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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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ガストラップ作動

「油断すんな! まだまだ来んぞ!」


 一息つく間もなく、リエガの声が脳内に響く。声に合わせて、ナイフは次々空へと飛んだ。


「……」


 また同じ手? などと考察する暇もなく、ナイフは空の足元に落ちた。すぐに空は距離を取る。


 が、ナイフ形の爆弾(?)は、一向に赤みを帯びない。放り投げられたナイフのように、ただ地面に突き刺されただけだった。


「なんだ? 今度は爆発しねぇ……」


 新たな罠に疑問に思うリエガ。しかし、その思考の方向は、ナイフが飛んできた疑問から、空の動きの鈍さに移った。空の行動が制限され、どこか様子がおかしい。


「どうした、空⁉」


 思考だけでなく、目線も空に移すことで、ようやく空の動きの鈍さを理解した。腕から血が出ている。

腕だけではない。太ももや頬など、空の皮膚に無数の切り傷が付いていた。


「なんだ⁉ 一体どこから……」


 新たな罠は、次々と空の体に傷を付け、リエガの頭を悩ませた。だが、その疑問はすぐに払拭されることとなる。


 空に付いた新たな傷、そこから流れ出た血液が空中を伝ったのだ。血液は直線状に動き、炎に照らされ煌めいた。


(ワイヤートラップもだと⁉)


 その時になってようやく、リエガは周りにワイヤーが張りめぐらされていることに気が付いた。「ようやく」が出てくるほど、リエガ共々は後手に回らされている。


「空! ワイヤーだ! 焼き切れ!」


 リエガが指示を出す。それに伴い、空は炎をワイヤーに近付けた。


 しかし、思惑通りにいかず、ワイヤーは切れることはなかった。


「クソッ、耐熱性かよ!」


 空は仕方なく炎を消して、今度は死神のエネルギーで鎌を作り、張り巡らされたワイヤーを片っ端から斬っていった。


――カーン!


 だが、やはり炎が消えるとなにも見えず、この場を把握できるのは鎌から伝わる感覚のみ。何本かはワイヤーを斬った感触があったが、途中でなにか硬いものに当たり、動かすことができなくなってしまった。


 やむなく、鎌を解除し、炎で視認しようとした。


 瞬間、爆発が空の近くで巻き起こった。空は爆風に乗せられ、後方へと転がされると共に、壁に激突して動きを止めた。


「っは!」


 軽く咳き込み血反吐を吐いた。


「空!」


 その光景を見て、種族たちは慌てふためき、心配する声を掛けた。


「空、大丈夫⁉」


 最初にびくびくした声で、話しかけてきたのはリギラだった。歴戦を共に過ごしたリギラだったが、空が怪我を負い、窮地に立たされることは未だ慣れてはいないらしい。


 空は、顔の皮膚を焼かれながらも、問題ないと示さんばかりに、ゆっくりと立ち上がった。一瞬安心したのも束の間、空に付いた無数の傷を見て、リギラは心配そうな表情を浮かべる。


「大変だ! 切り傷に火傷まで…… すぐに直さないと!」


 怯えるのも心配するのも少しだけにして、リギラはすぐに空の回復へと移った。


 その後の役割分担は、メイが空の心配、ギハンが周囲の警戒、リエガが戦闘の考察となった。


「さっきの爆発の前、ガスタンクに傷が入っているのが見えた」


 壁にもたれ掛かり、呼吸を整えている空に、リエガは考察を開始した。話の流れ的に、爆発が起こったことの原因究明であることは、誰の目から見ても明らかだった。


「……先ほど、空が鎌でワイヤーを斬った時に付いたものでしょうね」


 警戒しながらも、ギハンが自身の考えを述べた。これに対し、リエガは反応を示さない。「警戒に集中しろ!」だとか、荒々しい雰囲気はなかった。


「ああ、間違いなくな。だが、問題はそこじゃねぇ」


「『ガス』があること、ですか」


 ギハンの解答に、リエガは小さく頷いた。


「この狭い空間にガスが存在する。それだけで脅威だ。最初、灯りに使った火を出した時には引火しなかったところ見るに、ガスは存在してもなにかしらに封入されていると思うが、思い込みは命取りだ。どっかから漏れている可能性もある」


「迂闊に火を使えない、ということですね?」


「いや、案外そうでもねぇ。空、火を出してみろ」


 リエガは空に火を出すよう頼む。しかし、先ほどの爆発を見たリギラはそれを止めた。


「ちょ、ちょっと! ダメだよ! また爆発しちゃったらどうするのさ⁉」


 リギラの言い分はもっともである。急いで天使のエネルギーを回していると言えど、空の体は回復しきっていない。次に同じような爆発があれば、今度こそ、ただでは済まないどころか、ここで空の希望が潰える可能性だってある。


「そこはちゃんと考えてるよ。今この空間にガスはねぇ」


 慌てるリギラに、柄にもなく優しく絆す。


「……理由は?」


 空が傷つくことに不安になっているリギラは説明を要求する。


 リエガは、ため息を吐くと、仕方なく説明を始めた。


「最初に火を灯した時には引火しなかった。この時点でここら辺にガスはねぇ。さっき封入されていたガスも、爆発で全部燃え切った。だから、今この場にガスはねぇ」


「けど、ある可能性だってゼロじゃないよね?」


 余程不安になっているのか、慎重になりきる。頬を膨らます姿を想像させた。


「このままだと暗闇でなにもできずにゲームオーバーだぞ?」


「うぅ、」


 なにも言い返せずに黙り込んだ。口喧嘩でリギラが勝てないのはいつものことだが、いつもの幼稚なものでなく、空の安全を考えての言い合いで負けたことを悔しく、そして不安に思った。


「心配ねぇ。九十九パーセント大丈夫だ」


 百でないことに、不安を残す。だが、リエガの言い分はもっともだ。このままここで暗闇に縮こまっていても、なんの解決にもならない。


 決心したリギラは、深いため息を吐くと空が火を付けることを承諾した。


「分かったよ。それだけリエガが言うのだったら信じるしかないよね」


 それでも、どこか怯えている様子だった。


 そんな震える天使を他所に、空はゆっくり立ち上がると、掌に火を灯した。


「……」


 引火はしない。ガスはないようだった。そのことを確認すると、一同は安堵した。


「おお! おぬしらは何もない所から炎を発火させることができるのか!」


 だが安心したのも束の間、突然、聞き覚えのある声が一同の耳に入った。


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