ガストラップ作動
「油断すんな! まだまだ来んぞ!」
一息つく間もなく、リエガの声が脳内に響く。声に合わせて、ナイフは次々空へと飛んだ。
「……」
また同じ手? などと考察する暇もなく、ナイフは空の足元に落ちた。すぐに空は距離を取る。
が、ナイフ形の爆弾(?)は、一向に赤みを帯びない。放り投げられたナイフのように、ただ地面に突き刺されただけだった。
「なんだ? 今度は爆発しねぇ……」
新たな罠に疑問に思うリエガ。しかし、その思考の方向は、ナイフが飛んできた疑問から、空の動きの鈍さに移った。空の行動が制限され、どこか様子がおかしい。
「どうした、空⁉」
思考だけでなく、目線も空に移すことで、ようやく空の動きの鈍さを理解した。腕から血が出ている。
腕だけではない。太ももや頬など、空の皮膚に無数の切り傷が付いていた。
「なんだ⁉ 一体どこから……」
新たな罠は、次々と空の体に傷を付け、リエガの頭を悩ませた。だが、その疑問はすぐに払拭されることとなる。
空に付いた新たな傷、そこから流れ出た血液が空中を伝ったのだ。血液は直線状に動き、炎に照らされ煌めいた。
(ワイヤートラップもだと⁉)
その時になってようやく、リエガは周りにワイヤーが張りめぐらされていることに気が付いた。「ようやく」が出てくるほど、リエガ共々は後手に回らされている。
「空! ワイヤーだ! 焼き切れ!」
リエガが指示を出す。それに伴い、空は炎をワイヤーに近付けた。
しかし、思惑通りにいかず、ワイヤーは切れることはなかった。
「クソッ、耐熱性かよ!」
空は仕方なく炎を消して、今度は死神のエネルギーで鎌を作り、張り巡らされたワイヤーを片っ端から斬っていった。
――カーン!
だが、やはり炎が消えるとなにも見えず、この場を把握できるのは鎌から伝わる感覚のみ。何本かはワイヤーを斬った感触があったが、途中でなにか硬いものに当たり、動かすことができなくなってしまった。
やむなく、鎌を解除し、炎で視認しようとした。
瞬間、爆発が空の近くで巻き起こった。空は爆風に乗せられ、後方へと転がされると共に、壁に激突して動きを止めた。
「っは!」
軽く咳き込み血反吐を吐いた。
「空!」
その光景を見て、種族たちは慌てふためき、心配する声を掛けた。
「空、大丈夫⁉」
最初にびくびくした声で、話しかけてきたのはリギラだった。歴戦を共に過ごしたリギラだったが、空が怪我を負い、窮地に立たされることは未だ慣れてはいないらしい。
空は、顔の皮膚を焼かれながらも、問題ないと示さんばかりに、ゆっくりと立ち上がった。一瞬安心したのも束の間、空に付いた無数の傷を見て、リギラは心配そうな表情を浮かべる。
「大変だ! 切り傷に火傷まで…… すぐに直さないと!」
怯えるのも心配するのも少しだけにして、リギラはすぐに空の回復へと移った。
その後の役割分担は、メイが空の心配、ギハンが周囲の警戒、リエガが戦闘の考察となった。
「さっきの爆発の前、ガスタンクに傷が入っているのが見えた」
壁にもたれ掛かり、呼吸を整えている空に、リエガは考察を開始した。話の流れ的に、爆発が起こったことの原因究明であることは、誰の目から見ても明らかだった。
「……先ほど、空が鎌でワイヤーを斬った時に付いたものでしょうね」
警戒しながらも、ギハンが自身の考えを述べた。これに対し、リエガは反応を示さない。「警戒に集中しろ!」だとか、荒々しい雰囲気はなかった。
「ああ、間違いなくな。だが、問題はそこじゃねぇ」
「『ガス』があること、ですか」
ギハンの解答に、リエガは小さく頷いた。
「この狭い空間にガスが存在する。それだけで脅威だ。最初、灯りに使った火を出した時には引火しなかったところ見るに、ガスは存在してもなにかしらに封入されていると思うが、思い込みは命取りだ。どっかから漏れている可能性もある」
「迂闊に火を使えない、ということですね?」
「いや、案外そうでもねぇ。空、火を出してみろ」
リエガは空に火を出すよう頼む。しかし、先ほどの爆発を見たリギラはそれを止めた。
「ちょ、ちょっと! ダメだよ! また爆発しちゃったらどうするのさ⁉」
リギラの言い分はもっともである。急いで天使のエネルギーを回していると言えど、空の体は回復しきっていない。次に同じような爆発があれば、今度こそ、ただでは済まないどころか、ここで空の希望が潰える可能性だってある。
「そこはちゃんと考えてるよ。今この空間にガスはねぇ」
慌てるリギラに、柄にもなく優しく絆す。
「……理由は?」
空が傷つくことに不安になっているリギラは説明を要求する。
リエガは、ため息を吐くと、仕方なく説明を始めた。
「最初に火を灯した時には引火しなかった。この時点でここら辺にガスはねぇ。さっき封入されていたガスも、爆発で全部燃え切った。だから、今この場にガスはねぇ」
「けど、ある可能性だってゼロじゃないよね?」
余程不安になっているのか、慎重になりきる。頬を膨らます姿を想像させた。
「このままだと暗闇でなにもできずにゲームオーバーだぞ?」
「うぅ、」
なにも言い返せずに黙り込んだ。口喧嘩でリギラが勝てないのはいつものことだが、いつもの幼稚なものでなく、空の安全を考えての言い合いで負けたことを悔しく、そして不安に思った。
「心配ねぇ。九十九パーセント大丈夫だ」
百でないことに、不安を残す。だが、リエガの言い分はもっともだ。このままここで暗闇に縮こまっていても、なんの解決にもならない。
決心したリギラは、深いため息を吐くと空が火を付けることを承諾した。
「分かったよ。それだけリエガが言うのだったら信じるしかないよね」
それでも、どこか怯えている様子だった。
そんな震える天使を他所に、空はゆっくり立ち上がると、掌に火を灯した。
「……」
引火はしない。ガスはないようだった。そのことを確認すると、一同は安堵した。
「おお! おぬしらは何もない所から炎を発火させることができるのか!」
だが安心したのも束の間、突然、聞き覚えのある声が一同の耳に入った。




