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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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サイドストーリー)カーシェスVS 決着


――ザッ


 爆発が収まり、煙もようやく晴れてきた頃、爆発を起こした張本人はそこに立っていた。


「……頑丈な建築物だな。これだけの爆発を起こしても傷一つ付いてねぇ」


 あばらの痛みを感じながら、肺に煙を送り込んだ。視線の先には、狭い路地裏を作り上げる建物群。彼の言う通り、そこには傷などなく、爆発などなかったのではないかと思わせるほどだった。


「事前に耐久度を調べていた時からそれは分かっていたが、一体ここに住んでいた奴らはどんな文明を進んでいやがったんだ?」


 作戦が成功した喜びもなく、煙を吹かせては、ただ目の前にある建物に感想を述べる。視線は流れるように地面へと向いた。


「……頑丈なのは、こっちも同じか」


 横たわり、赤い血を地面に垂らしたオークは、指先一つ動かさずにただただ敗者の姿だった。


「あれだけのものを食らっておいて、五体満足でいられるとは。流石はオークといったところか」


 賞賛を述べる。ただ、淡々としている。勝って喜ぶことも、負けた相手を嘲笑うこともない。自分がここに立ち、相手が倒れている現状を噛み締めていた。


「……」


 黙ってオークを見つめる。動かない。その気配もない。硬いコンクリートの上、その巨体を寝そべらせるだけだった。


「……」


 それでもカーシェスは近づかない。慎重を期して、相手の間合いには入らないようにしていた。


 銃を構えて、スコープを覗く。照準は既にオークに合わされている。あとは引き金を引くのみだった。先ほどのこともあり、カーシェスはさっさと引き金を引こうとした。


 だがそれより先に、オークが目覚める方が早かった。


 意識が覚醒すると、すぐに死の匂いを感知。ただ、先ほどのように爆発ではないことを直感で悟ると、体を起こすと同時に、一瞬でカーシェスとの距離を詰めた。


「!」


 今度はカーシェスの反応が遅れる。いきなり飛び起きたオークを前に、少しばかり指が引き金から外れ、発射のタイミングを逃した。


 再び引き金に手を掛けた時にはもう遅い。オークのごつい手はカーシェスの喉元を掴み、そのまま突進。近くの壁に勢いよく押さえつけた。


「ッ」


 喉を抑えられながらもどうやら血は流れるようで、カーシェスの口元から漏れ出た赤い液体が頬を伝う。幸い、頸動脈は絞められていない。が、足の付いていない宙ぶらりんの状態では、できることが限られていた。


「……気絶したふりなんて、『戦士』の風上にもおけない奴だな」


 絞められた首から、カスカスの声を吐き出す。出た言葉は「煽り」だった。


「フリじゃナイ。チョウド、メがサめたんダ」


 当然、そんな言葉ではオークの感情は動かされない。壁に突きつけた相手を、鋭い目で睨むだけだった。


「嘘を付くな。気絶したなら即、退去するはずだろう」


「ソのカンじがした。ダガ、モドるマエにメがサめた」


 オークの話に嘘はない。あのままカーシェスが姿を現さなければ、オークは目を覚ますことなく強制送還されていたことだろう。


 だが、カーシェスがオークの前に現れたことで展開が変わる。目覚めさせたのは「闘争本能」か、あるいは「生存本能」か。いずれにしても、彼の登場により結末が変わったことは確かである。


「……そうか」


 瞬間、カーシェスは持っていた銃で、オークの腹に乱射した。


「……」


 超近距離で受けても、オークにはかすり傷程度で、そこに仁王立ちする姿は変わらない。


「ちっ」


 舌打ちをしながら引き金から指を引いた。装填されていた分の弾丸が底を尽きたのだ。


「コレでワかっただろう? ホコりがいかにタイセツで、どれほどのチカラをモっているのか」


「……またその話か」


 誇りの話を持ち出すオークに、呆れ口調で返した。


「セントウでダイジなことは、サクでも、ブキでもない。ジュウゼンたるチカラと、オノレをササえるココロだ。ソレはイマ、このケッカがショウメイしている」


「……」


 オークの言う通り、目の前の敵は立ち、自身は身動き一つ取れない。結果は明白である。


 この状況においては、カーシェスも認めざるを得なかった。


「……確かに、言った通りになったな」


 オークはその言葉を聞いて高揚した。やはり、「誇り」。戦士としての誇りは、なにものにも勝る。どんな逆境をも跳ね返す。それだけ素晴らしいものを持って、戦士として生まれた自身を「誇り」に思った。


「戦闘において大事なことは、やはり入念な準備なようだ」


「……ナニ?」


 聞き捨てならない言葉を聞いて、高揚は一気に平常へ。上がっていた口角も、元に戻っていた。


 すると、足元で「カタンッ」となにかが落ちる音がした。爆発ではない音を聞き、オークは下に顔を向ける。落ちていたのは銃だった。


「……クチではそうイっても、カラダはもうゲンカイのようダゾ?」


 曲げない言い分を聞き、今にも強制送還されそうなほど青ざめた顔を見て、気丈に振舞う彼のそれが「強がり」であると思った。


「……さっき、俺の指定できる武器は四つだと言っただろう?」


「? 突然、なんの話だ?」


「実は、その『嘘』が作戦だって話だ。俺が指定できる武器は、計五つだ」


 再び、死の匂い。それはすぐ間近にある。具体的に言うならば、今にも死にそうな男の右手からだ。


 視線を落とす。右手を見る。先ほど落とした銃とは異なる、黒くてごつい、銃筒が十字型になっている銃が握りしめられていた。


「!」


「切り札は取っておくものだぞ」


 急いで回避行動を取る。だが間に合わない。近すぎた。引き金を引いて、中身が飛び出す方が早かった。


 不思議な形をした銃の中から、銃弾が飛び出す。ただし、中身は「弾」ではない。「圧縮されたエネルギー」だった。


 筒状から出た水色の光線は、轟音を奏でてはオークの腹を貫いた。


「ガハッ!」


 腹から全身に向かって、熱が伝播する。続き、焦げるような痛みが全身に駆け巡った。


「うっ、」


 オークの手から解放されたカーシェスは、尻もちをついてうめき声を上げると、喉を抑えて咳き込んだ。


 一方、腹を貫かれたオークは、もだえることも喚くこともなく、静かに、大の字で寝転がっていた。腹に大穴を開けて。


「アア、クソ。コれはムリだ」


 自身の怪我の度合いを鑑みて、オークは素直に自身の敗北を悟った。それと同時に悔しさが込み上げる。黄金色に輝き出す自身の体を見て、その感情を後押しした。


「これで理解できたか? 策を巡らせることが、誇りよりも大事だってことが」


 近くで声がした。なんとか顔だけを動かし、オークは足元に立つカーシェスの姿を見た。


「……ワからんな」


「……」


 強がり? いや、これは当てつけ、言い換えれば嫌がらせだ。自身で勝手に勘違いしたことだが、オークは先ほどやられたことを相手に同じことをすることで、仕返ししたのだ。意固地である。


「コンカイのショウシャはオマエだ。それはミトめてやル。だが、コンカイおまえがカったのはたまたまダ。ボロボロのからだをミれば、オレがショウシャでもおかしくはナカった」


「負け惜しみか? お前がなんと言おうと、勝ったのは俺だ。策を凝らし、思考を巡らせ、戦いを自身のペースで進めた。お前の『誇り』は、俺の『準備』に負けたんだ」


「オレの『ホコり』はマけていナイ!」


「言ってろ。勝敗それを決めるのはお前じゃなく、結果だ」


 カーシェスはその「結果」を証明するためにオークのことを指差した。もうほとんどが、黄金色に包まれている。


「……ツギはマけナイ」


 さっきと異なる発言。やはり先ほどの言葉は嫌がらせに近しいものなのだろう。誇り高いオークがその発言をしたのは、負けたことが余程悔しかったからだろう。


「次なんてないよ」


 敗者にもきつい言葉をお見舞いする。だが、口調は穏やかだった。


 それを感じ取ってか、オークの表情は安らかなまま送還されていった。


「……ふぅ」


 相手を見送り終わり、ようやく一息ついた。胸元から煙草を取り出し口に咥える。


「ようやく一人目か。予想以上に消耗したな」


 煙草に火をつけ、煙を吹かす。一人、この戦いに思いを馳せていた。


「一人一人がこれほどの強さだとすると、あと何体倒せるか分からないな」


 まだ見ぬ敵に警戒心が強まる。


 その時、


――カツンッ


 足音が聞こえた。


「‼」


 煙草を口からこぼすと、足で踏みつけ煙を消した。それと同時に、銃を構えて相手の方を向く動作もやってのけた。


「あれは……」


 敵の姿を目で捉えた。二人の距離はまだ遠く、ぼんやりとしたシルエットしか分からなかったが、黒髪、立ち姿、風格を見て、間違いなくセスのリーダーである確信した。


「あいつがここに居るということは…… セスは既に後がないということか」


 グリン以外、他二つの惑星も地球と同じく強者を後に残す選択をするのであれば、セスの残り人数は五人以下であることを示す。


 この時、カーシェスの中にとある案が思い浮かんだ。


 それは、「ここで彼女を倒せば、一つの惑星が敗北することになるのではないか」というものである。


 これも憶測になるが、同じ作戦を向こうも練ってきているのなら、彼女たちの次の行動は「落ち合う」こと。だがそこに、リーダーである彼女が現れなければ? 士気は下がり、戦う意欲は失せ、勝ちをもぎ取ることが容易になる。


「……やる価値はあるな」


 彼女が間合いを詰めるには、まだ少し距離がある。なら、今の内に罠を仕掛け、一度、身を隠す必要がある。早速、行動を開始するため、足を動かそうとした。


――キンッ


 だが、後ろで奇妙な音がした。それはまるで、剣を鞘に納める時に出るような音だった。


「……」


 体はまだ気が付いていなくとも、脳の方はなにが起きたかとっくに理解している。


 カーシェスはゆっくりと後ろを向いた。つい先ほどまで遠くに居た黒髪が視界に映った。背を向け、腰まで伸びた長い髪をなびかせている。


「……」


 腹に手を当てると、生暖かく濡れた手触り。濡れた手をそのまま顔の前に持ってくると、案の定、赤い液体が付着している。


「……」


 カーシェスはなにも言わずにその場で倒れ、黄金色の光に包まれていった。走り去る黒髪をぼんやりと眺めながら。




 この時の状況は以下の通り。


 地球軍:余 五名、退 五名

 セス軍:余 四名、退 六名

 グリン軍:余 五名、退 五名

 リープ軍:余 四名、退 六名


 これが意味することは、リープ・セスに続き、地球・グリンも全軍投入する形となった、ということである。


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