サイドストーリー)すべてを破壊していく乱入者
(……空気が変わった)
一部始終を見ていた軍人は、この場の空気が変わったことを二人の会話ではなく、肌で感じ取った。それも、異様なほどに重く、だるい空気だ。その空気が、二人から出ているものではないと、軍人はすぐに悟った。
無論、彼女たちも高圧的な雰囲気を醸し、それが空気に乗って伝ってくる。それほどの気魄を彼女たちは持っている。それは、彼女たちが武器を握り、相手を敵として捉えた時にも把握できた。
だが、今回のはそれとは違う。彼女たちが放っているものとは違う。明らかに「空気の圧」が違う。
この空気を持っているのはもっと別の存在だ。遥か上位の存在だ。この場に居る三人の誰よりも格上の存在だ。
一瞬でそれが分かる空気に換えることができる人物は、一人しか思い浮かばない。そして、それはあの二人も間違いなく気が付いている。現に、二人の殺気はお互いに向いていない。こちらに飛んできている、重厚な存在感に向けられていた。
「……軍人さん」
軍人の胸元から、ノイズ混じりの声が鳴った。地球名称で言うところの、トランシーバーだ。そして、これが繋がるということは、ただ一つのことを意味している。背中を預けたパートナーであるセスの兵士が、自分に向けて声を掛けてきた、ということだ。
戦闘に向かう前に、「戦闘中、こちらから連絡することはない」と言っていた彼女が、敵を前にしているにも関わらず、連絡を取っている。それほど逼迫した状況であるということであり、彼女もまた、こちらに向かってくる「それ」の存在に気が付いているということである。
無論、それはソーシャも同じである。
「今すぐここからお逃げになってください」
兵士の言葉の続きは、まさかの逃亡を推奨する宣言だった。
「……」
だが、軍人は驚かない。態度に示さない。グッと息を殺して、兵士の次の言葉を待った。
「今ここに向かっている相手は、間違いなく私たちでは敵わない敵です。『彼』がここに辿り着けば間違いなくあなたの存在も気が付かれる。そうなれば、相手は見逃すことを許さないでしょう」
兵士が言いたいことはすぐに分かった。「奴」が辿り着けば、すぐに自分の存在にも気が付き、逃げることが叶わなくなる、ということ。そして、ここで全滅するよりは、自分を逃がすことで後者に託そうということだろう。
「……いいのか?」
軍人は最終確認の言葉を述べる。
彼本人も、相手が強大で敵わないことなど理解している。三人で挑んでも、勝てる見込みはゼロに等しい。
だが、彼もこの場に居合わす、「戦う者」。戦えと言われれば、その覚悟はできている。セスと同盟を組んで、相方が挑むから自分も挑むだとか、決してそういうものではない。挑み、抗い、そして、死ぬ覚悟だ。
それでも確認を取ったのは、彼女の意思を尊重したいから。彼女の考えを理解できるから。そのような根性論で、勝てる相手ではないことなど、重々承知しているからだ。
「えぇ。あとのことはお願いします」
最後にそれだけ言い残して、兵士はトランシーバーを物陰に放り投げた。ソーシャはそれを目で追わず、目の前に居る共闘する人をじっと見つめていた。
トランシーバーが地面にぶつかる音が聞こえてこない。代わりに聞こえてきたのは、誰かが駆け出す足音。その音は、どんどん遠ざかっていく。
「追わなくてよろしいのですか?」
返答など分かり切った疑問を、兵士は投げる。今はまだ、冗談を言えるくらいには余裕があるらしい。
「やめておきましょう。狙いがこちらからずれるだけです」
ソーシャの言う「こちら」とは、兵士と自分のこと。もし、軍人を追うようであれば、今こちらに向かっている存在が、自分と軍人に方向を変えることなど容易に想像できる。
もっとも、二人でなんとかその存在を止めようという空気感の中、軍人を追う選択など取らなかったであろうが。
「そうですか。それでは……」
兵士が再び口を開いた。瞬間、
――ドゴオォン
と、建物の一つから大きな音が聞こえた。二人は相手から視線をずらし、音のした方に顔を向ける。とある建物、その屋上で煙が巻き起こっているのを確認した。
「我が同胞が見当たらないな。どうやらここは、当たりのようだ」
煙の奥から野太い声がした。それに合わせて大気が震える。びりびりと肌を揺らす。
いよいよお出ましだ。二人は、ただ煙を見つめ、次第に見える彼の風貌を拝んだ。
「ここからは、共闘の時間といきましょうか」
兵士は、先ほどの言葉の続きを並べると、鞭を構えて共通の敵を睨む。同時、ソーシャもダガーを手に持ち、同じ方を向いた。
「先ほどから手が止まっているようだが、もう戦わないのか?」
やがて煙が晴れて、シヨクは姿を現す。それに合わせて、言葉を紡いだ。
(遠くからでも、私たちが戦闘を止めていたことを把握するなんて…… やはりこの男、別格……!)
兵士は、その場に居なかったはずなのに、現状を把握しているシヨクに、脅威を抱く。
だがそれは、最初から分かっていたこと。今更どうこうできる話ではない。なら、顔に出すことも、筋肉を強張らせることも無意味なことだと悟った。
「……えぇ。戦闘の合間に少し談笑を。お互いの力を認め合ったことで、深く知ろうと思いまして」
「そうか。なら、これからまた戦うのだろう?」
不敵な笑みがシヨクの顔に浮かぶ。その顔だけで、二人の肩に重圧が圧し掛かり、「俺も参戦する」という強い意思を感じさせた。
だが、二人の表情は崩れない。ぶれない姿勢は覚悟の表れだ。
「あら。二人の戦いに水を差すだなんて、戦士ともあろうお方が無粋な真似をされますのね」
「二体一で戦っていた者の言葉ではないな」
「!」
まさか、人数まで正確に把握されているとは…… そのような驚きが二人の脳に働く。だが、シヨクはそちらを追いかける素振りは見せない。そういった状況把握は、誰かが戦っている時だけに働くものだと、兵士は推測した。
「……気付いていらしたのですね」
「あぁ。だが今は、ここには居ないようだ。先に逃がしたところを見ると、どちらかが協力関係にあるか、あるいはグリン以外が全て手を組んだか」
武だけでなく、状況判断能力も有しているシヨク。兵士は、心の底から軍人を先に逃がしておいてよかったと思った。
また、彼女は既に生き残ることを諦め、できるだけシヨクを消耗させることに専念しようと決意した。
「卑怯だなんて言わせませんわよ」
「言わないとも好きにすればいい」
手を組むことに、なんの不満も抱かない。その態度こそ、シヨクが強者たらしめるものだった。
「それは良かったです。では、」
鞭を地面に叩き、戦闘予告。臨戦態勢を整えた。合わせて、ソーシャもシヨクに敵意を向ける。
「遠慮なく、共闘させていただきます」
堂々と宣言した。
「卑怯だとは思いますが、お覚悟を……!」
続けて、ソーシャも戦闘の構え。指の隙間に入るくらいのダガーナイフを何本も挟み、いつでも戦えるように整えた。
「……先ほども言ったが、卑怯だとは思わん。思うように戦えばいい。だが、」
シヨクは建物の上から飛び降り、二人の前に地響きを鳴らしながら着地した。同時に、砂埃も蔓延する。
二人はさらに警戒を強めた。
「共闘したくらいでは、真の戦士は止めることなどできない」
煙の中、鋭い眼光が二人を睨んだ。
その後、シヨクVSソーシャ&兵士の戦いは兵士の強制送還で一幕。続くシヨクVSソーシャ&シオリの戦いではシヨクの完全勝利で幕を下ろした。
また、同時刻に行われた空VSオークでは空の勝利で、セスの兵士&リープの軍人VSオークの戦いは前者の勝利で戦いを終えた。




