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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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決意の言葉

 その矢先、体が温かくなるのを感じた。先ほどまで威勢を放っていたのだから興奮で熱が溜まっていたのかと言われればそうではない。温和な光に包まれるような、そんな感覚。


「……え?」


 不思議に思って目を開ける。温かみの出所を探る。背中側? どうやらこの熱は背中から来ているらしい。体は相変わらず動かない。首と目線をなんとか動かして、寝たまま背中の様子を確認した。そこには白く輝く手があった。


 手の先を辿ると、そこには先ほどまで戦っていた男の姿があった。男は横にしゃがみこんで背中に手を翳し、なにかを行っていた。熱の正体は彼の物だと、それを見ればすぐに分かった。その光景を見て驚くことしかできない。今まで出会ってきた男と違う行動パターンに頭が混乱した。そのおかげか先ほどのパニックは完全に消えた。


「……なにを……している?」


 咄嗟に出た言葉。驚きのせいか片言になってしまった。そんなことはどうでも良く、それよりもなんで

「そのようなこと」を聞いてしまったのか。体の熱と共に痛みが消えていくのを感じる。その事実だけで彼がなにをしてくれているかということは分かっているのに。


「……」


 黙って作業を続ける少年。集中しているのだろうか? 邪魔しては悪いと思って、顔を背けて体を彼に委ねた。どうせ動けないのだからと、熱の心地よさに促され、仲間以外に身を預けた。そういえば仲間以外でこれほど安心できる者はいなかったな。


 黙々と作業を続ける少年こと空。手を相手の背中に翳し、天使のエネルギーを彼女に流す。人に直接エネルギーを流し込むことは初めての試みだったが、やるしかない。彼女も既に空のことを信頼して、顔を背けている。天使のエネルギー特性で彼女を治癒させるために動いた。


「よろしいのですか、空」


 集中して作業に没頭していると、ギハンの声が頭に響いた。


「相手は敵ですよ。回復した瞬間に襲ってくるとも限りません。それに戦いは始まったばかり。ここでエネルギーを無駄に消耗するのはあまり得策ではないかと」


 ギハンは冷静に話を進める。確かにギハンの話は合理的だ。普通に考えればそうだ。ここまでして彼女を助ける義理はない。それにリギラに言われた通り、両者死力を尽くして戦ったゆえにラキアから責められたり嫌われたりすることもないだろう。


 しかし、体は自然と倒れた彼女の下へと向かって、手を伸ばしていた。もし、倒れていた者が他の惑星の者なら助けなかったかもしれない。そんな邪念も頭に浮かんだが、今は彼女を助けることを最優先に動いた。


 そんな空を見てギハンは追加で言葉を並べた。


「それに、控室に強制送還された人は、ゼウス様が傷を治してくださるはずですよ」


「! ……」


 ギハンの言葉が刺さったのか、空は少しばかり反応する。ゼウスは確かにそのようなことを言っていた。そして、そのことを今の今まで忘れていたからだ。


「……今、『そういえばそうだ』、みたいな反応をしませんでしたか?」


「……」


 ギハンの言葉に沈黙で返す。そんなことはない、しっかりと覚えていたというような毅然とした態度を振舞う。そんなことは百も承知で彼女を助けているという思いで、治癒を続けた。


(空ってこれほどバカでしたっけ)


 当然、ギハンは空の反応を見て、忘れていたことなど気が付いていた。今までと明らかに態度が違うことに、一抹の不安を覚えながらも、先ほど繰り広げた素晴らしい戦いっぷりを見て今は置いておくことにした。


 そうこうやりとりを行っている内に、彼女の傷は動けるくらいには回復した。その光景を見て、初めて行った他人の治癒の成功をひとまず安心した。続けて治癒を行おうとした時、


「すまない。もう大丈夫だ」


 治癒を抑止する彼女の声が聞こえた。彼女の言葉に従ってエネルギーを送ることを終えて、手を翳すこともやめた。


 動けるようになった彼女は、背中の熱が引いていくのを感じ取ると、ゆっくりと上体を起こして空の前に座った。両者は向き合うように地面に腰を据えた。


「……」


「……」


 二人は何も話さない。先ほどまで激しくやり合っていた両者は見る影もなく大人しい。一時は怒号を放っていた彼女も、終始何も話さない少年も、ただただ前に居る者を見つめた。一方はなにを話せばよいか分からないと戸惑った顔で。一方は無表情で。


「……なぜ」


 沈黙が続く中、その空気を切り裂いたのは彼女だった。彼女から出た最初の言葉はたった二文字。彼女自身まだ戸惑っているようで、なにを話せばよいか分からない、聞きたいことはいくつかあるが上手く言語化できない、そのように感じられた。


 それでも口を開いたのは沈黙に耐えられなかったためか、それとも今すぐに聞きたいこと、あるいは伝えたかったことがあるためか。


 空は次に続く言葉を待った。


「なぜ、私を助けた。いや、違うか。なぜ、私を回復させた。あのまま放っておけば私は強制送還され、お前はそのまま勝っていたはずだ。それでも私を助けたのはなぜだ。私を助けることでなにかメリットがあったのか」


 彼女は疑問をぶつける。「なぜ」という言葉を多用するほど、彼女にとっては本当に疑問に思ったことなのだろう。もしくは不安に思っているか。


 彼女の過去になにが起こったかを空は知らない。彼女にとって見返りもなく助けられることなどありえないことなのだ。これからどのようなことを要求されるのか、という不安もきっとあるのだろう。


 確かにこの時の彼女は不安を抱いていた。しかし、少しばかりだ。助けてもらった恩、回復された時の温かさ、これらの余熱に絆されて空に対する警戒心は薄れ、他の惑星の者の中では初めて信用できる人物に成り上がっていたのだ。ただ、彼女の過去を考えれば、完全に信用を置くことは難しく、それゆえの「少しの不安」だったのだ。


 一方、疑問を投げられた空は答えられないでいた。理由は単純、「不純」だからだ。体が勝手に動いたといえばそれまでだが、助けた理由、その根本にあるのはラキアの存在。傷つけてしまった分、挽回するための治癒作業。彼女を助けたかったのか、と問われれば、正々堂々胸を張って「はい」と言える自信がなかった。


 事実、彼女を助けこそしたが、戦っている途中も治癒している最中も、目の前の彼女に特別な思いや感情を抱くことはなかったのだ。ラキアのように。


 結局、助けたい、嫌われたくないのはラキア一人。


 これは彼女が心底嫌う異性がらみの感情なのかもしれない。そのことが伝われば彼女は自分のことを嫌ってラキアに報告するかもしれない。そうなればラキアの敵に回ってしまうかもしれない。そんな考えが頭に廻ったのだ。それゆえの沈黙だったのだ。


 ただ単純に自分の意思を無下にしたための行動が再び出ただけとも取れるが。むしろ、そちらの方が理由としては強い。


 空は彼女の方をちらりと見た。彼女はこちらの様子を伺っている。答えを待っている表情だ。いつもなら相手が察してそのまま会話が流れるか、中に居る誰かが会話を繋げてくれる。しかし、今回ばかりはそうもいかないらしい。彼女の方から話題を反らす素振りは一切見られず、また、彼女はこちらの種族たちを見ることはできないし声を聞くこともできない。


 空の方から話を続けなければいけなかった。


「体が、勝手に動いた」


 嘘ではない。それは確かに事実に基づいている。彼女を助けた本当の理由ではないが、それは紛れもない事実なのだ。


「? それだけか?」


 納得がいかなかったのか、さらなる疑問を空に投げる。


 これ以上は言えない、と空は小さく首を縦に振った。


「そうか。なんにせよ助けてもらったのは事実だ。礼を言う」


 そう言うと、座ったまま深々と頭を下げた。


 頭を下げたことで見えた彼女の頭頂部を空は黙って見ていた。


「回復してもらったところで申し訳ないのだが、私は棄権しようと思う」


 顔を上げた彼女は唐突に話を別の方向へと持っていった。が、それでも空の表情は崩れることなく、彼女の話に耳を傾けていた。


「動けるほどに回復したとはいえ万全ではない。これからの戦いはさらに熾烈を極めるだろう。そんな場所に今の状態で赴いても勝ち抜くことはきっとできない」


 彼女の言い分は尤もだ。ゼウスから、空は地球軍の中で最も弱いと明言されている。そんな者と戦って負けたのだ。今後の戦いで勝ち残るほどこの戦いは甘くはないだろう。彼女もそれを分かっているのだ。


 彼女は真面目な顔で話を続けた。


「それに私はお前に負けたんだ。正々堂々戦って、な。お互いに大事なもののために戦って、決着が付いた。敗者は潔く去るさ。それが戦士の矜持というものだ」


 清々しく晴れやかな表情だ。負けはしたが悔いはないというような顔。心残りはあるがやりきったという顔だ。


「だがやはり、吉報を待つ故郷の者たちには申し訳が立たないな」


 一拍置いて、心残りである残してきた故郷の者たちを思い憂う。どこが寂し気だが、それでも満足感が消えることはなかった。


「あぁ、すまない。辛気臭い話をするつもりはなかったんだ」


 何も話さずに黙ってこちらの話を聞く相手に気が付いて、フォローを入れる。せっかく勝ったのに、ここで暗い表情にさせるのは気が引ける。


 相手の顔をちらりと見る。無表情だが、良い目をしている。目的・信念、そういった揺るがないものが宿っているように見えた。


 だからこそ、その無表情が際立って見えるのだ。感情の変化が見えない。なにを考えているか分からない。暗い表情にさせまいと思っていたが、そんな心配も杞憂に終わりそうだった。


「そういえば、私の矢を喰らっても動けたのはなぜだ? てっきり動けないと油断したからこそ、私は負けたのだ。その理由はぜひ知りたい」


 急に話題を変えたのは、相手の無反応が作り出す空気に耐えられなかったからではない。単純に回復のことで今まで忘れていただけである。そして、思い出したからには催眠の効果が効かなかった理由を知りたい。シンプルな疑問から出た言葉なのだ。


 空はこの質問にも答えることができなかった。今回、答えられなかった理由もちゃんと存在する。他人思考主義の発動もそうだが、今回答えなかった最大の理由は手の内を明かすことによる不利益を被ることを避けたかったためである。


 彼女の言う通り、これからの戦いはますます熱を上げ、激しさを増していくだろう。その中で手の内を晒すという愚行は、敗北に限りなく近づける行為に等しい。彼女との一対一のバトルならば、決着を終えた今、話すこともやぶさかではないだろう。しかし、これはチーム戦。彼女以外にも挑むべき相手は多々存在する。


 空お得意の合理的思考の下での判断なのだ。


 また、動けた理由については、なんとなく予想が付いていた。天使のエネルギー特性。「聖」による症状の緩和、および回復。それが彼女の攻撃を喰らっても動くことのできた理由だろう。


 とはいうものの証拠があるわけではない。確信に近いものを抱いていたが、決定付ける証拠が無い。彼女に提示できるものが存在しないのだ。それも話さなかった理由の一つだ。


 空はその考察の末、辿り着いた結論がある。彼女たちの能力の強力さについて。彼女の能力は催眠だ。攻撃を当てた者の体の制御を奪い、自在に操るというものだろう。その能力を天使のエネルギーで掻き消した結果、動くことができたのだ。


 しかし、直撃した片腕はその限りではない。天使のエネルギーの効果で催眠の効果を無効化されど、その作用はそれ以上で動かすにまで至らなかったのだ。現に、その能力は今も響いて動かすことができないでいた。


 そんな強力な能力を持つ彼女が、今この場に居ること。それは決して軽視していい話などではないのだ。キユの話の通り、弱い者から出場するという作戦を他の惑星も実行していれば、彼女はセス軍の中で弱い者の部類に入るのだ。


 「これからの戦いは熾烈を極める」。何度も出てきたその言葉は確実に、重みを持って、信憑性を増したのだ。


「……まぁ、そう簡単に手の内を明かすわけはないな。お前の判断は正しいよ。私でもそうする」


 今度は返答を待たずして話を進めた。空が答えない様子を察して、そう結論付けたのだろう。諦めはしたものの、納得した表情を浮かべていた。


「さて。長話もなんだし、私はそろそろリタイアさせてもらうよ。今、こうしている間も仲間たちは戦っているだろうし、戦えない私がずっとここに残っているわけにもいかないからな」


 凛々しい顔つきでそう言うと、ふらふらと立ち上がった。回復して動くことはできようとも激しい運動をするには癒えていない。そんな風に見て取れた。


「……控室に戻るにはどうすればいいんだ?」


 立ち上がりはしたものの、どのようにすれば良いか分からない、といった表情。そればっかりは空も他の種族も知りようがなかった。


 しかし、彼女がそのように言葉を述べた次の瞬間、彼女の体が黄金色に輝き出した。その眩い光は前に空も味わったもの。転送される前に発生するあの現象と類似していた。


「ゼウスか」


 黄金色の光に包まれながら、確信めいたことをポツリと呟いた。一言呟いて、彼女は空の方に顔を向けると


「それじゃあ一旦ここでお別れだな。二回目になるが、お前と戦えて良かったと思っているよ。さっきと立場は逆転したがな」


 冗談を交えながら言葉を発した。


「最後に名前を聞かせてくれないか。申し訳ないが主要な者以外、名前を確認しなかったんだ」


 申し訳なさそうに言う彼女。その間にも彼女の体はどんどん光に包まれていく。

「……空」


 不愛想な返答になってしまった。しかし、返事をしただけ成長だろう。空は彼女の方に視線を向けた。彼女の顔には穏やかさが表れていた。


「そうか。では空よ。汝に女王様の思し召しがあらんことを祈る」


 彼女の国の送辞だろうか。祝言のようなものを賜った空。その祈りで強くなったわけではない。強力な装備を貰ったわけでもない。彼女なりの最大限の賛辞なのだろう。


 空はその言葉を表情を崩さずに受け取った。


「私の国に伝わる、武功者に送られる最大の誉め言葉だ。良かったら受け取ってくれ」


 付け加えるようにその言葉の意味を説明する。やはり、貰った言葉は誉め言葉だったのだ。


 彼女は空がそれを素直に受け取ると、安心したような表情を浮かべた。


「……できれば、お前には勝ち残ってほしいものだな」


 彼女は微笑みながら小さく呟いた。一つの戦いの中で彼女の空に対する評価はかなり高くなったようだ。少なくとも、二つの言葉がそれを物語っていた。


 そんな彼女に感化されたのか、空の口は自然と開いた。


「君たちは絶対に助ける」


 言わなくてもいい言葉。今までなら言わなかった言葉。相手はラキアではない。相手に何の感情も思いもない。祝言を貰っても何も揺らがない。これだけ彼女の声を聞いても何も感じなかった。


 が、しかし、それでも空はその言葉を口にした。それは、また思考が巡った結果ラキアを思ってのことなのかもしれない。他の誰かがここに居たらそう言うかもしれないという他人思考主義の結果なのかもしれない。


 だとしてもそれを言ったのは空だ。口にしたのは空なのだ。言わなくてもいいことを言ったのだ。それは紛れもないラキアと出会ったことによる影響だ。ラキアが空にもたらした影響だ。初めて空から口にした最初の言葉なのだ。


 空は少しずつ普通の人間に戻りつつあった。


 一方、空の言葉を聞いた彼女は何も言わなかった。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして、ただただ空のことを見ていた。


 助ける? 誰を? 私たちを? ……なぜ?


 言われたことのない言葉に疑問が頭の中を飛び交う。なぜ彼はそのようなことを言ったのか。なぜ私たちを助けようというのか。そもそも彼の言葉を信用して良いものなのだろうか。別の惑星の者にそんなことを言われたのは初めてだが、なにかの作戦だろうか。


 色んな考えが頭の中でごちゃ混ぜになり、パンクしそうになる。この場合、なんと返答すれば良いのだろうか。


 その答えは彼女の次の態度に表れた。


「なんだそれは」


 軽く「フッ」と笑った後に、彼女はそう言った。空の言動を嘲笑っているわけではない。ただ嬉しくて嬉しくて、その言葉が出たのだ。現に彼女の表情は笑っていた。


 可愛らしく、楽しそうに、無邪気に。どこにでもいる普通の女の子の顔だ。


 その顔を最後に彼女は完全に光に包まれ、その場から姿を消した。


 その場に居るのは空ただ一人。惑星代表争奪戦、空の最初の戦いは勝利を収めた。


「やったね空! 見事に勝ったね!」


 珍しく空気を読んでいたのか、これまで話さなかったリギラが空の勝利に喜びの声を上げた。喜ぶこと自体は恒例行事なのだが、その元気さがいつもより控えめな気がした。勝つことを疑っていなかったからなのか。それとも、これからの戦いを危惧しているのか。


 そんなリギラの声を頭に響かせながら、空は次の戦いの場に行くために立ち上がった。穴が開いた腕をぶら下げて、体に付いた誇りを払いながらゆっくりと足を伸ばした。遠くで爆発音や破壊音が鳴っている。おそらく今も誰かがどこかで戦っているのだろう。空はラキアのために次なる戦いの場に赴こうと足を踏み出そうとした。


「ちょっと待ってください」


 その一歩を、死神の声が阻んだ。


「動こうとしたところを遮ってしまって申し訳ありません。一つ、提案があるのです」


 ギハンは一言謝罪を入れると、次の話に入るための導入を作った。


「空、ひとまず休憩しませんか?」


 ギハンは軽く提案をする。そう「提案」なのだ。いつもなら空に指示していたギハンだったが、ここで空に確認を取ったのだ。リギラと同様に、ギハンもまた空の変化に影響され空への対応を変えたのだった。


「彼女との戦いで、このバトルロイヤルがどれほど厳しいものか理解できたでしょう。全快ののち、最初に戦った相手でさえ苦戦したのです。これからの戦い、万全を期さなくてはきっと勝ち残ることは難しくなるでしょう」


 ギハンは提案した理由を話した。一呼吸おいて、ギハンの話は続く。


「焦る気持ちは分かります。早く決着を付けて彼女を救いたいのでしょう。しかし、深手を負った今、その状態で戦いに行くことはリスクが高すぎます。自由に行動していいと言っておきながらなんですが、一度休憩しませんか」


 続いて諭すように話すギハン。ギハンもまた、この戦いが壮絶なものであることを改めて理解し、最大限警戒していたのだ。そして、空が勝つために最善の方法を模索していた。


 ギハンの言うことは尤もだ、今焦っても仕方がないと、空はギハンの提案を首を縦に振ることで承諾した。


 空の行動を見て、ギハンは胸をなでおろした。それと同時に空は腰を下ろした。特に疲れたわけでも満身創痍なわけでもないが、消費した分のエネルギーの生成と今なお動かない腕の回復のためにひとまず休むことにした。


 腕の傷は修復しつつあるものの、まだ動く気配を見せない。傷の手当てにエネルギーを回しているという点もあるが、やはり彼女の能力がそれほど強力だったということに他ならない。今後の戦いに備えて、周りを警戒しつつ体を休ませた。


「しっかし、お前の口から『絶対に助ける』、なーんて言葉が出てくるなんてなぁ」


 体は休ませていても、脳の方はそうもいかない。早速リエガがさっきのことで煽ってきたのだ。


「もうリエガ! 別にいいでしょ、そのくらい! 誰かを救うなんて立派じゃないか!」


 そしてリギラが絡む。こうしてまた、いつものように二人の言い争いが始まり、それを見てギハンがため息をつき、メイが笑うのだ。


 「絶対に助ける」。あの時の自分は確かにそう言った。なんであんなことを言ってしまったのか。なぜ彼女のことを今も考えてしまっているのか。さっき言った言葉も、彼女を思う気持ちもきっと他人の物に違いないのに。


 今だってそうだ。霧が晴れて冴えわたったこの思考でさえも誰かの物のはずなのに。こんなおかしな考えを抱くようになったのは彼女を見てからだ。やはり、原因は彼女にある。このようになった理由を彼女は知っているかもしれない。だから、


――早く会いたい。


 空は心の中で静かにそう思って、ゆっくりと瞼を閉じた。


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