サイドストーリー)セッキVS
ドカーン、ドーン。破裂するような轟音が無人の街に響き渡る。音は激しさを増すばかりだが、その音はとある建物から鳴り響いていた。また、その音のでかさと対比して、建物の崩壊音は少ない。物事は朽ち果てた古臭いビルの中で起こっていた。
「はぁはぁ、おらぁ!」
建物の中で動き回る影が二つ。一つは息を切らしながらも、雄叫びを上げながら別の影へと迫る。
「……」
もう一つは迫りくる影をその場から動かず待ち構えていた。こちらは息を切らさず、ただ己の武器を向かってくる陰に振り下ろす。
二つの影が近づくと、そこで激しい攻防が繰り広げられる。しかし、その後すぐに小さい方の影が後方へと吹き飛ばされ、再び元の位置へと戻る。
二人はこのやりとりを戦闘開始から何十回と繰り返していた。
小さい影と比べて一回り大きい者の正体はオーク、そして、小さい方は言うまでもなくセッキである。
「はぁはぁ」
「……」
両者はにらみ合う。一方は両拳を前にボクサーの構え。汗を大量にかいて、肩で息をする。頭からは汗とは異なる赤く染まった液体が流れ出ていた。
もう一方は棍棒を片手に仁王立ち。息を切らさず、汗もかかず、血も流していない。
両者の力量の差はその状態だけで一目瞭然だった。
「っ、があああ!」
セッキが吠えて迫る。どかどかと足音を立てて、オークへと飛び掛かった。勢いは十分。
が、結果は同じ。オークは淡々と棍棒を振り回し、セッキにぶつける。セッキは避けて、避けて、攻撃を繰り出す。それでもオークには届かない。攻撃が当たる直前で防御され、すぐさまカウンター。セッキは後方へと飛ばされまたも同じ位置へ。
「はぁはぁ」
息絶え絶えに、拳を構える。勝ち目がないように見える。しかし、セッキの目は死んでいない。それは彼の前に立ちはだかるオークが一番感じ取っていた。
「……ナゼだ」
オークは戦いが始まって初めて、言葉を口にした。戦闘開始以降、言葉を述べなかった両者。不要だと思い扱わなかったそれを、オークは使用したのだ。
「ナゼ、オマエはタちムかう」
そうさせたのは諦めようとしない目の前の敵。力の差は絶対。実力差は絶望的だ。繰り出される攻撃を、それ以上の攻撃で叩き潰した。何度も挑んでくる相手に、何度も分からせた。だがそれでも
彼は挑んでくる。
「ココまででワカッタだろう。オレのホウがツヨい。ソのサをクツガエせないホドに。それともソレがワカラナイほどバカなのか」
オークがそれを口にしたのは単純な疑問と、ほんの少しの恐怖。何度も何度も立ち上がるその姿を見て、不気味な魔の者と重なって見えた。
「じゃあ聞くが、お前が同じ立場なら諦めんのかよ」
息を切らしながらセッキは答える。臨戦態勢は崩さず、その目はオークから反らさない。
「イヤ、アキラめない。『オレ』ならばソのようなコトはしない。ダガ、イマまでタタカってきたモノたちは、チカラのサがワかればスグにコウフクしてきた。アキラめた」
「オレ」という言葉を強調してオークは述べる。そのように答えたのは戦士の性から来るものなのだろう。オークが聞きたいのはそこではない。なぜ、「彼」は諦めないのか。質問の本質はそれであった。
「ダガ、オマエはタちムかってキた。アキラめず、タオれず、コウゲキしてきた。ナゼ、『オマエ』はアキラめない」
「はぁ? んなもん……」
セッキはそう言うと一呼吸おいて、静かに笑った。
「だっせぇからに決まってんだろうが」
「!」
オークはその言葉に心打たれた。理由としては浅い。仲間を助ける、惑星を救う。そのような立派な解答ではなかった。だがそこに、彼の本質を見た。
彼はこういう男なのだ。己の芯を持っている。誇りのために戦っているのだ。芯のある目の前の男は話を続けた。
「一度挑んだ相手に、敵わねぇからしっぽ巻いて逃げるとか、くそだせぇじゃねぇか。相手が自分よりも強かろうが関係ねぇ。一度始めたことは最後までやり通す。決めたことは貫き通す。それが男ってもんだろうが」
男女平等のスローガンが掲げられるこの時代に、セッキは男を言った。漢を見せた。その言葉だけでオークに伝えるには十分だった。
「スマン。くだらないシツモンだったな」
オークは恥じた。愚かな質問をした自分を。そして、自分よりも弱いからと彼を舐めていたことを。
「全くだ。さっさと続きをやるぞ」
セッキは口は悪くも全く気にしていない素振りを見せる。その様子を見て、オークの後悔はさらに深まった。
「そのマエにヒトツ、キかせてくれ」
「あ?」
「オマエのナマエだ」
「!」
自己紹介。そんなものはこの場においては不要なものだ。ものだった。しかし、オークは彼の姿を見て、必要なものだと再認識した。この後も戦う彼の名を知らぬのは口惜しい。「彼」という存在と全力で戦いたい。そう思ったのだ。
「……あぁいーぜ。しっかりと耳に入れて、この名を心に刻め!」
セッキは再び一呼吸。さっきよりも深い。そして、飛び出しそうな勢いで言葉を発した。
「俺様の名前はセッキ! 地球からの代表者にして、その身に悪魔を宿す者! そして!」
そこまで言うと、オークを指差し
「てめぇを倒す人間だ!」
決め台詞で締めた。
オークはその言葉を聞いて、怒るでもなく準備を始めた。そして間もなく、武器を床に突きつけて口を開いた。
「ワがナはラダ! セスでウまれソダったホコりタカきセンシ! そして!」
オークもセッキ同様に一瞬間を置き、その間にセッキに指を差した。
「オマエをタオすモノだ!」
その言葉を聞いて、セッキは顔に笑みを浮かべる。オークも同様に口角を上げた。二人はこの時、ようやく敵を見定めたのだ。最初こそ強い者、という認識だったが、今はそうではない。その認識は改められ、真剣に望むべき好敵手となった。
両者は再び、なんの合図も示さず、同時に相手の下へと飛び込んだ。




