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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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サイドストーリー)セッキVS 決着……?

 そこからのことを形容するには「派手」。この言葉が一番しっくりくる。


 セッキは彼の心情通り、拳を盛大に振り回し、フェイントを掛けることでラダを翻弄。時には豪快な蹴りを炸裂させ、極めつけは鋭く尖った歯で噛みついた。


 一方のラダは激しさの増すセッキの猛攻に仁王立ちを決め込むことができなくなり、とうとう足も動かすようになっていた。棍棒をぶん回し、相手を吹き飛ばしても追撃を行う。無論、セッキも負けじと突進してくる。ボロボロの彼を見ても驚かず、迷わず、ただ一心に棍棒を叩きつける。


 スピードもパワーも上回り、怪我の度合いもまだラダの方が軽い。これだけ見ると、ラダの勝ちは揺るがないものに捉えられる。セッキの攻撃も喰らいはするものの、未だこちらから負わせる傷の方が多かった。


 しかし、セッキの傷が増える度に、彼のステータスは何もかも向上していった。スピード、パワー、怪我の度合い、果ては相手に負わせる傷の数まで、全てが増えていく。


 二人のこの差はどんどん埋まっていった。


 結果、ラダの傷跡も増えていった。


(ナンだ、コイツは⁉ オレがコウゲキするタビにツヨくなってイク。タタカイがハジマッたトキにあったサ(差)はほとんどナイ。コイツのノウリョクか? サッキ、アクマとイッテいたコトとカンケイがアルのカ?)


 自身の負う傷が増えるにつれて、いよいよ焦りも見え始める。それゆえに出る、思考。セッキの奮闘がここにきてまた、不要だった「思考」を拾わせることに成功したのだ。


 結果生まれた一瞬の隙。今のセッキにとってはそれで充分。狙ったか偶然かは分からないが、セッキは的確にその隙を突いた。


「しまっ」


「うおおおおおぉぉぉぉぉ‼」


 不意を突かれ咄嗟の対応ができなかったラダに対し、セッキは雄叫びを上げて顔面に拳を喰らわせた。


「グォォォォォ‼」


 勢いの乗った拳をもろに喰らって、初めて吹き飛ばされ、初めて倒れ込んだ。


 それを見て、いや、指で感じ取ったセッキであったが、その表情は明るくない。肩で息をして、腕をぶら下げて、もうほとんど見えない眼でラダらしきものを見据えるのみ。


 歓喜しないのはその元気がないからではなく、これで終わりではないことを知っていたからだ。


 そしてセッキの読み通り、ラダは舞った埃の中からゆっくりと立ち上がった。すぐに立って見せた様子から、ラダがまだまだ戦える状態であることが窺えた。


「ゴホッ!」


 強烈な一撃を喰らってもふらつくことなく立ち上がったラダ。何事もなかったような素振りを見せたが、咳き込んで血を吐き出した。一見余裕そうに見えていても、これまで蓄積させたセッキの攻撃、そして、先ほどの拳は間違いなく彼の中にあり、体に響いていたのだ。


 これで両者は五分に立たされたといっても良いだろう。


 体はとうにボロボロ、息はずっと絶え絶えのセッキ。だが体の状態と反して、動きは最高潮に達している。


 傷こそ少ないが、セッキの打たれ強さと気魄に少々気圧されたラダ。だがそのスピード、パワーは未だ健在。


 両者は間を空け相手を睨む。だがそんなものはとうに不要。すぐさま二人は飛び出した。


「派手」。その言葉は終盤に掛かっても色あせない。寧ろその言葉は彩を見せる。セッキは言わずもがな、ここにきてラダの動きにもキレが増したのだ。彼もこれが最後であることを理解しているのだ。


 セッキとの戦いに勝つことができれば、次の戦場に赴くことができるだろう。まだ見ぬ新たな敵とまた戦うことになるのだろう。


 だがそんなことは知ったことではない。負ければ全てが終わる。次の戦いに進むことができない。いや、それ以上に、これほどまでの強敵を前にして全力を出さないのはあまりにも無礼である。そんな思いが彼の力を引き出したのだ。


「おおおおおぉぉぉぉぉ‼」


 セッキは咆える。己を奮い立たせるため。足を一歩前に出して地を踏みしめるため。目の前の強敵に勝つため。


「ガァァァァァ‼」


 ラダは咆える。己を奮い立たせるため。武器をしっかりと握りしめて相手に振り下ろすため。目の前の強敵に勝つため。


「おおおおおぉぉぉぉぉ‼」


「ガァァァァァ‼」


 両者は咆える。己を奮い立たせるため。全力を尽くすため。力を振り絞るため。気力で負けないため。


 目の前の強敵に勝つため。


「おらぁ‼」


 セッキの拳が相手の顔にまたも入る。その攻撃にラダは鈍い声を上げて血を流すも、足腰で踏ん張りをきかせ、吹っ飛ぶ・倒れ込むことは避けた。


「フンッ‼」


 ラダの棍棒がセッキの顔に入る。その攻撃にセッキは鈍い声を上げて血を流すも、気力で持ちこたえて、気絶することを免れた。


「おらぁぁ‼」


 今度はセッキの蹴りがラダのわき腹に炸裂する。その攻撃にラダはまたも鈍い声と流血、そして足腰で踏ん張り耐えた。


「フンッッ‼」


 ラダの棍棒がセッキのわき腹に入る。その攻撃にセッキは流血とゴキゴキという鈍い音を胸で奏でて吹き飛んだ。が、すぐに体勢を立て直し、ラダに向かって突っ込んだ。


「おらぁぁぁ‼」


「フンッッッ‼」


 セッキの攻撃がラダに当たり、ラダが踏ん張る。ラダの攻撃がセッキに当たり、セッキが踏ん張る。セッキが攻撃、ラダが踏ん張る。ラダが攻撃、セッキが踏ん張る。


 セッキが、ラダが。セッキが、ラダが。セッキが、ラダが。セッキが、ラダが。


 そして、




「…………ミゴトだ」


 そう言ってラダは倒れ込んだ。でかい図体が固く冷たいコンクリートの上に敷かれる。熱く火照った体にはその冷たさが心地よく、倒れたにも関わらずその表情は穏やかなものだった。ただ欠点があるとするならば、休むには固すぎることのみ。


「マサカあのジョウキョウからギャクテンしてみせるとは、オソレいった。トチュウでオマエのキリョクにケオサレタコトがハイインか」


 ラダは一人呟く。セッキを褒める言葉に続いて、己の反省点も述べる。不平・不満などは一切なく、重低音の声が心地よい。先ほどの怒号はどこへやら。


 ラダが言葉を発するも、セッキからの反応がない。独り言のように話したことも問題ではあろうが、どうやらそれだけが原因ではないように思えた。疑問に思って、ラダは寝ころんだまま顔をセッキの方へと向けた。


 この戦いの勝者セッキは、動かずにその場で突っ立っていた。ただじっとその場から動かず、腰を落とし、拳を前に掲げ、臨戦態勢を取っていた。セッキは未だ戦っていたのである。


 腕を上げるのもギリギリの状態で、ほとんど見えていない眼で、頭から血を大量に流した状態で、立っているのもやっとの体で、セッキはまだ戦おうというのだ。


「ふっ、ハハハハハハハハハ!」


 それを見たラダは大きな笑い声をあげる。その馬鹿みたいにでかい声でもセッキは反応を示さない。既に耳も機能していないのだ。


「ナルホド。タシカニオレがマけるワケだ! こんなにナッテもマダタタカおうとしている。オレよりもボロボロのカラダでタっている。パワーやスピードでカっていても、キリョクでアットウテキにマけていたワケだ!」


 嬉しそうにラダは語る。セッキのその姿を見て、感服せずにはいられなかった。それと同時に心の底から思った。


(完敗だ)


 ラダは嬉しそうに心の中で思った。そして。その時が訪れる。ラダの体が黄金色の光に包まれ始めたのだ。


 そのことに気が付くと、ラダはもう一度セッキの方を見た。だが、こちらは光に包まれる様子はない。相変わらずに動かずじっとしているままだった。


(やはり、ソウカン? とやらをサレルのはオレだけか。ダガそのケッテイにフマンはない)


 傍から見ると、少し休めば動けそうなラダに対して、セッキはもう動けそうにはない。二人の状態から送還されるのはセッキの方であるべきだった。しかし、ラダはその結果に納得していた。勝者は残り、敗者は去る。自然の摂理、当然の帰結である。


 一人その結末に納得している間も、黄金色はだんだん濃くなっていく。いよいよ送還の時が近いことを悟った。ラダは最後に聞こえていないだろうが、言葉だけでも残そうと思った。


「セッキよ。キこえていないだろうがキケ! コレまで、オマエとのタタカいホドタカブッタコトはなかった。だからカンシャする! オレとタタカってくれたコトに。そして……」


 ラダがそこまで言うと、突如として銃声音が鳴り響いた。


「‼」


 ラダは驚きの反応を示す。この音の正体など、文明が発達していない惑星出身のラダが知る由もなかった。しかし、音にも反応したが、動かない体は別の反応を示していた。


 ラダはこの感覚の正体を知っている。それは敵を前にしたときと同じ、セッキを前にした時と同じものだった。


 しかし、セッキには敗れ既にその感覚はない。ここでその感覚が反応しているということは、新たな敵の出現。そこから察するに先ほどの奇怪な音は敵の攻撃であることが考えられる。


 ラダは動かない体で、目を動かして辺りを見回した。そこで一つの違和感に気付く。セッキだ。彼の体勢は先ほどと変わらない。体はボロボロ、足はふらふら、拳を前に掲げ臨戦態勢を取ったままである。

だが、その位置と向きが違う気がしたのだ。位置は少しずれて、向きは逆方向だった気がする。その違和感は次の瞬間、確信に変わった。


「うそ⁉ 今の、避けるんすか⁉」


 どこからともなく声が聞こえる。ラダはすぐに声のした方向へと顔を向けた。すると、柱の陰から人影がゆっくりと姿を現す。


「オマエは……」


 出てきたのは銃を携えた軍兵。リープ軍の女軍人。つまり、敵である。


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