サイドストーリー)シオリVS 決着
「とにかく! 能力が効かない理由は私にも分かりません! 私はただの女子高生です!」
大声で叫ぶシオリ。余程化け物として見られたくない様子だった。
「分かったよ。ジョシコウセイっていうのがなんなのかはよく知らないけど、能力が効かないことに関しては本当に知らないようだしね……!」
この時、兵士はなにかに気が付いたような反応を示した。そして、それは言葉として表れる。
「あんた、さっき頼まれたからこの戦いに参加したって言ったね」
「? それがなにか?」
「誰に頼まれた?」
「誰って、ゼウス様ですけど」
「そうか」
シオリの返答を聞いて確信めいたのか、その表情から懸念が消えた。
「あの、なんでそのようなことを?」
「それはだな。私の予想が当たっている可能性を高めるためだ」
「?」
シオリは「相手がまた訳も分からぬことを言い出した」と言いたげな表情を浮かべた。
「えっとだな。あんたは自分にはなぜ能力が効かないのか分からないと言っていたな」
ここに来て、兵士はまたその話を掘り返した。再び出たその議題を前に、シオリはますます頭が混乱した。
「恐らくだが、ゼウスはあんたにその能力があることを見抜いていたんじゃないか? だからあんたを起用したんだ」
「!」
それを聞いて納得がいった。今まで疑問に思っていた、自分が選ばれた理由。薙刀に限らず武道の心得がある人物なんて大勢いる。ましてや自分よりも強い人間なんてごまんと居るだろう。その中から一般人である私を選んだ理由は特別な能力があるからに違いない。そうでなければ選ばれるはずがないのだから。
「そういうことだったんだ」
シオリは一人、ただ静かに納得した。
一方の兵士も彼女が選ばれた理由を理解したが、その思考は彼女よりも深かった。
(いかなる能力も効かない。それだけが理由で彼女を選ぶわけがない。あの子は本質に気が付いていないけど、彼女が選ばれた本当の理由はその適応能力! 最初こそ少しばかり効いた私の能力が効かなくなったのも、さっきまで手こずっていた私の攻撃にあっさり対応できたのも、偏に彼女の適応能力があってこそ! ゼウスはきっと彼女のこの特別な能力を見出したんだろうね)
兵士の読み通り、シオリの能力はどんな効果も効かない特別なものではなく、どんな効能、どんな状況にも柔軟に対応する適応能力にあった。
兵士の時間を止める能力は言わずもがな、斬撃破・拳のラッシュ、密やかな援護射撃も見事に適応して見せたのだ。
(この子、今仕留めておかないと、後々厄介な敵になりかねないね)
兵士はシオリの能力を悟ると、彼女への評価を変えると共に警戒心をさらに強めた。
そして、構えた。お喋りはここまで。あとは戦闘のみ。
「! ……」
静かに、しかして猛々しくオーラを放つ兵士を見て、シオリも薙刀を力強く握った。これまで違う彼女を見て、もはやおしゃべりな兵士などいないことを悟る。
そこに居るのは紛れもない敵だった。
「いくよ」
兵士が宣言。
「はい!」
シオリが反応。
両者の最後の戦いが始まった。
兵士陣営が切れるカードは兵士の肉弾戦、飛ばす斬撃破、止める能力、軍人の援護射撃。
対してシオリのカードは薙刀での剣戟戦と適応能力のみ。
戦いの基本、両者の力が拮抗する場合は戦術の多い方が勝つ。ここでいう有利な位置に居るのは兵士・軍人ペアである。
しかし、シオリの適応能力はこれを上回った。相手の数々の攻撃・技・作戦、その全てに適応していったのだ。
結論、この戦いにおける勝者はシオリであった。
「……クソッ。負けちゃったか」
シオリの最後の一撃を喰らった兵士は血反吐を吐きながら倒れた。腹を地面に付けて倒れ伏す彼女の表情はなんとも清々しかった。
「ごめんなさい。あなたにも負けられない理由はあったのかもしれないけど、私にも負けられない理由があるの」
倒れた兵士を横目に、シオリは体中から血を流して言葉を発した。ボロボロの体のシオリはへ垂れるようにその場に座り込んだ。
「なんだ? 頼まれたからか?」
嫌味ったらしく言う兵士。しかし、言葉には元気が宿っていなかった。
「確かにそれもありますけど、」
「?」
「一番は、家族や友達のためです」
「!」
それを聞いて兵士は確信した。彼女も心に宿すものは同じなのだと。彼女の闘争心、その根幹にあるのは思い人だった。家族、友人、その他仲良くしてくれた人やお世話になった人。彼女の中に守りたい人たちが居るから、彼女は立ち上がったのだ。武器を手に取ったのだ。傷つくことを恐れず向かっていったのだ。
「みんなに危害が加わるのなら、それを黙って見ているわけにもいきませんから」
それを聞いては何も言うことができなかった。
「結局、思う部分は場所が違えど皆同じなんだな」
兵士は小さく呟いた。そして、納得と共感のもと、負けたことを認めると彼女の体が黄金色に輝き出した。
「これは……」
輝く光に釣られて、シオリは視線を兵士に移し、また重たい体を引きずって兵士の下へと近付いた。
「送還だよ。私の負け。大人しく控室に戻るよ」
潔く負けを認める姿は、なんとも大人らしい殊勝な態度だった。
「兵士さん……」
シオリは少し寂しそうな顔をした。廃れた世界と相まって彼女が消えていく様を見て、もう二度と会えないのではないかという錯覚を覚えさせたのだ。
「そんな寂しそうな顔するなって。それに、そんな顔は敵に向けるものじゃない」
兵士は優しく諭すが、それを聞いたシオリは首を横に振った。
「敵とか味方とか…… 散々戦っておいて言うことではないと思うんですけど、私、兵士さんがどうしても悪い人には思えなくて……」
シオリの顔は寂しさを超えて今にも泣きそうだ。そんな彼女の顔を見て、兵士はクスリと笑った。
「それは私も同じだよ。けど、お互い譲れないものがあって、それぞれの対場もある。敵と思えない相手が向こう側に回ることだってあるさ。それでも大切なもののために戦うあんたは立派だと思うし、相手を思う優しさはあんたにかない素敵な取柄だと思うよ」
「! 兵士さん……」
再び寂しそうな顔をするシオリに、兵士は優しく微笑みかけた。
「ほらまたその顔。あんたは勝ったんだから堂々と胸を張って、次の戦場に行くといいさ。大切な人たちのためにもね」
兵士はシオリに促す。それを聞いたシオリは目元に溜まった少しばかりの雫を拭い、立ち上がった。相変わらず体はボロボロで今にも倒れそうな勢いだ。
「兵士さん。ありがとうございました!」
シオリは深々と礼儀正しくお辞儀をした。そのまま彼女は兵士に背を向け、走っていった。
「ふっ。倒した敵にお礼を言うなんて。最後まで、変わった子だったね」
一人小さく呟く兵士。兵士はなんとか体を動かして、下を向いた姿勢を正し、天を仰いだ。そこで一旦一息ついてから言葉を発した。
「ごめんね、軍人ちゃん。あんたの援護があったにも関わらず、負けちゃったわ」
兵士が一人になったその空間に呼びかけると、今まで物陰に身を潜めていた軍人が姿を現し、兵士の下へと歩いてきた。シオリは兵士とのやり取りで彼女の存在をすっかり忘れていたのだ。
「いや、私はただ援護射撃をしただけにすぎない。敵の前に立たず暗がりで銃を撃っていた私が、敵と渡り合ったあなたを責める筋合いなどない。それに、仮とはいえ今は同盟関係にある。あなたが負けたというのならそれは私のせいでもあるんだ。これはあなただけの負けではなく私の負けでもある」
慰めるように軍人は己の失態を吐露した。しかし、表情は一切崩さない。流石に最後まで残されたエリート軍人、とでもいうべきだろうか。
「だからって、あいつらにみたいにリタイア宣言はしないでしょ?」
「無論だ。私は彼らの意思を次いでここに居る。まだ動けるのに相方が負けたから私もリタイアする、などといったことはできない。負けたのなら新たな策を講じ、再びセスの兵士と共に戦うまでさ。もちろん、あなたの意思も次いでな」
軍人は彼女の目を見据えて、嘘偽りのない言葉で語り替えた。
「そうかい。じゃ、頼んだよ」
兵士の最後の言葉。軍人はこれを敬礼で受け取った。
そして、兵士がまた一人、戦場から姿を消した。
「はぁはぁ。兵士さんには大見え切っちゃったけど、体はもうボロボロだし、次も勝てるかどうか……」
兵士と別れの挨拶を告げたシオリは町中を走り回っていた。一人走っている中、軽く愚痴を一つ。
しかし、彼女はすぐに我に返り、顔を横にブンブン振って邪念を払った。
「ううん。それでもやらなきゃ。みんなが私の帰りを待ってるんだもん」
一人で悩み、一人で勝手に解決したシオリはひた走った。そんな中、爆発音が徐々に近づいて来るのを聞き取った。
「? 何の音……」
疑問に思った次の瞬間、一つの人影が彼女の前に姿を現した。その影はやがて姿が克明に見え、ひらひらの白い服を纏った女性だった。シオリはその姿を見て確信し、メイド姿の彼女に声を掛けた。
「ソーシャさん⁉」
シオリの放った固有名詞通り、彼女こそ地球からの代表メンバーその一人。メイド服に身を包んだ精錬潔白な女性、ソーシャだった。
「シオリ様⁉ なぜここに⁉」
聞き慣れた声がして、ソーシャはそちらに顔を向ける。そして、シオリを見つけては声を荒げた。そしてすぐに意識だけ彼女から別の方に向けて、急いで警告した。
「ここは危険です! すぐにお逃げください!」
控室で見たお淑やかで優雅な彼女の姿はそこにはなかった。体はシオリと同様にボロボロで、服も所々が裂けていた。表情は焦りの色一色だった。
「逃げてって、どういうことですか⁉ あなたはなにと戦っているんですか⁉」
おかしな状況に混乱しながらもシオリは冷静を装い、質問を投げる。
「今は説明している時間はございません! あの方がいらっしゃる前に早く!」
普段のソーシャなら手早く答えていたのだろうが、そんな素振りもなく、一方的にシオリに逃げろとだけ言う彼女。しかし、それでは納得もできず、また、そんな危険そうな状況に彼女一人を残していいものかという葛藤が芽生え、シオリは動くことができなかった。
「え⁉ で、でも……」
「私のことは構わず、早く……」
シオリの様子を見て、瞬時に察し、言葉を投げる。しかし、それを遮ったのは「あの方」とやらの存在だった。
「なんだ? 一体誰と話しているんだ?」
重々しい声とプレッシャーが上から圧し掛かった。
「っ、遅かった!」
ソーシャは上を向いて、睨む。ふんわりとしたスカートの中から数本のダガーを取り出し、握りしめた。
「ん? なんだ、もう一人居たのか」
視線がシオリに注がれる。それだけでさらに重い空気が肩に圧し掛かるのを感じ取った。体中の全てが軋む。歯はガチガチと音を鳴らし、焦点がぶれる。
恐る恐る顔をソーシャと同じ方向に向けると、そこに居たのは最強のオークだった。




