範囲での攻撃が適している。

また、属性を使用したことが正解だったと、すぐに悟るようになった。


――ドォォン!


「地雷だ! 罠もまだ生きてんぞ!」


 ロボットに加えて先ほどの罠たちも同時に襲ってくる。これらを同時に対処するには、複数の属性を持つ妖精のエネルギーが最適なのだ。


 加えて、ロボットも性能は高いが、そこまで強くなく、硬くない。ただ、数が多いだけで、オークやセスの兵士にも劣る。相性次第では手こずる相手なのかもしれないが、空にとっては苦にならない相手だ。


「強さの方は問題ないですが、いかんせん数が多い上、トラップも健在。ネリムを探すのはこれを処理してからですね」


 目の前の光景を見て、ネリム探しはもう少し後になるかもしれないと、静かに悟った。




「……ふぅ」


 一方、ホログラムの電源を切ったネリムは、小さな部屋の一室で、一人黙々と作業を進めていた。


「あれほどのロボットの数なら足止めになるじゃろう」


 そう言いながら、目の前にある奇妙な操作基盤をいじくりまわしていた。


「『あれ』本体の調整は間に合った。じゃが起動に時間が掛かるために、ロボットを投入せざるを得んかった」


 パソコンの要領で機械をいじる。最後にボタンを押して一息つくと、ボロボロの椅子にもたれ掛かった。


「……あとは、起動するのを待つのみじゃな」


 ネリムは一人、その時を待った。


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