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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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お疲れな二人の落としどころ

「……なんだこれ?」


 画面に映し出された解説するゼウスと実況するハイテンションな男を見て、セッキは口を開けて傍観した。帰って来るやいなや、訳も分からぬ映像と耳をつんざくやかましい声が小さな部屋に流れているのだ。この反応になるのも無理はない。


「おかえりセッキ。まずはお疲れ様、かな?」


 壁に掛けられたモニターを眺めていると、優しく爽やかな声が聞こえて来た。こんな涼し気な声を出せる人物はこの場で一人しか思いつかない。


 セッキが声のした方向に顔を向けると、そこには案の定、爽やかスマイルのキユが居た。


「君の活躍、しっかりと見ていたよ。まさか二人も倒してしまうなんて。流石はセッキだね」


 恥ずかしがることもなく、キユはべた褒めする。セッキがちらりと表情を窺うが、そこに裏表などありはしない。シンプルにそう思ったゆえの発言であることは、その顔をみるだけで重々理解することができた。


 しかし、褒められると得意げになると思われたセッキの反応は、思ったよりも静かで、天狗になる様子もなかった。


「まぁ、な。逆を言えば二人しか倒すことができなかったとも言えるしな。正直、もう少しやれると思ったんだが」


 セッキが調子に乗らない理由はここにあった。単純に悔しかったのだ。


 セッキは三十人全員を倒すつもりで居た。しかし、実際の目標達成率は三十分の二、約六パーセントである。自身の思い描いた結果と現実との成果の差を目の当たりに、セッキは素直に喜べなかったのだ。


「……相手も相当強かったようだね」


 キユの視線がセッキの眼より下にずれる。セッキもその後を追って、目線を下に向けた。


 目線の先には、先ほど恐らく切断されたであろう手足が、傷跡一つなくぶらさがっていたのだ。新しく生え変わったのか、切断された手足をくっつけたのかは分からないが、ゼウスの仕業であることは間違いなかった。


「そんなもん、言い訳にしかなんねぇよ」


 そう発言しながらセッキは切れていた方の腕をぶん回して、動作確認を行った。傍から見てもそこに違和感を覚えさせないところを見ると、流石はゼウスの力量と言ったところだろうか。


「セッキらしいね」


「まぁな。自分の決めたことも達成できずに満足しているようじゃ、俺もまだまだだってことだからな。それよりも、他の奴らはどうなってんだ?」


 セッキは話題を変えて、モニター前のソファに腰かけるメンバーを見た。モニターを見て今後の方針を立てる者、ただモニターを見つめる者、何もせずじっとする者。


「ん?」


 セッキはそれを見て違和感を覚えた。モニター前に居るのは五人。そこにはシンスイが居た。それだけなら特に何も思うことはない。彼女も自分同様、送還されただけ。しかし、「彼女」が居るのにそれよりも弱い「彼」が居ない。


「空はどこだ?」


 セッキが疑問に思ったのは、そこに空が居なかった故。五人と自分、キユを合わせて計七人。つまり、他の三人は舞台へと転送され戦っているのだ。ここに空が居ないということは、空もその三人の中に含まれているということ。


 それはつまり生き残っているということ。自分やシンスイよりも弱いというのに、だ。


 セッキが疑問に思ったのはそのためだ。


「空なら今、戦いで傷ついた体を休めているよ。自分の目で確かめてみるかい?」


 キユはそう言うと、セッキとモニターの間に立っていた自分をどかして、道を作った。


 セッキは空いた場所を通って、モニターへと近付く。前まで来ると、五人もセッキの存在に気が付き、目線を彼に向けた。


「なんだ。意気込んでいた割には随分と早いご帰宅じゃないか」


 シンスイはセッキの心中など知る由もなく煽る。早くに送還されたのはお互い様のはずなのだが。しかし、今のセッキにはその慰めの言葉よりもそちらの方が心地よかった。


「うるせぇ。そんなこと、言われなくても痛感してんだよ」


 空いている席がシンスイの隣しかなく、セッキはドカリと腰かける。そのまま背もたれに寄りかかり、ふーっと息を付いた。


「お前、何人倒した」


「私か? 倒した、と言っていいものか分からないし、これを複数と捉えていいものか議論の余地が残るが、一般的な見方をするのならば、『二人』に該当するんじゃないか?」


「なんだ、訳わかんねぇこと言いやがって。ていうか俺と一緒かよ」


「ああ、聞いたぞ。強敵二人を倒したらしいな」


 セッキはまたも複雑な気持ちになった。シンスイと同じ数だけ倒した。シンスイと同じ数しか倒せなかった。シンスイが戦った相手の力量がどれほどのものなのか、ラダやあの女軍人よりも強かったのか。


 考えても分からないことに脳を使い、頭がごちゃごちゃしてきたので、セッキはその問題を取り敢えず置いておくことにした。


 セッキはもたれ掛かったまま、モニターの方に視線を移す。目に映ったのは物陰に座って体を休ませる空の姿だった。そこだけ見ると、軽く居眠りするただの少年だ。


「……なぁ」


「なんだ?」


 二人は目線を反らさず、会話を続ける。セッキはモニター、シンスイはテーブルに広げられた作戦用用紙に。


「空って何人倒したんだ」


「一人と聞いているが?」


「そうか」


 二人の視線はそのままだ。


「なぁ」


「なんだ?」


「空って俺たちより弱ぇんだよな?」


「ゼウスの話を鵜呑みにするならそうなるな」


「だよな……」


「? なんだセッキ。含みのある言い方をして」


 シンスイはセッキの言い方に引っ掛かりを覚え、彼の方を見た。セッキは相変わらずモニターの方を向いている。というよりも、そこに映った空を注視している。


「……いや。なんでもねぇよ」


「? そうか」


 シンスイはまたテーブルを向き直し、今後の作戦方針会議に戻った。


 その間もセッキはじっと空のことを見つめていた。


(なんだろうな、あいつ。言葉にできねぇが、なんかやってくれそうな感じがするんだよな)


 セッキに、人を見る際に特別な能力を見るセンスがあるわけではない。だが、セッキは空に可能性を感じていた。この戦いにおいて、最後まで勝ち抜く可能性について。これはセッキの願望も入っているのかもしれないが、少なからず、セッキはそんな予感がしていたのだ。


(俺の分まで頼んだぜ、空)


 セッキはニヤリと笑って、サングラス越しに空を見つめた。


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