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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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地下の冒険

 オークとの戦いの後、体を休めていた空は目を覚まし、次の戦場へと足を運んでいた。


「戦ってる時もそうだったんだが、色んな所でドンパチやってやがんな」


 どこからともなく聞こえてくる戦いの音色を聞きながら、リエガは感想を述べる。


「ですね。ただ、そこに向かうべきか、はたまた別の敵を探すかの判断は中々難しいところではありますが」


 ギハンはリエガの独り言のような言葉に丁寧に返答する。その間も空は走り続けた。空は黙って走り続ける。リエガたちが空に話しかけると、簡単な受け答えはするようになったが、基本スタンスは変わらないままだ。


 これまでとは異なる空を前に、一同はどのように接するべきか頭を悩ませていた。今も話しかけるべきか、それとも空の判断に委ねるべきかを聞きあぐねている。


 唯一、この種族以外は。


「……暇だね」


 咄嗟に呟いた。こんな時にこんな言葉が出るのだからきっとこれは本心なのだろう。それを口にしたのはメイの方ではなく、空気を読めない代表、リギラだった。


「お前なぁ!」


 妙な空気に変な発言。リエガは内心助かったと思いながら、リギラに詰め寄る。それを見てギハンは呆れる。こちらもリエガと同意見だ。


 こうしていつもの流れが完成する。種族が喋り、空は黙る。なんら変わらぬいつもの日常だった。


「! ねぇみんな! あれ、なにかな⁉」


 ここまで黙っていたメイがようやく口を開く。その声に釣られて、皆は視線をそちらに移し、なにかに気が付いた空は走らせていた足を止め、物陰に身を隠しては、メイが指差したものを確認した。


「あれは…… ドローン?」


 一同が目視したものの見解を最初に述べたのは、ギハンだった。だが、いつものような知的で、分析された言い方ではなく、どこか頼りない口調だった。


 それもそのはず、ギハンには視界に映る、宙に浮かんだ白色のロボットを、ドローンと断定できる確証がなかったのだ。


 なぜ、こんなところにドローンが浮かんでいるのか。あれはそもそもドローンなのか。そういった疑問が、ギハンの断定を濁らせたのだ。


 そして、その疑念を抱いたのは、他の種族も同じだった。


「なんであんなとこにドローンがあんだ?」


「んー、分かんないけど…… 間違いなく他の惑星の人の物だってことだけは分かるね!」


 続けざまに疑問を呈するリエガに、リギラは意外にも頭の冴えた発言を返した。


「そもそもありゃ、ドローンなのか? プロペラも付いてねぇし、なんつーか、その……」


「近未来的、ですか?」


 形容し難いドローンを前に、言い淀むリエガ。代わりに、ギハンが代弁した。パッと答えが出てきたところを見るに、ギハンも同じことを思っていたのだろう。


「そう、それ。今っぽくないっていうのか? 物理を無視してるっていうか、地球での常識が通じねぇ感じだ」


「それはボクらも同じでは???」


 喉元まで出かかったその言葉を、リギラはグッと抑え込んだ。その一言は、なにかすべてを否定し、台無しにする気がしたからだ。


 ただそれ以上に、「この場」に「ドローン」があることが、なによりも不気味で、リギラの喉を動かさなかったからなのかもしれない。


「相手は見た目人間でも宇宙人なのですよ? 常識が通じないことは当たり前じゃないですか」


「それはそうなんだがよ。なんつーか、今までぶち当たってきた相手とは雰囲気が違うっつーか、空気が違うっつーか……」


 これまた言葉にし難いかのようにリエガは語る。それほどまでに、ドローンという存在は異質で異様。


 それだけでなく、ドローンから感じる不吉なオーラを、リエガは直感的に感じ取ったのかもしれない。


「……」


 その証拠に、共感したのか、ギハンも何も言わなかった。


「あ、見て! どこかに入っていくよ!」


 暗い空気感の中、ドローンをずっと観察していたメイは、ドローンが物陰に入る場面を目撃した。


 目線を反らしていた一同も、慌ててそちらに視線を移した。空も急いで動き、ドローンが先ほどまで居た場所に体を置いた。


 そして、視線はそのままドローンが移動した方向へ。


「! ここは……」


 そこを見た瞬間、全員の表情が曇った。無論、空の表情はいつも通り変わらないが、感情がなかったころに比べると、どことなく思うところがあるように見えなくもない。


 空はさておき、他の種族たちの表情・感情は豊かである。なぜなら、ドローンが向かった先は、できることなら足を踏み入れたくない場所だったからだ。


「うわー真っ暗だね!」


 事の重大さを理解していないメイは、目の前に映る、真っ暗な空間を見て淡々とした感想を述べた。


「……」


 この時、この場において、「それ」がなにを意味しているのかを理解している者たちは、口を開かず、ただ警戒心と注意力を高めた。


 目の前には地下へと続く階段。奥は真っ暗でギリギリ見えるか見えないかの程度。隠れるにはもってこいの場所であり、不意打ち・奇襲を仕掛けるには絶好の狩場である。


 そんな場所に、敵の物と思われるドローンが入っていった。十中八九敵が居り、なにかを仕掛けて待ち構えている。


「……明らかに罠だな」


「間違いないでしょう」


 一段と警戒心が強い二人は、自身の感想を語る。その考えに揺らぎはなく、間違っているなど微塵も思っていない言い方だ。


「え? 罠なの? なんで分かったの?」


 一方、こちらの天使は、相も変わらず空気の読まない、底抜けに明るい口調で質問を投げる。メイに至っては既に興味を無くし、瓦礫の山を眺めていた。


 ただ、今回に限って言えば、リギラが疑問を呈した理由も分からなくはない。その心は、先ほどのドローンが、地形の把握、もしくは地下に隠れた敵をあぶりだすために、地下の探索を行っている可能性も否定できないからである。


 もっとも、リギラがそれを思いついての疑問か、ただ単純に疑問に思ったからの質問かは定かではない。


「……雰囲気ですね」


 だが、ギハンはそのどれとも異なる返答を行った。


 「雰囲気」なんぞ、分析力に長けたギハンらしくもない。そのギハンに、そう言わせしめるほどに、地下から漏れ出る雰囲気と異質な感覚は、ギハンの脳を「思考」ではなく「警戒」で溢れさせたのだ。


「……そんなにやばいの?」


「ああ。こりゃ相当だな。死の匂いがプンプンしやがる。死神じゃなくても、空の死が漂ってるのが分かるぜ」


 能天気さが残るリギラの質問に、いつもの煽りではなく、焦りと動揺が入り混じった声で語る。冗談や嘲る調子はない。ただ真剣に、ここに入れば空はただでは済まないということを静かに述べた。


 流石のリギラも、そんな調子の二人を見ては、固唾を呑んで、怯えることしかできなかった。


「……誰だと思う?」


 怖がるリギラ、興味なしのメイを置いて、不安を残しつつもリエガはこのオーラを発する者の心当たりをギハンに聞いた。


「……相手がどのような策、能力を持っているかによると思いますが、個の強さだけを考えるとするのならば、敵味方関係なく候補に挙がる人物は、シヨク・ラキア・キユの三名でしょう」


 それを聞いて、空は心の中でその選択肢からラキアを消した。彼女がこのようなオーラを発するはずがない。皮膚を刺し、死を直感させる雰囲気を充満させるはずがないと、空は確信していた。


 そうあってほしい、などという甘い願望ではない。このオーラの主は、間違いなくラキアではないと、例え証拠などなくとも断言できるのだ。


「『個の強さだけ』か。なら、策や罠を考慮した上で、挙がる候補は?」


 それは、たった一人を指す質問だった。


 というのも、リエガもギハンも、このオーラが誰のものかなど、最初から推測が立っていたのだ。


 シヨクは、こんな所で殺気を放ち、待つような性格ではない。彼の場合、正々堂々と真正面から向かってくるだろう。


 キユも恐らく同じ。作戦会議で見た彼の印象は、爽やかかつ冷静。とてもじゃないが、このようなオーラを放てる人物ではない。


 ラキアは別の理由で候補から外れる。その理由は空だ。ここまで彼女に固執する空が、このオーラを前にしてもなんの反応も示さないのは、オーラの主が彼女ではないということ。


 最後のラキアに関しては希望的観測に過ぎないが、それでも、二人は候補から外すことをいとわなかった。なぜなら、候補は挙げなかっただけで、もう一人いたからだ。


「当然、ネリムでしょう」


 この空気を作った最後の候補が、ギハンの口から出る。その名前を聞いても、リエガは驚かなかった。自身も、予想したからだ。


「あいつ自身がこの重っ苦しい空気を作れるとは考えらんねぇ。ってことはやっぱり罠か」


 四つの惑星の内、代表者の一人であるネリム。見た目も雰囲気も全く強そうには見えなかった。


 ただ、彼から感じた異様なオーラ…… もはやそれさえ感じさせない存在感は、強者だけが集うあの場において、むしろ奇妙とも言えるものだった。


 だからこそ、皆は警戒しただろうし、この濁った空気を作り出した彼の手腕に、不安しか残らない。


「それもただの罠ではありませんね。確実に人を殺める罠が、無数に張りめぐらされている気がします。でなければ、地下からこれほど殺気が漏れ出ることなどありえませんから」


 ギハンの目は、階段奥の地下から反らされることはなく、じっと見定めている。


 暗い・重い・痛い。三拍子揃った空気が空の肌を嘗めた。


「……どうしますか、空」


 いつもなら、進むか避けるか、その判断権を握っていたギハンだったが、今回はその権利を空に委ねた。


 空がまだ感情もなく、自身の判断で選択できなかったなら、ギハンは避けて通る道を選んだだろう。


 罠だと分かってここを進むことはあまりに無謀。いくら空の戦闘センスがずば抜けていると言えども、今回の相手はこれまでとはなにかが違うことを察し、空のセンスを上回る良くないことが起こると予想したからだ。


 だがそれも、過去の空ならという仮定の話。今の空には自我があり、これまでと違った心構えをしている。「これまで通り」が通じないなにかがあると予想すると同時に、せっかく芽生えた空の意思を尊重したいと思ったからだ。


 それに、不安や警戒を抱きながらも、やはり、「空ならなんとかしてくれる」という、根拠の無い信頼も、心の奥底に眠っていることも事実なのだ。


「ここを通れば、恐らくこの催しにおいて、最大の戦いが待っていることはまず間違いないでしょう。ですが、今回はそれを避けることができます。他の方に委ねることもできますし、別の敵を探すという選択も間違いではありません。行くか、進むか。どうするかは空の選択に託します」


 最後の通告を告げる。どちらでも良いとは言ってはいるが、「できることなら通らないでほしい」という本音がどこか透けている。それほど以上にこの道は険しく危ういものだと、想像しているのだ。


「……」


 しばらく考え込んだ後、空はそこへと足を踏み入れることを決意した。目を尖らせ、背筋を伸ばして、ゆっくりと階段を踏み鳴らす。


「ここで逃げているようでは彼女を救うことなど到底できない」


 そんな思いで空は暗闇へと足を踏み入れた。


 一番下まで足を踏み入れた瞬間、後方で爆発が起こった。


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