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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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ネリム、暗躍する

―惑星リープー


「なぁ~。いい加減立ち直れって」


 軍人の一人はしゃがみこんでそう言った。視線の先には二人の軍人。この男女二人組も小さくうずくまっていた。


 部屋の隅で二人仲良く三角座り。肩をガタガタ震えあがらせ、なにを話しかけようが返事もろくに返ってこない状態。仲間たちは何度も話しかけているがずっとこの調子である。


「そんなに凄かったの? あのオーク」


「「ひっ‼」」


 名前も出していないのに二人は悲鳴を上げ、さらに肩を震え上がらせた。二人にとってはそれほど恐怖なことだったのだろう。あのシヨクを相手にしたことは。


「す、凄いなんてもんじゃない。あれは化け物だ! お前らも顔合わせの時に見ただろうが、戦場であいつの目の前に立つのとは全く違う!」


「そ、そうよ! 実際に戦ってみて、あの威圧感に潰されそうになった! 常に戦場に生きる私たちだけど、あの『理不尽』を前にしたら、今までのことがごっこ遊びに思えてくる!」


 二人の凄惨な体験談を聞いて、一同は唾を呑む。故郷のことを口にするほどだ。それほどの経験であったことがひしひしと伝わるし、何より、二人にそれを言わせるほどにシヨクという存在は圧倒的なのだろう。


 一同は黙りこくって顔を俯かせた。皆口にはしなかったものの、その心境は同じだった。


――果たして、我々は勝ち抜くことができるのだろうか。


 惑星代表と言っても、なにか特別な能力はない。実は彼らの身体能力は人間のそれと大差なかった。それでもこの戦いにおいて、勝ちの目を見出していたのは圧倒的な科学力、軍事力。活路を見出していたのは、この分野においてはどこの誰にも負けないという自負があったからだ。


 しかし、あのオークには通用しなかった。歯が立たなかった。蹂躙された。得意とする戦法で挑んでも、相手に傷を負わせることすらできなかったのだ。


 全員の心に不安が募る。全員の顔に落胆の表情が浮かび上がる。


 重苦しい空気が小さな部屋に漂う中、一人の老人が口を開く。


「なら、諦めるかのう」


 予想外の言葉に一同は振り返る。視線の先にはネリムが腰を曲げて、顎髭を撫でていた。


「わしらの武器である『科学』が通じん以上、もはやできることは何もない。潔く敗北を認め、このまま奴隷となる道を選ぶとするかのう」


 老人の言葉を聞いた瞬間、軍人たちは思い出した。自分たちがなんの為に戦っているのか。なぜ、この場に居るのか。誰のために戦っているのか。


「なんて、そういう訳にもいかんじゃろうて。わしらの敗北はリープの敗北を意味しておる。戦うことの放棄、戦意の喪失も同じことじゃ。わしらがここで諦めることは、帰りを待つ者たちを裏切ることと同じじゃ」


 ネリムの話を聞いて、二人の男女は立ち上がる。もう彼らにできることはなにもない。しかし、座ってその話を聞くことは今すべきことではないことなどすぐに分かった。隅で肩を震わせることは、間違っていることだと理解した。


 立ち上がった二人の姿を見て、他の者も傾聴する。心の内に不安などは既に無かった。


「ならば諦めるわけにはいかんじゃろうて。最後までやりきらんといかんじゃろうて。それがわしらのやるべきこと、与えられた使命じゃ」


 一同は拳を握り、肘を体の前で曲げてポーズを取った。その後に、片足で一度足踏みをして音を鳴らした。


 これはネリムの所属する国家の敬礼のポーズ及び動作の一つである。所属がばらばらである一同が別の国出身であるネリムの国の敬礼を取ったのは、彼に対する最大の敬意である。


 ネリムはこれを柔らかな笑顔で受け取った。


「しかし、ネリム殿。士気が高まった時に言うのもなんですが、諦めない、というだけでは現実問題、相手との実力差をひっくり返すことは難しいと思いますが」


「そうじゃな。言葉や一時の高ぶりだけでこの差を覆せるほど相手は弱くはない。だから、ひとまず手は打っておいた」


 ネリムはそう言うと、モニターの方を見た。釣られて、声を掛けた男もモニターの方を見る。それぞれのモニターには新たに転送された仲間たちの姿があった。既に仲間たちは新たな敵と遭遇していた。


「ん?」


 しかし、そこに違和感。一見、なんてことはない。ただ、敵と相対しただけに見えるその光景だったが、軍人はそれが奇妙に思えた。


 三人はそれぞれなにかを話している様子。戦う前の挨拶だろうか。いや、そもそも


 仲間たちはなぜ、一人で敵と出会っているのだろうか。


 本来の作戦であれば、三人が全員合流してから一人の敵を叩くというもの。しかし、今の彼らはその作戦から逸脱した行為を行い、敵の前に身をさらけ出している。


 軍人として作戦違反をする仲間を見て、現上司であるシヨクの方をちらりと見るも、特に驚いた様子はない。「作戦変更」もシヨクが打った手の一つなのだろう。


 しかし、違和感の正体はそこではない。むしろ違和感は仲間たちの方にではなく、敵にあった。


「あれ、もしかして……」


 仲間の一人がなにかに気が付いたようにモニターを食い見る。男軍人も同じようにモニターを見つめ、ようやくその異変に気が付いた。


 全員が同じ軍服を着ている。三人が相対しているのは全員が惑星セスの代表者だ。


「! まさか、意図的にセスの者と会っているのか?」


 男の疑問は深まるばかり。その間にもモニターの中でおかしなことは続く。三人が敵と出会って数分が経過しようとしているが、未だに戦闘に移る気配がない。


 戦闘前の雑談にしては長いと思っていた矢先、ようやくそれぞれが動き出した。敵との距離が縮まっていき、戦闘が始まると思われた。


 しかし、その後に映し出されたのは、仲間たちが己の科学兵器を敵に渡す姿だった。


「なっ、なんだと⁉」


 男は思わず、声を上げる。それと同時に動揺も。我々の唯一無二である武器を取り上げてしまえば、もはや戦う術などない。敵の洗脳を勘ぐっていると、男は次のシーンでさらに度肝を抜かれることとなる。


「「「リタイアする」」」


 なんと、三人同時にリタイア宣言を行ったのだ。


「はぁ⁉」


 これには控室に居る全員が驚きの声を上げた。目を丸くして、モニターをかじる様に見る。


 やはり、相手の仕業に違いない。そうでなければ一体何を考えているというのか。ネリム殿の檄を聞いていないから諦めたのか。


 様々な思考が巡る中、「ネリム」という単語に引っ掛かり気が付く。


 ネリム殿が驚いていない。


 普通ならこの状況に驚くか憤慨するか、少なくともなにかしらの反応をするはずである。しかし、ネリムは三人の対応に何の反応も示さない。それどころか既に戦いに赴くための準備に取り掛かっている。


 その姿を見て、男は確信する。これも作戦の内なのだと。


「ネリム殿、いい加減説明してください。これがあなたの作戦であるということは、流石に分かりました。しかし、それが意図するものがなんであるかはさっぱり分からない。至急、ご説明を」


 男はネリムに詰め寄る。


「そうですよ、ネリムさん!」


「私たちにもちゃんと説明してください!」


 男だけではない。控室に居たメンバー全員が話を聞こうと、ネリムの近くに集まった。その様子からして、他のメンバーも詳しい話を聞かされていないことが分かる。


「すまんの。あの三人が出るまで時間も無かったから、先にあ奴らにだけ作戦を伝えておいたんじゃ」


 詰め寄られてもネリムはのほほんと語る。一人の老人に焦らされながらも、軍人たちは話をせがんだ。


「あ奴らがあのような暴挙に出たのは、何も自暴自棄になったわけではない。これはわしらが最後に勝つための布石じゃ」


「布石?」


 男が言葉を反芻すると、ネリムは小さく頷いた。そして、ネリムは詳しい説明を始める。


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