サイドストーリー)戦闘とは
ソーシャとシオリが強制送還されたのに代わり、カーシェス・シノブが戦場へと降り立った。シノブは当初の予定通り、後に続く仲間たちと合流するために身を隠す。一方で、カーシェスは少しでも敵を減らそうと、敵の捜索に走った。
(場所を移動しながら戦場把握。それで、できることなら「シヨク」以外のオークに出会うのが好ましい)
影を走りながら、カーシェスは頭を働かせる。彼がそう考える理由は、シヨクの動きを見たからだ。
シヨクは戦いを求めて、あちこち飛び回っている。ただ、そこに同胞のオークが居ると、別の場所へと移動する。同胞ではなく別の惑星の者が戦っていると、勝手に参戦する。なら、いつシヨクが来てもいいように、オークと戦うのがベスト。あるいは、別の惑星の者と戦うならシヨクが来る前に片付けるのがベターだ。
「狙いはオーク。できることなら、四つの惑星が同時に戦って乱戦に持ち込むことが好ましいが、映像を見る限りリープとセスは手を組んでいる。もし出くわしても四すくみとはならず、三すくみになるはず」
カーシェスは嫌な想像をした。もし仮に、そのような状況になった場合、グリンと手を組むことができず、一対一対二の構図になる事が予想されたからだ。
「シンスイの戦いを見る限りでは、オーク共が手を貸すとは考えにくい。あいつらの戦い方は、プライドを優先したくだらないやり方だ。勝つためには手段を選ばない俺とはすこぶる相性が悪い」
銃を持って足を動かしながら、オークたちの特徴を予想する。彼らが戦いの時に見せる、誇りを前面に出した姿勢。大方、「敵には一人で挑むものだ!」だとか、「戦いは強者の証!」だとか、熱血的なやり方をしているに違いない。
少なくともカーシェスは、オークの性格をそのように読んでおり、なんとも理解しがたい戦闘スタイルだと思った。
「ホウ? オレたちのタタカいカタを『クダラナイ』とイうか」
突然、上空から声が降ってきた。急いで顔を上に向けて「それ」を視認すると、脳と体はすぐに回避の行動を取った。
「クッ、」
銃から手を離すことなく、そのままバックステップ。敵に背後を取られないように動く様は、戦闘に慣れた「軍人」のようだった。
その後すぐに、カーシェスの目の前で砂埃が巻き起こる。だが、シヨクが登場する時ほど煙は発生せず、その姿はすぐに露わになった。
(……狙い通りだ)
降って湧いた獲物を見て、カーシェスは口角を上げて安堵した。
敵はシヨクとかいう化け物ではない。まして、そいつを呼び寄せる獲物でもない。一番遭遇したかった敵と、ピンポイントでマッチアップできたのだ。喜びが顔に出ても仕方がない。
「キこう。なぜ、オレたちのタタカいカタを『クダラナイ』とバカにする?」
煙から数歩歩いて、オークは質問を投げる。
だが、その目・その態度から怒っている様子はない。ただじっと、カーシェスを鋭い目つきで睨むだけだった。
「……『勝ち』にこだわっていないからだ」
姿勢を中腰に、カーシェスも相手を見据えて返答した。相手が、不意打ちを仕掛けない相手であることは、なんとなく理解できるが、その根拠も保証もどこにもなく、なにをどう仕掛けてくるかは分からない。
故に、いつでも動ける姿勢を保つのは当然であり、敵を前にしてそのようなモーションを取り入れるのは、カーシェスの癖だった。
「……ナニ?」
返答を聞いて、オークは顔をしかめる。これもまた怒っているわけではない。ただ、言葉の意図を理解していないための、表情だった。
「お前たちが敵を前にして一人で戦う理由は、一体なんだ?」
言葉の意図を説明すると思われたが、その口から出た次なる言葉は質問だった。
質問の意図を理解し得なかったが、オークは堂々と、迷わず、鼻息を荒くして解答した。
「そんなコトはキまっていル。オレたちが『センシ』だからだ!」
言葉に一切の濁りはない。惑星グリンの戦う者たちは皆、これが共通認識なのだろう。
「オレたちはツヨい。だから、オオゼイでテキをタタクなどというマネはゼッタイにしない」
「……だが、相手側が複数いることは許容しているんだろう?」
「アア。テをクんだり、シュウダンでタタカうことをワルいことだとはオモってはいない。ただ、オレたちのタタカいカタではないというだけダ」
聞くに、やはりグリンの者たち全員がそうなのだろう。戦うなら一人で。それが戦士としての振舞い。そういった固定認識が今のオークたちの戦い方を生んだのだ。
「やはり、くだらないな」
オークの熱い演説を聞いても、カーシェスは絆されない。グリンの在り方をただ鼻で笑うだけだった。
「……」
戦士としての在り方を笑われても、オークは怒らない。なぜなら、これまで戦ってきた敵たちも、皆同じ反応だったからだ。
一人で戦うなんてバカバカしいと笑われ、そんな戦い方は間違っていると否定された。
そんな奴らを沈めてきた。
今回も同じだ。あり方を否定し、くだらないと蔑まれようと、同士の戦いに介入することはない。誰かと手を組むこともない。
戦士として、強者として、相応しい立ち振る舞いで、敵を蹂躙するのみだった。
「誇りを優先するあまり、お前たちには戦いの本質が見えていない」
「……タタカいのホンシツだと?」
オークはカーシェスの言葉に興味を示す。彼は続けざまに言葉を綴った。
「戦いは勝者と敗者を生む。これは必定だ。戦う者たちは限られた時間の中で、己の知・武・技・策・運を絡ませ、己を勝者へと至らしめる。勝つために考え、勝つために動き、勝つために手段を模索する」
カーシェスが語るのは、「戦いとはなにか」を問うもの。彼の考える「戦闘」の解の一つを述べる。
「……」
オークはそれを黙って聞いていた。
「だが、」
カーシェスはオークを睨む。その目つきは鋭く、瞳の奥には少しの苛立ちと呆れがあった。
「お前らは己の『誇り』のために、勝つために必要なそれらを軽視している。強者の証だとか、それっぽい言葉を並べて、勝つための努力を一切していない。だから、お前らの戦いは『くだらない』んだ」
口調強めにオークたちの在り方を述べると、胸元のポケットから煙草を取り出し口に咥えると、煙を肺に送っては吐き出した。
「……タシかに、オレたちはキョウシャとしてのジカクをモって、ホコりあるタタカいカタをしている。ホカのモノからミれば、リカイできないやりカタなのかもしれナイ」
意外にも、オークは彼の感想に納得の意を示す。言われ慣れているような、散々、耳にした言葉であるかのような敵の感想に、怒ることなく、淡々と言葉を返した。
その言葉を聞いて、カーシェスは次に出てくる言葉を察した。
「ダガ、それこそがオレたちがタタカうリユウであり、オレたちがキョウシャであるリユウだ」
やはり反語を使った反論。カーシェスの予想通りだった。
「ホコりをモってタタカうからこそオレたちはツヨく、ホコりがあるからこそオレたちはマけない。ダカラ、」
オークは手に握りしめていた木製のハンマーを目の前で振り切り、風を起こす。登場時に残っていた砂煙は、風に乗ってどこかへ飛んでいった。
「『ホコり』とは『ツヨさ』だ」
……聞く耳を持たない。いや、そもそも理解しようとさえしていない。
カーシェスは戦闘の極意を説くことを止め、ため息を一つ付いた。
「……そうか。なら、お得意の『誇り』を持って、潔く散るといい」
カーシェスは呆れながらも、相手の強さを警戒し、引き金に指を掛けた。
「……ヒトツ、キになったコトがあル」
戦う直前、オークは言葉を投げる。
「……」
カーシェスはなにも言わず、銃を顔に近付けて、引き金から手を離さなかった。
「さっきから『ホコり』をバカにするオマエは、ヒトリでタタカうのか?」
もっともな意見がオークの口から飛び出した。
だがそれでも、カーシェスは顔色を変えることなく、銃も下ろさない。姿勢はそのまま動かすことなく、口だけを働かせた。
「……言っただろ。知略や戦略。その他もろもろを用意して勝つのが『戦闘』だと」
「ツマリ、オレをタオすヨウイはデキていルと?」
「ああ。それもあるが……」
そこまで言い終えると、カーシェスの顔が、初めて綻んだ。
「俺の知能で考えた結果、お前は俺一人でも倒せると判断した」
口角を上げ、相手を蔑む発言をした。
「……ナめられたものだ」
それを聞いても、オークはまだ怒らない。ハンマーを担ぎ、鋭い目で相手を睨むだけだった。
「そういったヤカラを、『ホコり』をモってツブしてきたんだ」
「その『誇り』のせいで、お前はここで退場するわけだがな」
両者の言い分は一歩も譲らない。
ある者は「誇り」と「信念」を持って、ある者は「知恵」と「計略」を持って、戦いに挑もうとしていた。




