オタクの実況が再び火を吹く
「序盤から白熱した戦いでした‼」
突然、隣から大声が飛び交った。声の主は言うまでもない、オタガミである。片手にはマイク。表情は満面の笑顔で、興奮しているせいか少し赤い。
ゼウスは急な大声に驚くことしかできなかった。そんなゼウスをおいて、オタガミは喜々として実況を続けた。
「いやー最初っから熱い戦いがいくつも繰り広げられましたね。どの戦いも目を離せませんでしたし、手に汗握る素晴らしい戦いっぷりでした! 思わず応援にも熱が入ってしまいましたね。まぁどこかに肩入れするような応援をする、などという野暮なことはしておりませんが(笑)」
相変わらずの元気な振舞いに、オタガミという名に相応しくない陽キャのノリ。彼の実況は留まることを知らない。言葉が途切れることなくオタガミのターンは続く。
「さて、実況のゼウスさんはここまでの戦いを見て、どのような感想を抱きましたでしょうか?」
彼のユーモア溢れる実況から一転、そのターンはいきなりゼウスへと回る。急な振りに対して少々戸惑いながらもゼウスは答える姿勢を見せた。
「え、えぇっと、そうだね。確かに君の言う通りどの戦いも凄まじく、目を見張るものがあった。中でも、やっぱりシヨ……」
「おぉーとゼウスさん。モニターに映し出されるのは各チームのメンバーとそれに出会った相手チームのメンバーのみ! 『彼』に出会っていないチームも存在するので、くれぐれも名前は出さないようにお願いします。まぁ、今ので大方の予想は付いてしまったと思いますけどね(笑)」
真面目に解説をしようとしたゼウスの言葉に被せ、オタガミはゼウスの口を塞いだ。やはりユーモアたっぷりの彼の言葉は大層明るく、陰気臭さを感じさせない。だが、その耳をつんづくような甲高い声と、底抜けに明るい妙なノリにゼウスはイラっとした。
しかし、流石は全知全能の神様。感情をいとも簡単にコントロールし、オタガミのそのノリをさらりと流して、解説の続きを始めた。
「……彼の戦いは特に目を惹く力強さがありました。四人の敵をいとも容易く返り討ちにしてみせた彼の実力は本物だと言えるね」
「そうですね。あの圧倒的な実力を目の当たりにすれば誰しもが注目の目を彼に向けることは間違いないでしょう。やはり、今戦いの台風の目となるのはやはり彼か⁉」
「それはまだ分からないね」
オタガミがシヨク、もとい「彼」を持ち上げようとする空気の中、ゼウスは意味深な発言をする。
オタガミは今度はキョトン顔をすることなく、目をぎらつかせてゼウスの話に食いついた。
「……と、おっしゃいますと?」
「戦いはまだ始まったばかり、だということだよ。さっきも言ったけど実は陰に隠れた真の猛者が潜んでいるかもしれない。これからの戦いで大番狂わせがある可能性だって捨てきれはしないよ」
ゼウスはそう言うと、モニターに映った休んでいる空を見つめて、同じように不敵に微笑んだ。オタガミはそれを見逃さない。
「なにやら意味深な発言ですね…… ゼウスさんの中では既にその人物となる目星は付いている、ということでしょうか」
「さぁ? それはどうだろうね?」
してやったりの顔をするゼウス。その表情を眺め、オタガミは「おぉぅ」と唾を呑んだ。
「またも意味深な発言をするゼウス神。今後の戦いに期待が膨らむばかりです!」
オタガミは一段落して、一度間を空けた。やはり実況の名は伊達ではないか、間の取り方が絶妙だった。
ゼウスがオタガミに感心していると、その彼は口を開いて話を続けた。
「さて、それでは現在の状況をさらっとお伝えしていきましょう。相手の情報を開示することは今後の戦いに影響するでしょうが、まだまだ中盤! これからの展開次第では、巻き返すことも全然可能です! ぜひ、これからの戦いに役立てていただきたく思います!」
オタガミはさらに一呼吸。そしてすぐに実況を続けた。
「現在首位は二チーム! 惑星地球および、惑星グリン! 残りのメンバー数は八名! 序盤で出場した三名の内一名が勝ち抜いたということになります! 彼ら彼女らがこの後にどのような展開を繰り広げるのか、注目が高まります」
「……」
ゼウスは黙って耳を傾けている。その様は、出番が回って来ず少し寂しいようにも見て取れた。
「続いて三位は惑星リープ! 残りのメンバー数は七名! 残念なことに最初に出場したメンバー全員が敗北、送還されてしまうという結果に終わってしまいました。しかし、これからの動き方次第では挽回のチャンスはまだまだあります!」
ここで再び一呼吸。次の話の準備段階。息を整え、オタガミは最後のチームを発表する。
「そして最後、現在四位は惑星セス! 残りのメンバー数は六名! このチームは最初の三名に加えて、続いて出場したメンバー一名も敗北し、計四名が脱落した形となりました。しかし、こちらのチームにも挽回のチャンスは大いにあります! 油断していると、彼女たちに足をすくわれかねませんよー?」
最後のチームの報告を終え、またも一呼吸。最後の煽るような文言は、紹介にしては少々雑さはあるものの、中々に興味を惹かれる内容ではあった。
ゼウスがくだらない感想を抱いている中、オタガミは最後の締めくくりに入った。
「只今現在の簡単な状況をお伝えさせていただきましたが、結局のところ、一番お伝えしたいことは同じことです。どこのチームにも勝てるチャンスが残っているということ! 多少なりとも残りの人数差はありますが、今後どうなるかは誰にも分かりません。果たして最後に立っているのはどこの惑星か⁉ 舞台は中盤戦へと移行しようとしています」
オタガミはその一言を最後にマイクのスイッチをオフにした。額には汗が流れ、表情はやり切ったという顔。そこに裏表などなく、何かを企んでいる様子などは微塵も感じられなかった。
「……」
しかし、ゼウスが警戒を解くことはなかった。じっと、オタガミを見つめて、油断しない。こればかりは失敗できないといった表情で、最大限にアンテナを尖らせていた。
オタガミはゼウスが自分のことをよくない目で見ていることに気が付いていたが、気にする素振りもなく、次の実況に向けて準備をしていた。




