サイドストーリー)セッキの葛藤
体が熱い。息が苦しい。今にもぶっ倒れそうだ。目の前に真っ白のベッドを用意されたら、秒で寝れる自信がある。
だが、倒れない。倒れられない。倒れちゃいけねぇ。目の前には敵。強敵。ライバルが居る。気を抜いた瞬間にやられる。そんなもん考えずとも感覚で分かる。一秒でも、一瞬でも手を抜けば、脱力すれば負けが確定する。だから休めない。気を抜けない。
「はぁはぁ。うらぁぁぁ‼」
また攻撃を当てられずに吹き飛ばされた。これで何度目だ。一度も有効打を決めることができずに、億劫になる。弱気な自分を奮い立たせるために、血の混じった唾液を飛ばしながら咆えた。
だがそんな気力だけでこの力の差は覆せない。このデカブツは安々と攻撃を捌いてきやがる。これでも考えて攻撃してるつもりなんだが。この二撃はフェイク。三つめが本命。あ、また受け止めやがった。なら、スピードで翻弄する。ダメだ、ちゃんとついてきやがる。ならば次はこれだ。 ……これも無理。なら次だ。
攻撃がほとんど当たらねぇ。当たっても簡単に防がれる。悪魔の馬鹿力を手に入れてもこれかよ。やっぱ、筋力増加だけじゃ太刀打ちできねぇのか? いや、弱気になるな。
体がどんどん熱くなる。腕も重い。こっちの攻撃は当たんねぇくせに、あいつは当ててきやがる。それに一つ一つがちゃんと重ぇ。
「フンッ‼」
掛け声に合わせて棍棒を振り回してやがる。さっきまでそんなことしてなかったのにな。それだけ真剣になったってことか。だがこんなにも攻撃が重くなるんなら、そうさせたのは失敗だったか。今の顔に食らった一撃は痛ぇ。意識が吹っ飛びそうだ。だが体が、心が、倒れるのを許してくれねぇ。休ませてくれねぇ。
……つーか、なんで俺はこんなことしてんだ。元々社会の爪弾き野郎だったんだ。そんな俺に、ゼウスの奴が頼んで来ただけじゃねぇか。地球を救うために力を貸してくれって。俺の力が必要だって。
ハッ、こんな俺の力が必要だと? 地球を救ってくれって? だって、そりゃあ、そんなもん
クソかっけぇじゃねえか。
そんで、一度受けた頼み事をほっぽり出すのはクソだっせぇ。
「おらぁ‼」
重くだるい腕。全然力が入んねぇが、今の一撃はどの攻撃よりも手応えがあった。その証拠に棍棒を弾いたし、
「⁉」
こいつの驚いた顔がそれを物語ってやがる! そのまま、空いた腹に拳を叩きこむ!
……そう思っていたが、やっぱそう上手くはいかねぇ。驚いたのは一瞬だけで、すぐに対応してきやがった。そしてまた吹っ飛ばされる。
同じことの繰り返し。終わりの見えない道をずっと歩かされている感じだ。だが、どうしてこうも、体は熱い。燃えるように熱い。どうしてこうも、攻撃は鋭くなる。重くなる。なぜこうも、
高まる。
「ッ‼」
ラダの動きも段々派手になってきた。こっちの攻撃の手数が増すにつれて、あっちの動きの数も増えてやがる。こっちの攻撃の威力が増すに連れて、あっちの動きにも鋭さが増した。
なら、続けることは正しい。諦めないことが正解だ。つーかもう、限界っつう思考より優先して体の方が止まらねぇ!
「グッ、エエェェイ‼」
いよいよ咆えやがった。それに合わせて勢いに乗った攻撃が襲ってきた。今までで一番鋭く、破壊力のある棍棒が眼前にきて瞬時に悟る。これは避けらんねぇ。
次の瞬間、めちゃくちゃ重たい力が顔に圧し掛かった。メキメキいってる。いや、そんなことよりも、意識が遠のく。体がふわふわしてる。ああ、今吹き飛ばされてんのか。妙にゆっくりに感じるな。
と、思ってたら、今度は背中に痺れる衝撃。感覚的に壁にぶつかったな。だがその感覚もすぐに終わった。これまた感覚だが、若干壁にめり込んだ。思考は逆にはっきりしたな。目のぼやけが前後左右を錯覚させたのか。今、俺はどっちを向いている?
「⁉ コレでもマダたつか!」
耳もずーとキーンて鳴ってやがる。だが今、ラダの奴がなんか言ってやがったな。たつ…… 立つ? 俺は今、立ってんのか? 顔を下に向ける。あ、確かに立ってるな。目がぼやけててもそれくらいは分かる。なんだ。やっぱ体は諦めてねぇじゃねぇか。
ならやることは一つだな。
「らぁぁぁぁぁ‼」
ラダに向かって突撃。足を前に踏み込み、コンクリートを蹴り上げる。一歩一歩、太ももを持ち上げて進んでいく。ぼやけた視界でラダを間近で捉えた。動きさえも低フレームみたく見えるが、今までよりずっと分かる。相手の動き。感覚が鋭くなってやがる。だからこそ分かる。
スピードはまだ相手の方が上だ。いくら感覚が鋭くなって、動きにキレが増したとしても、もともとのスペックが違う。俺の今の成長だけじゃこの差は拭えない。
なら、拭うな。速度で張り合うな。そこで負けているならテクニックで補え。足りないのならもっと体を動かせ。この体の熱を細胞一つ一つに伝わるほど上げろ。
とにかく、勝て‼
「ガァァァァァ‼」
あいつもさらに咆えた。いよいよ全力か。全力の中の全力。スピードとパワーが最高潮だ。だが、分かる。動きを追える。喰らい付いていけてる。
あっちも最高潮だろうが、こっちは最最最高潮なんだよ‼
「らぁぁぁぁぁ‼」
「ガァァァァァ‼」
声のでかさは五分。だが、気力なら勝ってる‼ 相手の気力がどのくらいのもんか知らんが、絶対そうだ!
なら後は、拳を振るえ! フェイントを掛けろ! 蹴りを入れろ! 噛みつけ!
んでもってもう一回言うぞセッキ。
とにかく勝ちやがれ‼




