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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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サイドストーリー)セッキ、託される

 流石のラダもここまでヒントを出されて、理解できないほどバカではない。先ほどの音はこの者が攻撃した音。そして、セッキの位置・向きが違うのはこの者の攻撃を避け、相手に背中を向けないようにしたのだ。


 全く大した奴だ、と感心していたラダ。だが、そんなことをしている場合ではないと光の輝きを見て、慌てた。送還はもう間もなく。思わぬ来客でセッキに一言、そしてリープの者にも一言言うことができてしまった。そう思いながらラダは口を開いた。


「オイ、そこのオマエ」


「? うちっすか?」


 女軍人は疑問の顔を浮かべながら、軍人とは思えぬ舐めた口調でラダに言葉を返す。同時にとぼけ顔で、這いつくばるラダのことを見下ろした。


「ソウだ。オマエにヒトツ、イっておきたいコトがアる」


「言っておくっすけど、説教ならお断りっすよ。相手が弱ってから叩くのも立派な作戦っす。同士討ちを狙って様子を伺ってはいけない、なんてルールにはないっすからね」


「イヤ、セッキョウではナイ。それにヨウスをウカガウコトをオレはワルいコトだとはオモわない」


「? じゃあ尚更なんっすか。退場するヒトがうちになにを言いたいので?」


 終始舐め口調の女軍人。そんな彼女の言葉で会話が一度途切れる。ラダは何も言わずちらりとセッキの方を見た。


「?」


 沈黙し謎の行動をするラダに釣られて、女軍人も訳も分からぬままにセッキの方を見た。そこには相変わらずに、ふらふらボロボロのセッキがなにも言わず、なんの動きもないまま、彼女の方を向いて、臨戦態勢を維持していた。


 しかし、今すぐ動く気配はない。なんなら少し小突けば倒れそうな勢いだ。

ラダはそんなセッキを見て口角を上げた。


 一方の女軍人は死に体の彼よりも、今気になるのはラダの言葉、その続きだった。


「……で、結局伝えたいことはなんだったんすか」


 女軍人は視線をラダに戻して、舐め口調で聞き直す。そしてラダは口角をさらに上げて


「ああ。コイツはツエーからキヲツケろってイいたかったんダ」


「え、それだけっすか?」


「ああ」


「……」


 女軍人は思っていた言葉から大きく外れたことを言われて思わず絶句してしまった。


 そんな彼女はさておき、ラダは再びセッキの方を見た。光が先ほどよりも濃い。長い言葉は伝えられない。ラダは手短に伝えたいことだけ伝えようとした。


「セッキ‼」


 大声で叫ぶ。これから送還される者とは思えぬほどの元気な声が建物内に響いた。あまりのでかさに女軍人は耳を塞いでいる。しかし、ラダはお構いなしに続けた。


「キこえていないだろうが、コレだけはイってオク‼」


 そう言うと、ラダは一呼吸おいて、静かに優しく


「マけるなヨ」


 と、だけ言い残して光の中へと消えた。


 時間が経つと光さえも消えて、完全にラダの姿は見えなくなった。そして、その場に残された二つの人影。


「……なんだったんすか、一体。結局大したことはなんにも分かんなかったすね。黙って待ってたうちが馬鹿みたいっす」


 二つの内、人影の一つが文句を垂れる。その人物とは当然、女軍人。セッキは微動だにしない。


「さて、」


 女軍人はゆっくりと足を動かし始めた。向かう先には佇むセッキ。


「こんなボロボロのヒトに一体なにができるっていうんすか。さっきから全然動かないし、送還されてもおかしくないっすよ」


 悪口が次から次へと漏れ出る。女軍人は不満を口にしながらセッキへと近付いて行った。ぶつぶつと小言を言いながらも足を止めない。目前にまで迫ると思いきや、ある程度の距離まで近づくと、その足を止めた。


 いくら態度や口調が悪いと言ってもおつむが悪いわけではない。不意打ちで放った一撃を、このボロボロの男が避けたことを、しっかりと覚えていた。


「これだけ近づけば問題ないっすよね」


 だが覚えていただけ。そこまで頭は強くない様子。先ほどの一撃は遠い所から撃った結果外れた。彼女が出した結論はそれであった。


 そして彼女が取った行動がこれ。避けられないギリギリの距離まで近づいて、銃を撃つというもの。女軍人は持っていた銃を構え、照準をセッキの心臓に合わせた。


「さっさと終わらせて次の作戦に移るっす」


 一言残して、準備を行う。両手で銃を持って、片手は銃筒、片手は引き金に。片目をつぶって狙いは完璧。あとは指を動かすだけ。


 そして女軍人はぐっと構えて、引き金に指を掛けた。




『セッキ‼』


『負けるなよ』


 そんな言葉が聞こえた気がする。耳鳴りがして、相変わらずうるせぇが、誰かが確かにそう言った。


 ていうか、俺は今何をしているんだったか。体は熱いままだ。腕の感覚も足の感触も傷の痛みも何も感じねぇのにそれだけは分かる。


 あ、あとあれだ。とにかく勝つんだった。勝つ。勝つ? なにに? というか、誰に?


 えーっと、なんだっけか。ここまで本気で戦った理由。いや、相手。確か、体がでかくて、声もでかくて、棍棒を持ってたっけか。そんで、


 熱い男だった気がする。そんでもって名前はラダだ。


 そうだ。そんな奴と戦っていた。 ……いた? なんで過去形だ? ラダとの戦いは終わったっけか。なら、どっちが勝った? 俺はどうなった? いや、ちょっと待て。


 『負けんなよ』……?


 ああ、そうか。そういうことか。あいつからのエールか。勝った俺へのメッセージか。恰好付けやがって。けっ、なにが「負けんなよ」だ。


 俺が負けるわけねぇだろうが。相手が誰だか知らねぇがやってやるよ。




 ぜってぇ勝つ。



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