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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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サイドストーリー)ソーシャVS

 シオリとソーシャが出会う少し前、三つの戦いの内二つ目。ここの舞台に立つのは三人。


 一人目、お嬢様言葉で会話するセスの兵士。二人目、ガタイの良い男の軍人。そして三人目、メイドのソーシャである。


 ここでも戦うのは兵士と地球のメンバー。軍人は援護に回っていた。


 また、シオリの時と異なり、兵士及びソーシャは相手の仕業と思われる能力に翻弄されていた。


(分かりませんね。兵士様の攻撃が強くなったり弱くなったりするカラクリ。強くなるならまだしも弱くなる理由が分かりません。さらに、それに変動して私の動きも弱くなったり強くなったりしています。「それ」を行うために条件があることは確かなはずですが、そのタネが明かせない)


 ソーシャは戦闘の合間にある小休止で相手の能力に頭を悩ませていた。彼女の思う通り、兵士の攻撃が強くなったり弱くなったりするのだ。


(一体どういうことでしょうか。私の能力が発動していない? いえ、手応えは確かにありますし、一瞬だけですがその兆候も見えてはいます。しかし解せないのは彼女。いいえ、恐らく彼女と「私」。私の能力が発動すると同時に彼女もこれに反応して、なんらかの対応をすることで帳消しにされている。彼女の能力であることは間違いなさそうですが、仕組み・仕掛けが分かりませんね)


 一方、兵士の心境。こちらもソーシャの能力を前に頭を悩ませていた。


 両者見つめ合い、相手の出方を窺う。


(先ほどから対策を打ってこないということは相手もまだ私の能力について熟知できていないに違いありません)


(もし能力が判明すれば少なからず動きに多少の変化はあるはず。それがないということは…… そういうことでしょうね)


((なら、先に相手の能力を把握した方がこの勝負に勝つ!))


 二人の考えていることは同じ。相手よりいち早く能力の詳細を掴み、有利になる立ち回りを行うことでこの勝負に勝つ算段だ。


 もちろん、このままの状態で相手を倒してしまえばそれまでのことではあるが、それをさせてくれるほど相手も弱くはない。


 そのための情報。相手を勝つためにはなにより情報が必要となってくるのだ。それをこの二人は知っている。だから、様子を見て、警戒し、注意を払う。頭脳で戦う者たちの戦い方だ。


 ソーシャはスカートの中からダガーを数本取り出し、構えた。一方の兵士は鞭を握った。


 そして、二人は戦った。ソーシャは今までどこに隠していたんだといわんばかりの数のダガーを相手に投擲しながら、兵士は鞭をまるで自身の手足のように巧みに使いながら互角の戦いを繰り広げた。


 しかし、それを見た軍人はある違和感を覚えた。その違和感はその場で直に目にした軍人にしか気が付くことのできないほど些細なものだった。


 二人の戦いに覇気が感じられない。全力を感じ取れないのだ。戦い始めの最初の方こそ両者は全力、本気百パーセントの戦いが行われていた。その時の熱は凄まじいもので、物陰に隠れた軍人にも分かるほどのものだった。その熱、本気度が今の戦いからは伝わってこないのだ。


 軍人はそれについて言及しようとした。しかし、それを止めたのは戦う前に兵士と交わした口約束だった。「援護はしてもらって構わないが、戦いに関して口は挟まないこと」。軍人はその言葉を思い出し、彼女への提言を踏みとどまった。


 そして、全力を出さない当の本人たち。彼女たちが全力を出さないことも、説明のつく理由があった。それは、今全力を出しても無駄に終わるということ。


 先ほどまで全力で戦っていたからこそ分かる相手の力量。両者の間に力の差などはなく、全力を出したところで仕留めきれないことなど理解していた。しかし、手を抜けばやられ、かつある程度は力を入れないと相手の能力を見定めることなどできない。故の全力一歩手前。モニター越しでは本気で戦っている二人にしか映らないだろうが、実際その目で見ると全くの別物だった。


「……手加減されずともよろしいと思われますが」


「あら。それはこちらのセリフですよ」


 鍔迫り合いにも似た構図の中、二人は軽く語り合う。だがそれもすぐに終わり、二人は再び距離を取った。その時の衝動で、凄まじい切れ味を持った兵士の鞭がソーシャの肌に切り傷を入れた。


「「!」」


 それと同時か少し早く、二人は自身の体に異変が起こったことを瞬時に感じ取った。それはこの戦いにおいて何度も体験した能力の低下及び向上、つまり、相手の能力が関与したものだった。


(今の一瞬で私の動きが鈍くなった! 一体なにが原因でしょうか。鍔迫り合い? それとも、私と同じ能力なのでしょうか? 考えられる要因としては……)


(やはり、私の能力が相殺されている⁉ ここから推測できることとしては、彼女も私と似た能力を扱っているか、もしくは能力を掻き消すことに特化したものを扱っているということ! なら発動条件は? 彼女が能力を発動する前に起こったことは? そこから逆算していけば、自ずと答えにたどり着けるはずです)


 両者は頭を働かせる。相手の能力、予備動作、発動条件、もちろん今相手がどのような行動をとって来るかも。動き、考え、また動く。全ては相手に勝つための行動に過ぎなかった。


(……本当にそうでしょうか)


 が、この動きに疑問を浮かび上がらせた者が居た。ソーシャである。


 彼女は勝つためには相手の能力を把握することがカギとなる事を無意識のうちに理解した。しかし、頭を巡らせたことでそもそもの前提が間違っているのではないかとことに気が付いた。ここでいう前提とは相手の能力の把握。


(果たしてそれは、本当に必要なことなのでしょうか。彼女の能力が発動した結果、どちらかの機能が低下する。それは紛れもない事実。そして、それは私の能力で対処できる範囲内。なら、能力を知ることにリソースを割く必要はない?)


 ソーシャは考えた。相手の能力把握は、本当に必要な情報であるかを。一瞬の思考の間、結論はすぐに出た。否である。


 それさえ分かれば後は行動のみ。ソーシャは思考を切り替え、戦闘のことだけを考えるよう専念した。そして、それを体現するかの如く地面を力強く蹴り上げ、相手との距離を一瞬で詰めた。


「‼」


 驚いた兵士はすぐに反応するも既に後手。加えて、思考を切り離せていなかった彼女は、考えることを止めたソーシャの猛攻に少しずつ押されていった。


「ふっ!」


 ソーシャは攻撃の手を緩めない。舞うようにして動き、刺すように攻撃する。


 そのような攻撃の末、ソーシャの攻撃は徐々に兵士の体に傷を付けていく。一つ、二つ、三つ。傷ついた兵士は動きを鈍らせていく。


「っ、」


 兵士は攻撃の勢いを止めるため、能力を発動させる。劣勢は兵士。それを逆手に取った彼女の能力が発動する。


 次の瞬間、兵士の動きが飛躍的に向上し、その一方、ソーシャの動きは鈍くなった。しかし、それもほんの一瞬の出来事。ソーシャはすぐに自身の能力を発動させて、自分の動きを元に戻した。


「! なるほど。そういうことですか」


 ソーシャの迷いのない動きを見て悟ったのか、兵士も動きを変えた。なんとソーシャの動きに対応して見せたのだ。


「!」


 これにはソーシャも余裕の表情が張り付いたポーカーフェイスを変えるしかなかった。迅速すぎる相手の対応に度肝を抜かれたのだ。


 さらに、今まで防戦一方であった彼女が反撃までする始末。彼女の攻撃にはソーシャ同様、迷いが一切感じられなかった。


 兵士が後手に回ったのに反してソーシャの動きに対応できた理由は、先ほど起こった一瞬の出来事で彼女は立て直しを図り、それが成功したからにすぎない。


 両者の力量が五分になったことで、戦いは拮抗して長引いた。その最中、二人は一度距離を置く。


「即座の対応。お見事です」


 ソーシャは相手に誉めの言葉を贈る。これぞまさしくメイドと言った感じだ。


「あなたこそ。機転を活かしたその動きは、褒めるに値すると思いますよ」


 兵士もソーシャに言葉を贈る。こちらはその表情と相まって、嘘を言っているように聞こえた。


 それだけ話すと、両者は再び敵を見据える。その後すぐに戦闘が再開した。


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