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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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サイドストーリー)二人の能力

 両者睨み合い、見据える。


 先に動いたのは兵士だ。相変わらずの移動速度でシオリを翻弄する。


 シオリは近づけさせてはいけない、と間合いを取ろうとするもすぐに接近を許してしまった。先ほどよりも早い。本気で潰しに来た。


「ふんっ!」


 二度目の初撃。これは防がれる。先ほどと同じ流れ。その後に兵士が怒涛の攻撃を繰り出すのも同じ。しかし異なるのはシオリの対応。兵士の攻撃そのすべてを無傷で捌ききってみせたのだ。


(! この娘、全部の攻撃に対応した⁉)


 傷だらけの体とは思えない高度な武器捌きに兵士は驚愕。


 さらに驚いたのはここから。先ほどは防御しかできなかったのに対して、今度は攻撃も繰り出してきたのだ。


「どこからそれだけの力が……!」


 思わぬ反撃に、兵士は堪らず一歩下がる。それを見て、今度はシオリが先手を打った。


「!」


「はぁぁぁ!」


 豪快な一振りが兵士を襲う。兵士は拳を頭上でクロスさせて、その一撃を受け止めた。


「くっ、んぬっ!」


 精一杯踏ん張りを効かせる。しかし次の瞬間、無防備になった腹にシオリの蹴りが炸裂した。


「ぐっ!」


 鈍い声を出し、兵士は後ずさり。すぐにシオリは後を追った。


「クソっ!」


 兵士は掌をシオリに向かって「翳した」。「構えた」のではなく「翳した」のだ。


 しかし、シオリはそれを認知しても止まらない。特に体に異変が起こるわけでも、視界に映る掌から何かが飛び出してくる気配もなかった。


 失敗に終わったのか、兵士の方から小さな舌打ちが聞こえた。その数秒間でシオリと兵士の距離は無くなった。攻撃の準備を終えているシオリが先行。兵士は妙な動きのせいで反応が遅れた。


 目前には敵、無防備を晒す自分。もはや避けることはできない。それでもなにもしないよりはまし、と兵士はバックステップ。それでもシオリが詰め寄る方が早い。


 万事休すの兵士の中に一縷の希望が舞い込む。それはたった一つの銃弾だった。


「油断しすぎだ、馬鹿」


 それは他の誰でもない、軍人からの援護射撃だった。軌道はシオリを狙った先、このまま彼女が突っ込めば、銃弾に当たることは必然。紛れもない最高の助け舟であったことは言うまでもない。


「ナイス援護、軍人ちゃん!」


 これで彼女は引くか、もしくは止まる。二人はそう考えていた。


 が、彼女は止まらなかった。銃弾が見えなかったわけではない。理性を失ったわけでもない。彼女は確信があった。これはなんとかなるタイプの攻撃だ。


 その確信のもと、シオリは足を止めなかった。その間にも銃弾とシオリの距離は近付いていく。


「なに⁉」


「嘘でしょ、正気⁉」


 二人の驚いた反応。一人は認知し得ないが、もう一人はシオリの前でその表情をしている。それを見れば彼女たちがなにを考えているのか一目瞭然だ。


 これまでのシオリならこんな決断はしなかった。彼女の性格を考えれば、一歩引くはず。その予想は見事に外れ、彼女の根の強さがここに来て表れたのだ。


「はっ!」


 次の瞬間、シオリは銃弾をはたき落としてみせた。幾度となく彼女をピンチに陥れた銃弾は、サイレントに特化しただけのただの銃弾でしかなかったのだ。


 これでシオリと兵士を遮るものはなにもない。さらに、シオリはそのまま突っ込み、兵士は簡単なバックステップの体勢しか整えられていない。パッと見るだけでは、完全にシオリが優位だった。


 だが、相手は熟練の兵士。これまで多くの侵略者を相手取って来た、ベテランのバトラーなのだ。彼女にとっては、銃弾を弾く極短時間でも十分。そのほんのわずかな時間で、シオリの直撃を避けるくらいの体勢は整えることができた。


「やぁあ!」


 それでもシオリが優勢であることには変わりはない。勢いよく薙刀を振りかざした。


 これを兵士はぎりぎりで躱す。


「! 避けられた!」


 この一刀に力を込めていたシオリは、一旦そこで動きを止めた。


 その隙に兵士は距離を取る。


「ふぅ。あぶないあぶない。まさかここに来て動きが良くなるとはね。油断してたわけじゃないけど、驚かされたよ」


 兵士は切られた前腕をぶらぶらさせて、言葉を紡ぐ。シオリの最初の攻撃は相手の前腕の肉を斬る成果を得た。ここまでやってこれだけ? 否。最初の攻撃でこの結果。上場である。


「避けられているようじゃ、世話ないですけどね」


 だがシオリはこの結果に満足しない。してはいけないことを分かっている。それに達成感を覚えてしまえば、今、体に宿っている熱や運動選手がゾーンに入った時に得られる身体能力が向上するような錯覚が、掻き消される気がするからだ。


 薙刀を構え、油断せず、慢心せず、相手の動きを監視する。


 そんな中、兵士は自身の手を黙って見つめていた。


「……」


 彼女の中にずっとある気掛かり。それがたまたまなのか、あるいは意図的なのか。それを払拭しない限り、その気掛かりはずっと心に残り続けるだろう。早急に解決する課題だ。


――スッ


 兵士はおもむろに手をシオリへと翳した。先ほどと同じ光景を目の当たりにして、シオリは警戒をグッと強める。先ほどは何も起こらなかった。だが、今回はそうだとも限らない。あるいは既になにかされたのかもしれないが、いずれにせよ警戒するに越したことはない。


「……やっぱりダメか」


 そう言う兵士の表情はどこか暗め、嫌疑を晴らそうとしたのに益々深まったような感じだった。


 しかし、彼女の実験はまだまだ続く。今度は腕を振り下ろすことで、斬撃破を放ってみせた。それはこれまでシオリを襲った無数の攻撃ではなく、たった一つの斬撃破。


「今更これくらいの攻撃!」


 意気込み、迎え撃とうとするシオリ。斬撃破を目で捉えた矢先、気になるものが視界の端に映った。手を翳した状態のまま動こうとしない兵士の姿だった。


 兵士は手をこちらに翳したまま動かない。いや、「こちら」という言い方に引っ掛かりを覚える。正しくは「斬撃破」だろうか。彼女は斬撃破を狙っている? だとしたらなぜ?


 その疑問は次の瞬間に明らかになる事となった。


 兵士は翳した手に力を籠める挙動を行う。その時、シオリに迫った斬撃破はその場でピタリと動きを止めたのだ。


「⁉」


 これを見たシオリは訳がわからなくなる。これまで彼女が見てきた攻撃の中で、理屈の通らぬものはなかった。兵士の斬撃破や軍人のサイレント銃も、科学によって片付けられる代物だったからだ。


 しかし、目の前の事象は違う。そんな単語一つでは処理できないことが起こっている。理屈ではまかり通らぬことを目の当たりにしているのだ。自身の目を疑うしかなかった。


 だって、なぜなら、それは明らかに、時間が止まっているようにしか見えなかったのだから。


「どうやら、私の能力が使えなくなったみたいじゃなさそうだね」


 止まった斬撃破から視線をずらし彼女を見る。どうやら「これ」を引き起こしたのは彼女で間違いなさそうだ。先ほどの暗い表情が消えている。しかし、どこか腑に落ちていないような複雑な顔をしていたのもまた事実。


 なぜ、そのような顔をしているのかは分からない。また、間違いなさそうだとは思うが確信はない。


「これは、あなたの仕業なの?」


 ならば聞くのみ。シオリは臆することなく問いかける。あたかも授業で分からないところを質問する生徒の如く。


「ん、ああ。そうだよ。私たちセスの戦士たちはそれぞれ特別の能力が使えるんだ。そして私の能力がこれ。万物の時を止める力。私が指定したものは有機物だろうが無機物だろうがその動きを止める。まぁ、指定するものによって止められる時間は変わってくるんだけどね。生命体ならよくて数秒。力量のある人物なら一秒も保たないかな」


 あっさりと答える兵士。


「そんな大事なこと、敵である私に安々と教えていいんですか⁉」


 当然の反応。本物の戦闘経験がなかったシオリでも、それが愚かな選択であることは理解しているようだった。


「別にいいよ。あんたが私の能力を知ったところでなにかが変わるわけじゃない。止められる術も持たないだろ?」


 これにも淡々と答える始末。能力の暴露に関してはなにも思っていない様子だった。


「なら、なぜそのような顔をしているのですか?」


 再び疑問を投げかけるシオリ。「そのような顔」とは腑に落ちていない顔のことである。


「……それを答えるには、あんたにも私の質問に答えてもらわなきゃいけないよ」


「え?」


「あんた、なんで私の能力が効かないんだ?」


「……え?」


 理解できなかった。効かない? なにが? 誰に? 訳も分からぬ問いかけに頭が回る。


「ちょ、ちょっと待ってください。能力が効かないって、いったいどういうことですか⁉」


 パニックに陥り、同じ言葉を繰り返すだけになってしまった。それほどまでにシオリは動揺していた。


「どういうことって、それを聞きたいのはこっちなんだけど…… 要するに私の時間を止める能力があんたには効かないってこと。この戦いの中、何度か試したけど効いたのは最初の方だけで、それ以降は全然効果がなかったのよ」


 最初の方は効いていたのか、とツッコミを入れる余裕もなく、シオリは兵士の話に聞き入っていた。


「つまり、私にあなたの能力が効かなかったと?」


「最初っからそう言ってるじゃないか」


「……なぜでしょう」


「だからそれを聞きたいのはこっちだってば」


「だって能力が効かないなんて言われてもよく分かりませんし、そんなの、なんだか化け物みたいじゃないですか‼」


「いや、それは知らないけど……」


 ツッコミどころ満載の押し問答が続く中、シオリは半べそをかきながら嘆いていた。あまりに情緒不安定な女の子の様子を見て兵士はたじろぐしかできなかった。


(……なにやってんのこの人たち)


 一方で、一部始終を見ていた軍人は、呆れながら心の中でツッコミを入れた。


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