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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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またしてもこの神の実況

「激しい戦いが、あちらこちらで繰り広げられています‼」


 どこかで聞いたようなセリフが、大声で飛び交った。それを真横で聞いていたゼウスは、軽い耳鳴りを患った。


「序盤に続いて、新たに参戦した戦士たちは、その実力を遺憾なく発揮し、この催しを大いに盛り上げていただきました! 特に! リープ軍のあの突飛な作戦には度肝を抜かれましたね~」


 やはり、実況のプロ(?)。突飛な作戦と言い換え、「二惑星仮同盟」のことは口にはしない。情報を漏らしてどこかが不利益を被ることは避けている。中立の立場をよく理解した発言だった。


 そして、さらっと会話の主導権をゼウスに託すところも、やはりプロである。


「……確かに、リープが打って出た時は、柄にもなく心が躍ったよ」


 どうせ逃げられない、と渋々会話を簡単に引き継いだ。


 戸惑うゼウスを他所に、オタガミは気にせずマイクに声を通した。


「まさかそんな作戦が⁉ と、驚かされましたよね! さて、ここで状況を簡単にお話させていただきますと、なんと全チームほとんどイーブン! 一人の差はあれど、全チームが後を残さない状況となっています!」


「……まさか、これほど接戦になるとね。正直、僕も予想していなかったよ」


「それほど力が拮抗しているということでしょう。さて! 全チームの残りメンバーが半分以下になったところで、舞台は中盤戦のまま続きます! と、言いたいところですが、実際はそうではありませんよね⁉」


 力強い語尾で、無理矢理バトンを渡す。全知全能のゼウス様なら当然理解しているよね? とでも言いたげだった。


「中盤戦はさっきで終わり。役者が全て揃った今が、終盤戦だよ」


「流石ゼウス様! 戦いというものを熟知されていらっしゃる!」


 ゼウスを持ち上げる発言も、実況に組み込み、彼のトークはさらに火が噴いた。


「確かに、人数が半分になったから『中盤戦』というわけではございません! この催しの醍醐味はなんといっても『五人出場』ができるルール! 四つの惑星その全てにおいてメンバー全員が出場した今、今回最大の戦いが繰り広げられることは間違いありません! そうなれば、脱落していくメンバーの数も、一気に増えることでしょう。人数が増えることで事態は急速に加速する、ということです!」


 ここで一拍置いて、ようやく口を休ませる。額には汗、マイクを握る手もじんわりしている。だが、実況に込める熱は留まることを知らない。


「さて! 場面は終盤戦に切り替わった、ということを理解してもらえたところで、選手たちの深掘りをしていきましょう! やはり、今戦いで気になった選手はずばり! 彼しかいないでしょう⁉」


 無理矢理のバトンパス、パート2である。ここで個人の名を挙げたのは、シヨクなら誰しもがその実力を知っているから、という理由ともう一つ、控室に残っているメンバーが出場することはないからである。


「そうだね。ここでは流石に、シヨクの名前が挙がるのは当然だよ。圧倒的な『武』で他を一掃していたからね」


「誰が見ても一目瞭然! 今回の台風の目であるシヨク選手! 序盤から出場して倒した相手の数は、なんと驚異の七人‼ 実力者が集うこの場で、この数値を出せるのは流石に脅威と言わざるを得ないでしょう。戦った皆さんも、映像をご覧になった皆さんも、その戦いっぷりを見ているのなら、実力を疑うこともないでしょう」


「……ふふっ」


 オタガミの熱弁が止まらない横で、ゼウスは小さく笑う。当然、実況の鬼がそれを見逃すわけがなかった。


「おや⁉ 解説のゼウス様。一体なぜ、笑っていらっしゃるのでしょうか???」


 マイクがゼウスに突きつけられる。ゼウスの目の前にマイクが二つ並んだ。


「いや、ね? 『序盤から出ていた選手』って言葉を聞いて、『彼』のことを思い出してね」


「おっと! ゼウス様一押しの選手が居る、ということでしょうか⁉」


「一押しってほどじゃないけどね。ただ単に、序盤から出ていて脱落していないから気になったってだけだよ」


「なるほどなるほど。そうなれば当てはまる選手は、シヨク選手を除いて一人しかいませんね!」


 ゼウスが思い浮かべた人物を、僅かな情報から導き出し、オタガミはその名を述べる。


「シヨク選手と同じく、序盤から出て残っている選手。その名は白時空選手! 倒した相手の数は二人と少なめではありますが、それでも、ここまで勝ち残っていることは十分に凄いと言えるでしょう! もしや、今回のダークホースになるかもしれません!」


 数値だけ見るとそこまで活躍していないように見えるが、オタガミはなんとか空のことを持ち上げ、良いように聞かせる。実況者の本領発揮だ。


 長話もこれで終え、オタガミは締めの言葉に入った。


「戦いで活躍を見せるシヨク選手、空選手を交えて舞台はいよいよ終盤戦へ! 果たして、どのチームが、誰が、その栄光を手にするのか! 今後の展開も、見逃せません!」


 マイクの電源を落とし、オタガミはようやく腰を下ろし、休憩を挟んだ。流石にあのテンションで話続けるのは、相当疲れるらしい。


「……」


 先ほどまで仲良くマイクに声を通していたゼウスも、スイッチが切れた瞬間に我に返り、警戒心を剥き出しにする。


 実況・解説の時になると、どうにも空気に流されてしまう。催眠やそういった類の能力ではない。単に、オタガミの性格がそうさせてしまうと言わざるをえなかった。


「……ねぇ。一つ聞いていい?」


 閉じた口はすぐに開いた。オタガミがゼウスの方を向いて、じっと目を見る。口調、表情、雰囲気。先ほどまでとは打って変わって、どこか暗いように感じられた。


「……なんだ」


「どうしてさっき、白時のことを見て笑ったの?」


 ゼウスは疑問に思った。なぜ、空のことを聞くのか。まさか、自身の思惑がバレているのではないかと、内心焦っていた。


 しかし、ここで動揺してはいけないと、懸命にポーカーフェイスを装い、淡々とした口調を意識して答えた。


「さっきも言っただろ? 序盤から出てきた選手で、地球の選手が居る。神として、この事実が嬉しくないわけはないさ。中立の立場としてはよくない考えかもしれないけどね」


 我ながら完璧な解答をしたと思った。笑ったことに対する回答もそうだが、オタガミが好きそうなユーモアも交えた。自己採点は百点の回答だった。


 ゼウスがちらりと横目で見ると、


「……」


 オタガミはじっとゼウスを見ていた。


 彼が食いつきそうな回答をしたのにこの態度。やはり、自身の考えがバレているのではないかと、焦りは加速する。


 その中で感じた違和感。出会った時も、これまでも、今までと明らかに雰囲気が違う。それは、解説が終わって、「白時空」の名前が出たときからだ。なぜ彼がそのような表情をするのか、ゼウスには全く見当が付かなかった。


「それ、嘘でしょ」


 オタガミが踏み込む。ギクリという音が心臓で鳴った。それでもポーカーフェイスは崩せない。ゼウスは嘘をつくことにした。


「……ばれたか」


 それっぽい雰囲気を出す。前のテーブルに両肘を置き、もの寂し気な雰囲気を醸し出す。この間にゼウスは、なんとか言い訳を思い付いた。


「実は、彼の実力は地球代表の中で最下位だったんだ」


 空を思うように話す。絡ませた手をじっと見つめ、寂しそうで、しかしどこか温かな空気を演出した。


「そんな彼が他の代表たちにも劣らない活躍を見せて、終盤まで残っている。人間の成長をこの目で見ることができて、嬉しいことこの上ないよ」


 ゼウスが思いついた作戦。神として、人間たちの成長を喜ぶ。話の筋は通っているし、嘘ではない。本音を隠すには十分な話だ。


「……」


 横目で捉えたオタガミは、表情も目も雰囲気も、なに一つ変えずにただじっとこちらを見ていた。


 バレた気がした。いや、もうバレているのか? だとすれば、どういった反応をするのが正解なのだろうか。


「……そう」


 オタガミはそれだけ言い残し、モニターの方に視線を戻した。白時空が映っている。自身の希望だ。


「……」


 ひとまず、この場でなにか言うこともなく、ゼウスは黙ってモニターを見た。



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