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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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ここからが正念場

―惑星地球―


「……よし。みんな、準備はいいかな?」


 荘厳な甲冑を身に付けたキユは振り向きざまに仲間の様子を確認する。腰には重厚な剣が携えられて、彼の怪力さを戦わずして示していた。


「ええ、いつでも」


 ライナはキユの顔を見て、返答した。一方、残りの出場メンバーであるレセントは、モニターに映った空を見ていた。


「結局、あいつが変に残っちゃったせいで、作戦が全部台無しじゃない」


 嫌味口を叩きながら、彼女は自身よりも大きな銃を肩に掛けた。


「喜ばしいことじゃないか。ここまで残ったってことはそれだけ戦えるっていう証明にもなるわけだし、事実、彼は敵を二人も倒している」


「どうだか。弱い対戦相手にたまたま当たっただけの可能性もあるわよ」


 フォローするキユに対して、レセントは一向に空の態度を認めようとはしなかった。


「そいつはどうだろうな」


 二人の会話に野太い声が割って入った。そこに居たのは案の定とでも言うべきか、セッキが二人の前に立っていた。


「……なにが言いたいの」


 柄の悪い男が相手でもレセントは大人びた姿勢を崩さない。小柄な体からは想像も着かぬほど冷静知的な態度だった。


「あいつはたまたま勝ち残ってるだけじゃねぇってことだ。弱い相手に当たったからとか、相性の良い相手とかち合ったとかじゃねぇ。あいつは実力で勝ちを掴みやがったんだ」


 セッキはモニターに映った空を、確信の満ちた目で眺めながら話を続けた。それに続いてレセントもモニターに視線を移す。そこにはオークとの戦いで疲労した体を休める空の姿。彼女の目にはギリギリの戦いをギリギリ勝ち切った満身創痍のように見て取れた。


「出る前と随分と言い分が違うようだけど、同じ最初に出た者同士で同情でもした?」


 レセントは興味が失ったように空から目を離し、再びセッキの方を向いた。


「同情で俺があいつに肩入れするように見えるか?」


「じゃあなんでそこまであいつに期待しているのか聞かせて欲しいわね」


 レセントはじっとセッキを見る。他のメンバーも気付けばセッキの発言に興味を示していた。


「そんなもん、決まってんだろ」


 セッキは息を大きく吸い込み、


「勘だ!」


 期待の眼差しを向ける一同に向かって根拠などないものを堂々と口にした。


「あんたに期待した私が馬鹿だったわ」


 レセントはそれだけ馬鹿に背を向けた。他のメンバーも興味を無くし、それぞれ別のことに着手し始めた。


「……」


 セッキは何も言わずただ黙って空を見た。すると、その肩越しに声が飛んできた。


「僕はセッキの言うことが少し分かる気がするよ」


 肩を叩きながらモニターを覘く好青年。セッキが声のする方に顔を向けると、すぐ横に容姿の整った美しい横顔があった。


「下手なフォローならすんじゃねぇよ、キユ」


 セッキはその者の名を口にしながら、マイナスの発言をする。セッキはキユが優しさでそう言っているように聞こえたのだ。


「まさか。僕は本気で空の実力を信じているよ。弱かったらここまで勝ち残れるはずがないものね」


 キユはセッキと同じ目で空を見つめていた。それを見たセッキは信じるしかなかった。


「なにしてるの。早く行くわよ」


 レセントがキユに話しかける。モニターを見ていた二人が視線を声のした方に向けると、レセントの他、ライナも準備が完了した状態でそこに立っていた。


「すまない。今いくよ」


 キユはセッキの肩から手を離し、二人に駆け寄る。そして、二人に語り掛けるのだった。


「じゃあみんな、地球を救いに行こう」


 キユが宣言すると、


「なにそれ」


 レセントはその発言に引っ掛かりを覚え、ライナは小さく頷いた。


 キユは二人の状態を確認し、自信に満ちて「よしっ」と頷くと、今度は振り返って残る控室メンバーに話しかけた。


「それじゃあ、行ってくるね」


 片手を挙げて、爽やかに挨拶する。それを見た一同は思い思いの言葉を発して、三人を見送った。


 その言葉を背中に受けて、三人は戦場へと出立した。




―惑星セスー


 キユたち三人が出場するよりも少し前、カーシェスがオークとの激闘を繰り広げている時のことである。モニター前に集う兵士たち。彼女たちはたった今敗北した仲間の姿をモニター越しに捉えていた。


「まさか、彼女たちが負けるなんて……!」


 兵士の一人は敵に負けて倒れる仲間二人の姿を見て、小さく呟いた。その言葉はかなり歯切れが悪い。表情は苦虫を潰したようだった。


「……っていうことは、私たちは一人足りない四人で最後まで戦い抜かなければならないということになるのか」


 この戦いで恐らく最も低身長の彼女は、その容姿に似つかわしくない強い言葉で思いを語った。


「そういうことだ。今となってはリープの者たちと手を組んだことが、心強いな」


 セスのリーダー、ラキアは様々な思いを胸に言葉を綴る。モニターを見つめる目つきは鋭く、内心穏やかではないことが窺える。


「なにを言うか! 他の惑星の者と組もうが組むまいがやることは変わらん! ただ目の前の敵に戦って勝利する。わしたちはただそれを行い、女王様と帰りを待つ民たちに吉報を持ち帰れば良いだけだ」


 ラキアの言葉を聞いて、ちびっ子兵士は強気な口調で間違いを正す。口ぶりからして、彼女も他の惑星に対して、良い思いはしていない様子だ。


「……そうだな。結局、信用できるのは仲間たちだけだ」


 ラキアは複雑な表情を浮かべ、モニターに映る倒れた仲間たちを見た。その仕草・表情はあたかも自分が間違っていないことを確かめているだけにも見て取れた。そして、確信する。それは間違っていないことを。


「二人とも、準備をしろ。用意ができ次第、出陣する」


 ラキアが声を掛け。席を立つと、


「「はっ!」」


 残る二人の出場メンバーも席を立ちながらそれに応えた。


 二人が準備する姿を横目に、ラキアは再びモニターを見た。


(そうだ。私は間違ってなどいない。信じられるのは仲間たちだけ。他の惑星の者など信用できない。この戦いにだってそのために参加したはずだ)


 ラキアはモニターをしばらく見つめた後、黙ってそれに背を向け準備を始めた。


「この戦い、仲間たちのために私が勝利に導く」




―惑星リープー


「ふぅ。やれやれ、戦場を動き回るのは骨が折れるわい」


 地球、セス、それぞれのラストメンバーが出場するよりもさらに前。今戦いにおいて白兵戦最弱の老人、ネリムは人気の少ない場所を彷徨い歩いていた。固い道を歩くのは老人に堪えるのか、曲がった腰にさらに負担がかかる。


 しばらく町中を歩いていると、ネリムはとある場所に辿り着き足を止めた。


「ここか……」


 ネリムは下へと伸びる階段を見つめる。ネリムの目に映った階段は地下へと続き、真っ暗闇の中に溶け込んでいた。


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