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英雄  作者: ゲシンム
第二章 抗えぬ欲
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全知全能とオタクの神様

「始まったね」


 ゼウスは画面越しに彼らを見て、一人呟いた。馳せる思いは歓喜か、悲嘆か、切望か。ゼウスは画面に映った空をじっと見つめ、物思いにふける。


 場所はゼウス専用のルームスペース。オークたちの行く末を見送った彼は、すぐさまそこへと転移して、戦いが始まるのを一人待っていたのだ。


「さあ~始まりました! 惑星対抗バトルロイヤル! 実況は私、オタクの神様ことオタガミが担当させていただきます‼」


 考え事をしていた矢先、突如大きな声が横から聞こえ驚く。急いで顔を声のした方に振ると、なんと先ほどまで誰もいなかったその場所に、一人の男が座っていた。それに、目の前にはいつの間にやら実況用の機材が置かれていた。


 その者は派手なサングラスを頭に付けた、見るからにチャラそうな神? だった。オタクの神様と名乗るにはいささか陰キャラ成分が足りていない。そんな風に思わせるほど、オタガミは底抜けに明るかった。


「さて、解説のゼウスさん。既に何名かはマッチアップしたみたいですが、今後の展開はどのように予想していますか⁉」


 いきなりの無茶ぶり。容赦のない質問がゼウスに襲い掛かる。それにいつの間にか勝手に解説担当にされている。本当にこいつは一体何なんだ。


「え、ああ、そうだね。今対峙しているところを見ると、一カ所以外はどこも良い勝負になるんじゃないかな。けど、勝負はやってみないと分からないからね」


「なるほど…… これからの選手たちの活躍に期待、ということですね!」


 オタガミは綺麗に要約する。それにしてもこの男、話の流れの掴み方が上手い。そんなことに関心を抱いている間にも、オタガミのトークは続く。


「それでは、今回の戦いの中で、ゼウスさんが最も注目している選手は誰でしょう?」


「注目、か。それはやっぱりシヨクじゃないかな。今回参加しているメンバーの中で、彼は頭一つ抜けて強いからね」


 オタガミにつられて、だんだん気分が上がってきた。ノリノリで解説役をこなす。


「ただ、他の惑星のリーダーたちも気になるところではあるけどね。ラキアもキユも、実力だけなら指折りだよ。ネリムは…… 戦ってからのお楽しみかな」


「おっと。意味深な発言が出ましたね。それではやはり、彼らがこの戦いの主軸となってくるのでしょうか」


「さぁ、それはどうだろうね」


「へっ、」


「もしかしたら、僕たちの想像だにしないダークホースが眠っているかもしれないよ」


 ゼウスは再び画面に視線を戻し、そこに映った空を見た。しかし、オタガミは空を見ていることに気が付かなかった。


「それは確かに! 我々の予想を上回る結果を生み出す選手は、果たして現れるのでしょうか。これからの壮絶な戦いに注目が高まります」


 オタガミはいつの間にかあったマイクのスイッチを切った。カチッ、という音と共にゼウスはふと我に返った。


「いや~楽しみだね、バトルロイヤル! こんな面白いことやるなら、ちゃんと呼んでくれないと!」


 オタガミはうきうきしながら今後の展開を思う。言葉は不満の単語だったが、そこに負の感情は一切感じられなかった。言い方的には、友達と話している感覚に近い。


「……どこでこのことを知った。誰にも話したつもりはないぞ」


 ゼウスの警戒心丸出しの声が響く。それもそのはず。ゼウスは今回の件は他の神には口外せず、一人で押し進めた計画だった。それをどこから仕入れたのか、目の前の神はここにいる。警戒しないはずもない。


「安心してよ! 他の神には言ってないから!」


 オタガミは何かを察したのか、またも底抜けに明るい声を披露した。ゼウスの警戒など気にも留めていない様子。全知全能の神であるゼウスのオーラをものともしていないところを見ると、彼が神である可能性は高まった。


「本当だろうな」


「ほんとだってば!」


 威圧的な言動にも明るく返すオタガミ。ゼウスはひとまず信じることにした。信じるしかなかった。既にバレてしまってはどうすることもできない。ゼウスは仕方なく同席させることにして、監視することにした。隣にいれば少なくとも、変な動きを見逃すことはない。そう考えたのだ。


 そうしてゼウスは深く腰掛け、一息ついた。チラッと横を見ると、楽しそうに画面を眺めるオタガミの姿。今すぐに何かを仕掛ける様子はない。ひとまずは安心した。


 しかし、さっきからずっと気になることがある。何故バレたかはもうこの際どうでもいい。それ以上の関心事が一つ。


(しかし、こんな神いたか?)




「ゼウスめ。警戒心を煽るようなことを言いおって」


 ネリムはゼウスの意味深な発言に文句を垂れる。彼が今恐れていることは、他の惑星の者が自分に対して警戒心を強めること。屈強な戦士の中に居る自分は、ただでさえ異様に見られていることだろう。だからこそ、さらに警戒されることは避けたかったのだ。


「いや、今はそんなことより……」


 ネリムは考えることを一度やめ、画面の方を見た。画面に映し出されているのは空、ではない。突然仲間たちの下へと飛んできて、煙の中に身を包む「何か」。今はそれが一番気になる事だった。


 他の惑星の者たちの関心もいずれそこに向くことだろう。仲間たちが対峙すれば画面に映し出された謎の正体について、興味を引かれるはずだ。今、それを視認できているのはリープ軍とグリン軍のみ。


 画面に映し出された砂煙は揺らめき、影を作った。




 こうして、それぞれの思いと願いが交錯する「惑星代表争奪戦」は幕を開けた。


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