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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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サイドストーリー)シオリVS

 オーク対空の戦いが行われている頃、別の場所でも戦いは行われていた。空以外での戦いの舞台は主に三カ所。


 ここではその内の一つ、リープ&セス仮同盟ペア対シオリの戦いが行われていた。


「ほらほら! 守ってばっかりじゃ、いつまでたっても勝てないよ!」


 女兵士は彼女に攻撃を仕掛けながら語る。拳には小さな斧が取り付けられたメリケンサックのようなものが装備されている。


「……」


 縦横無尽に駆け回り、自由奔放に戦闘を楽しむ兵士とは対照に、汗をかき、がむしゃらに攻撃に対応するシオリ。自分よりも大きな薙刀を振り回し、結んだ髪を揺らして奮闘する彼女に大和撫子の優美さを感じさせるものはない。


 ただ懸命に、ただ必死に、己のできることを全てやっている。そんな風に感じ取れる。


 リーチのある薙刀と機動力のあるメリケンサック。どちらが優勢かと言われればケースバイケースだが、この時、優勢に立っているのは兵士の方だった。


 一見、近距離と遠距離で薙刀の方が上手のように見えるが、その差を覆すほどの俊敏さを相手は兼ね備えていた。


「くっ!」


 おまけに一打一打が重い。シオリは守りに手いっぱいで中々攻撃にまで回す余裕がなかった。


「遅い!」


「!」


 一瞬で背後を取られ、攻撃の手が伸びる。しかし、シオリは拳と自身の腹の間に薙刀を滑り込ませて、間一髪防御に成功した。が、その代償に後方へと吹き飛ばされることを避けられなかった。


「へぇ、防いだんだ。防御に特化しているの? 中々しぶといじゃない」


「……」


 地面を転がり埃にまみれたシオリを見て、兵士は賞賛を述べる。一見、お世辞にも皮肉にも聞こえるが、彼女なりの誉め言葉なのだと捉えよう。


 シオリは何も言わずに静かに立ち上がった。幸いどこも怪我をしていない。お気に入りの袴を汚されたことだけは気に食わないが、それ以外は支障はない。身に付いた埃を払って、薙刀が手元にあることを確認した。


「ねぇあんた。一つ、聞きたいことがあるんだけどさ」


「!」


 少し距離を置いて、兵士はシオリに話しかける。その表情は余裕? いや、不機嫌だろうか。読み取ることが難しい無表情やや強張っていた。


「私の勘違いなら申し訳ないんだけどさ。あんたってもしかして、やる気ない?」


「‼」


 兵士の妙な指摘にシオリは驚いた。なんで急にそんなことを聞いたのだろうかと疑問がる。それに答えようとするよりも先に、兵士は再び口を開いた。


「……いや、そんなわけないか。やる気のない奴にあたしの攻撃が捌けるわけないもんな」


 一人納得したのか、兵士はそっぽを向いた。そんな彼女を見て、シオリは一人物思いにふけっていた。


(……いや、やる気も何も私、訳も分からぬままここに居るんですけど⁉)


 シオリは心の中で叫んだ。表に出すのははばかられるので、心の内に留めた。


(そもそも私、学校に勉強しに行ってただけなのに、急に地球代表? に選ばれたり、変な惑星に飛ばされたり、挙句の果てにはこんな所で戦わされたり。既に頭が追いついていないんですけど⁉)


 心の中で愚痴を叫ぶ。表に出すのははばかられるので、ここも胸の内に秘めた。


(大体おかしなことばかりだよ! 私が地球代表ってただの女子高生だよ⁉ 他にも私より強い人なんていっぱい居るでしょ‼ 地球のために戦ってって何⁉ 一介の女子高生に頼むことじゃないでしょ‼ 相手が宇宙人ってどういうこと⁉ それに関しては本当に意味が分からないよ‼)


 愚痴が止まらない。表に出すのは(以下略。


 ここまでで分かる通り、彼女は巻き込まれ系ヒロインだった。以下回想↓


 お嬢様学校に通う根が真面目なシオリは、夏休みを返上して学校に自習をしに来ていた。神様登場! からのご依頼。断ることもできず流されるがままに現在に至る。


                                          回想終わり


「……いやこれ、断らなかった私が悪いのか」


「あんた、一人で何ぶつぶつ言ってんだ?」


「!」


 心の内に秘められていなかった言葉が、口から漏れ出ていた。口の緩みは心労から来るものだろうか。


「まぁいいさ。そんなことよりも、さっさと始めるよ!」


 シオリの気苦労など知らず、兵士は真っ直ぐ彼女へと突っ込んだ。


(‼ ああもう‼ 一息すらつかせてくれないんだから‼)


 シオリは渋々これに応戦した。


 初撃。兵士の拳が炸裂。切れ味と破壊力を兼ね備えたパンチがシオリへと迫る。シオリはこれをなんとか防いだ。


(っ! さっきからなんて重い攻撃なの⁉ こんなのが何回も来るから中々攻撃に移れない!)


 ここでも文句が炸裂する。彼女の言う通り、兵士の重い攻撃は何度も繰り出された。


 二度、三度、四度…… 怒涛のラッシュは止まらない。


(ただでさえ、彼女の攻撃だけでも厄介なのに、加えて……)


 兵士の連続パンチをギリギリで捌くシオリに更なる攻撃が加わる。どこからともなく銃弾が彼女目掛けて跳んできたのだ。


「‼」


 これさえも無理な体勢で華麗に避ける。しかし、ギリギリ。しかし、紙一重。綺麗な袴に破れた跡が入り、銃弾は明後日の方向へと飛んでいく。


(これ‼ 兵士さんの攻撃に合わせてどこからか狙撃される! ご丁寧に銃声も消されているし、一発撃ったら場所を移動して既にそこにはもう居ない…… 目の前の彼女だけでも手いっぱいなのにいつ飛んでくるかも分からない銃弾にリソースも割かなくちゃいけないから、兵士さんだけに集中もできない!)


 シオリは度々このような妨害を受けていた。彼女はセスとリープが仮同盟を組んだことなど当然知っているわけもなかった。


「! 『また』避けられた!」


 銃弾を放った諜報人、軍人の女性は「何度目か」の避けられた攻撃を見て、悔しがり、驚き、厄介に思った。


 最初こそ、銃弾は彼女の肌を掠り血を流すくらいはしたものの、今ではそれができず足止めくらいの効果しか発揮できなくなっていた。


「すまない、セスの兵士。相手の対応が想像以上に速い。簡単な妨害くらいしかできなくなっている!」


 軍人は場所を移動させながら、自身の不甲斐無さと軽い妨害しかできない歯がゆさを悔いた。


「いや、その一瞬で十分!」


 インカム越しに声を聞いて軍人の思いに応えるように、兵士は攻撃を加速させた。援護射撃でできた一瞬の隙。彼女は見事にそこを突いてきた。


「くっ!」


 腹にできた深い切り傷。肉を抉る音と飛び出す血しぶきが痛手であることを警告する。初めての重症、初めての痛み。今まで普通の高校生活を送って来た彼女がそんなものを経験したことなどあるはずもなく、激痛は彼女の反応、動きを鈍らせた。


「そら‼」


 兵士にとっては格好の的。第二、第三の手がシオリに伸びる。動きが鈍った彼女が、機敏な動きを保つ兵士の攻撃を避けられるはずもなく、さらに血を流すこととなった。


 途切れることのない攻撃を前に致命傷を避けることが精一杯のシオリに、兵士の回し蹴りが炸裂する。


「ぐっ!」


 またも鈍い音と共に後方へと飛ばされてしまった。


「まだまだ! 今度はこんなもんじゃ終わらせないよ!」


 兵士が元気よく叫ぶと、シオリに近付くことなく、その場で拳を振り下ろした。


 明らかに距離が足りていない。そう思ったのも束の間、斧付きのメリケンサックから刃物のような衝撃波がシオリに向かって飛び出した。


(嘘でしょ⁉)


 アニメやSFの世界でしか見ない攻撃を見て、瞬時に悟る。あ、これやばいやつだ。不格好な体勢で急いで避ける。その動作に合わせて腹から血が出てくるが、そんなものを気にしている余裕などなかった、


 やがて、斬撃破がシオリの元居た位置に到達すると、轟音と軽い粉塵を巻き上げた。


(あ、あんなの喰らったらひとたまりもないじゃない!)


 その威力を間近で見たシオリは背筋が凍る思いだった。


「そらそらそらそら!」


「!」


 ここでも一息なんてつかせてくれない。兵士は興が乗ってきたのか、楽しそうに拳を振り下ろす。その度に斬撃破は発生し、それらはシオリを襲った。


(ちょ、ちょっと待って、これはいくら何でも……)


 多すぎる。視界の半分は斬撃破で埋め尽くされた。これを全部避けるのは無理だと、一か八か薙刀を構える。


 飛んできた斬撃破一つ目、薙刀を振り下ろしてみる。意外にも対処することができた。


(あれ? 意外となんとかなる?)


 そう思ったのも束の間。すぐに次の斬撃破が飛んでくる。一つ目はなんとかなったものの、その一つ一つが重いことには変わりない。加えてこの数である。はたき落としても、捌いても次々と来る斬撃の嵐にシオリは徐々に押されていった。さらに腹の傷が響いて、動きはどんどん鈍くなる。


 やがて無数の斬撃破に対応できなくなっていき、怒涛の攻撃を諸に喰らうこととなった。そして、彼女は巻き上がった煙の中で、大量の血を流して倒れ込んだ。


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